「カスタムのオーダーを頂いた際、常に心掛けていることがある。それはお客さんがどんな要望を持っているかを正確に把握するということ。これは入念に打ち合わせをするしかなく、さらにいえば製作前に決めたオーダーをそのまま踏襲せずに、途中過程でもその都度ディスカッションを重ねる。フルカスタムになると少なくとも数ヶ月は必要だし、数ヶ月あればお客さんの当初の意向も変化して不思議は無い。例えばはじめはエイプにしたいと思っていても、外装があがってみればドラッグバーのほうが……なんてことは多々あります。もちろんお客さんにも時間を作ってもらわないといけないのですが、最終的なお客さんのイメージと完成車との差異が少ないほど喜びは大きいはずだから、ボクはこの方法がベストだと思うんです。メカの仕事は結局どれだけお客さんを満足させるか、それで決まるでしょう」。
伊藤毅。普段は気さくなメカニックの、その実胸に秘めたるプロ根性。バラバラの状態で持ち込まれたバスケット状態のパンヘッドも、先述のマナーを経てフィニッシュされた。65FLのモーターは全バラされストックスペックで丁寧にプリペア後、H-D GENUINEのウィッシュボーンフレームに搭載。オンオフのエクステリアやハンドル/マフラーはオーナーとの度重なるディスカッションの末に決定されている。パーカライジング処理のパーツをさりげなく要所に配しているのもポイントだ。
「クリアランスをキツめに組んだエンジンだからならし運転はシビアです。楽しみに待っているオーナーのために一日も早く納車したいけど、慣らしまでは自分の仕事ですから……」
H-D内燃機リペアのエキスパートである師匠のオールドバイカー・ヒロ川口から継承したマナーも投影される、若きプロフェッショナルの手掛けたチョッパーだ。オーナー/藤田敦