「あるべきところに、あるべきものがある」
ご覧のカスタムを一言で表現するなら、最終的にはこの言葉にたどり着く。定番のマスタングタンクにフラットフェンダー、リジッドマウントのソロシートにドラッグバー等どこにも違和感はなく、むしろ美しい。前後ウインカーにテールライト、ナンバーステーにナンバー灯、リフレクターまでもが「正しい位置」に設置されているという印象を受ける。言わずもがな、ロナーセイジ中村實の手によるカスタムである。
純正リジッドフレームのラインを生かしたスタンダードなチョッパー。これが主な評価であろう。もちろん間違いではない。ではスタンダードとは何か? それが冒頭の「あるべきところに、あるべきものがある」ということなのだ。ロナーセイジカスタムの生命線は正しい位置に正しいパーツを配し、そのひとつひとつを丁寧にじっくりと作り込むことにある。これがスタンダードと呼ばれるカスタムマシンに個性を宿す、唯一の方法なのだ。ウイングタイプのオイルタンクとのバランスを考え、エンド部に小さな装飾が加えられたフューエルタンク。12ミリの無垢棒をテーパー加工したリアキャリア。荷掛けフックが入るようにとクリアランスも考え抜かれたものだ。さらに手の込んだフェンダーストラットの処理や各部に配されたオリジナルビレットパーツなど、このページの写真からもその真意を感じ取ってもらえるはずだ。
限られた時間やルールの中でベストを尽くし、個性を追求する。10年20年、そして30年という時が過ぎても色褪せないカスタムバイク。決して時代に消費されるものではなく、それがスタンダードになるカスタムの真の姿なのだ。
何にも侵されず、時を越えるということは容易くない。1956年式FLEの生産台数は、わずか671台。そのうちのいったい何台が今も生き長らえ、さらにこれからの時を越えてゆくのだろう。