カリフォルニア州アズサにてマイペースな創作活動を続けている木村信也の最新作である。まだペイントが施されていない状態だが、アウトラインからでも一筋縄ではないイメージは伝わるはずだ。じっくりと鑑賞していただきたい。
「久々のチョッパー製作だったから、楽しみながら作ったんだよ。でも実は当初のオーダーは典型的な60~70年代のチョッパーだった。まぁそれをそのまま作るってのもつまらないでしょう?」
昨今多くのビルダーがかの時代の「典型的」なチョッパーを考古学者のように研究している様子に辟易したという木村は、「もしも自分が当時のチョッパー屋だったらこんな感じで作るだろうなぁ」というコンセプトへ……天邪鬼な一面は健在のご様子。同時にこれは過去のムーブメントの発掘に躍起になる昨今の風潮に対するこの男なりのアンチテーゼでもある。
カスタム=独創
ゼロエンジニアリングにいた頃の木村信也のこのポリシーは、すっかりと大陸に馴染んでしまった昨今も変わらない。いやむしろ、彼の独創性は新天地の中でさらに磨きがかかっている。自分のイメージを忠実に具現化するために、それこそすべての素材を吟味しボルトひとつから作り上げていく。すべての車両をそんなスタンスで製作するアメリカ在住の日本人ビルダー。
制約の少ない環境に身を置き、創作の本質を自問自答する日々……。アズサの工場はのんびりとした空気が漂うが、例えば深夜人知れず創作に没頭する木村の姿は、時として鬼気迫るものがある。
今から50年後、電動モーターのスクーターに乗る人々がこのナックルを見たとき、一体何を思うのか……。彼らの反応をこの目で確かめることができないのが残念でならない。肉体は滅びても、木村信也の作り上げたモーターサイクルは時代を超えてゆくのだから。