ヒッピームーブメントに代表される1960~70年代のカウンターカルチャーに多大な影響を受けた三重のVIRTUOSO代表、宮浦努。ショップオープン12年目を迎える今でも一貫して、当時の世界観を念頭に置いたカスタムを手掛けている。
前後21/18インチの絶妙なバランスからなる1975年式XLH。見せ場はコルゲート・パネル(波板)と呼ばれる鉄板で構成された圧巻のフォルムだ。
「僕は決して器用ではない。だけど思い付いた物は実際に現物を見てみたい。だから結局は自分で作るしかないんだ」
コフィンタンクのサイドにあてがった波板は、メッキが綺麗に乗るよう溶接跡を徹底的にスムージングするのに苦労したと言う。オイルタンクも然り。また同デザインのエンジンロッカーカバー/キックペダル/ポイントカバーなどの鉄板を使えない部分は、無垢の鉄をフライスで削り出し製作。曰く、「引き際が分からないから全部やってしまう」という性分からチェーンガードやバッテリーカバーに至るまで、その拘りは発揮される。
1960年代後期をイメージしたスタイリングにはアリス製ヘッドライトを3連で装着。リアフェンダー一体のシッシーバーが見ものだ。キャッツアイを含めすべてをスチールモールディングし、シッシーバー表面とひし形に開けた空洞部の縁までを波形に加工。さらにはハンドルやマフラーと、執拗なまでのディテイルワークでマシンの完成度を高めている。
ストックのエンジンにはミクニVMキャブをダブルで装着。見かけのインパクトとは裏腹に、セッティングの出たマシンは軽快かつ、やさしく伸びやかな乗り心地だ。それはどこか乗り手を陶酔させる不思議な力をも内包している。
旅や幻覚作用の俗称でもある“TRIP”。そして当時の象徴的ロックバンド、The Grateful Deadの名曲“RIPPLE”。このマシンには、かの時代へのオマージュを込め“TRIPPLE”という名が冠される。