初期のエボリューションモデルには、シンプルな車種が多かった。FL 系には FLHT がスタンダードとしてラインナップし、XL 系にはシングルシートの 883 がベーシックモデル。そして FX 系には FXR 。数年後に発表されるダイナフレーム以前のモデルには、今も根強いファンがいる。彼らは熱狂的ではないが、フランクに付き合えるビッグツインとして、旧タイプの FX をリスペクトしているのだ。
シウンが仕上げたこの FXR は、そんな時代を知るハーレー乗りには、どストライクなシルエットではないだろうか。
少し伸ばしたフロトフォークに長めのライザーをセット。ハンドルはドラッグバーでライダーの肩幅を少し上回るほどだから、都会を流すのに好都合だ。アップライトなポジションをより軽快に演出するために、マフラーもアップ。そうそう、以前はこんなハーレーがたくさんいた。気取らないファッションで自由に走る。あまりバイクは磨かないけれど、メンテナンスはしっかりやる。実はお気に入りのペインターに頼んでフレイム塗装してもらったガソリンタンク、人には言わないが宝物なのだ……。
おっと、このカスタムを見ていたら、気持ちが 20 年ぐらいタイムスリップしてしまった。なんだか懐かしいのである。現代において、そんなテイストでバイクを仕上げる松村氏に話しを聞いてみた。
「若い世代がね。80 年代から 90 年代の写真に食いつくんですよ。“ちょっとダサイかな”ぐらいのカスタムというか、ガレージチョッパーみたいなやつにね。僕らは普通に見過ごすような感じでも、若い彼らには新鮮なんだね。バイクって、古いとか新しいとかじゃないし、チョッパーって何なの?という問いに実は答えなんかない。まぁ僕は僕の答えがあるんだけど、それはビルダーとしての答えだからね」
これはどこから見ても FXR である。当時のノーマルハーレーが持っている少し男臭くて油くさいムードや、それを乗りこなすライダーの人柄まで想像してしまいそうな、人間味溢れるカスタムだ。それは懐かしくもあるが、実はライダーがオートバイに求めている不変のイメージを表現しているようでもある。