ご覧の一台は、東京・豊島区で CHOP STICK CHOPPERS を営む山口和俊の愛車だ。年式・型式を問わずハーレーを扱い、カスタムにも力を入れる同店だが、お客さんを引き連れてのツーリングも定例行事。一泊二日の近場だけでなく、目的地が九州に設定されることもある。そしてどこであろうと店主はこのナックルで走る。ポイントが遠ければ遠いほどテンションが上がる。山口はそんなタイプのバイク乗りでもある。
「ナックルはいいよ」
ことあるごとに耳にする彼の口癖も、このナックルとの20年を超える付き合いを知れば、これはもう納得せざるを得ない説得力がある。数発のキックで火が入り、クラッチも調律されドラムブレーキの制動力もなんら不安なし。主の体格にピタリと合わせたというコンパクトな車体は、喧騒に包まれた東京をキビキビ走るには好都合だ。「ナックルはいい」の真意を試乗後に再認識。
「ロッカーカバーの造形とかさ、やっぱりたまらないじゃん? それが魅力の大半かな。でもナックルって、今や普通のひとが買える値段じゃない。純正度にこだわればなおさらね。でも左右のケースがマッチングじゃなかろうと、フレームとエンジンの年式が異なろうと、調子良く走ればオレはいいと思う。飾り物じゃない。あくまでもバイクだからね」
生粋のナックル狂。しかし純正原理主義にあらず。このナックルにしてもさまざまな年式のパーツを寄せ集めたバスケットだ。ただし調子は抜群、そして妙に速い。山口の「ナックルはいい」という言葉には、希少価値という要素は含まれていない。そこにあるのは古めかしい機能美と走行性能だ。
「メカニズム的に見れば、確かに勘所を押さえないと調子は出ない。ただナックルならではのウィークポイントを把握して、それを対策すれば滅多に壊れない」
主とともに刻まれた歴史。バイク屋のオヤジの分身である。