ECMと呼ばれるコンピュータが頭脳の役割をはたす現在のスポーツスターは、いわゆるフューエルインジェクション仕様とされるモデル。アメリカ以上に厳しい排ガス基準値を設けた法規制から、日本ではこのECMの設定が基準値をクリアするよう書き換えられ、その分、本来のエンジン性能はかなり抑えられた状態で販売されている。
加えて、しなやかな動きを見せる国産系モデルのものとは比べるべくもないほど動きが渋いサスペンションについても、値の張るグレードアップパーツへの交換を余儀なくされることが少なくない。そんなスポーツスターに対し、東京都江戸川区のパーツメーカー『ワールドウォーク』が「コストを抑えつつも、オートバイとして楽しめるスポーツスターに仕上げるためのメニューとパーツ」を提案するという。
日本仕様に書き換えられたECMは本来のパワーをセーブさせ、同じく日本仕様のノーマルマフラーもエンジンから排出される排気を抑える作りとなっている。元々パワフルな走りを楽しめるモデルではあるが、実際に乗ってみるとトルクや鼓動感、加速に違和感を覚える原因はここにある。Vツインエンジン本来の力を引き出そうと考えるなら、この「インジェクションへの手入れ」と「マフラー交換」という項目を検討するところから始まる。
こちらは2008年式XL1200Rをベースに、❶ノーマルマフラー&インジェクション書き換えせず、❷WW製アンリーシュパワーマフラーへ交換(インジェクションは書き換えせず)、❸WW製アンリーシュパワーマフラー交換とWW製インジェクションコントローラーで調整、という3パターン別にパワーチェックを行なった結果。
ノーマルの赤いラインより他の2つのラインが上昇しているのは明らかで、インジェクションコントローラーでセッティングを変えると、さらにパワーが引き出されているのが見て分かる。特に顕著なのが、ラインの滑らかさ。ラインがガタついていないということは、スムーズにパワーが引き出されている何よりの証拠だ。
乗り出して間もなく、違和感を覚えた。高回転域での走行は実にスムーズなのだが、どうも中低速(2~3速)あたりの動きがギクシャクするのだ。よくよく調べてみると、インジェクションコントローラーでのセッティングで排出されているガスが薄めだったようで、早速ガスの量を濃いめ(WW推奨はノーマル状態からの40%増)にしてみる。するとどうだ、魔法でもかけられたかのようにアイドリングが安定し、先ほどのギクシャク感を消し去るとともにマッシブなボディにふさわしい、地を這う走りを味わわせてくれた。ドルルルッ! というハーレーらしい排気音と鼓動を生み出しているのは、WW製アンリーシュパワーマフラーとの組み合わせによるところが大きい。また、この力強い発進とは裏腹に、ストップ&ゴーやコーナーが多い街中でも気持ちよく取り回せるようになった。
左のサイドカバー横に設置されるインジェクションコントローラーは、縦軸が「燃調」(+で濃く、-で薄く)で、横軸が「回転軸」(500回転刻みでRスイッチが足し、Lスイッチが引く)となっている。実際に自分でセッティングを変えてみたが、その変化は走り出して間もなく感じ取れるほど。噴出されるガスが濃いほど、ある程度までエンジンのパワーを引き出すことができるのだが、一方で燃費が悪くなってしまうことも。それも使い分け次第で、高速道路を巡航する際は薄めにして燃費を抑えることも可能だ。さらに言えば、エアクリーナー交換というメニューも組み込みたいところではあるが、マフラー交換とインジェクションコントロールの是非という今回のテストに対する答えとしては、しっかりとスポーツスター本来のパワーを体感できたと言いたい。
内なるライドフィールがしっかり引き出されたとなると、当然ライディングの足腰を支えるポイントの改善が必須となる。このスポーツスターにはWW製のフロントフォークスプリング&リアサスペンションが組み込まれており、ホイールやタイヤ、プーリーなどはノーマルのまま。重量はノーマル時(260kg)とほぼ変わらず、305mmのリアサスペンション(ノーマルは336mm)とともにローダウンされているので、当初ライディングパフォーマンスにはあまり期待していなかった。しかし走り出してみると、前後ともノーマル以上にしっかり仕事をしてくれる。
試しに、いつも以上に車体をバンクさせてみても、安定感は失われず立ち上がりも思っていた以上に滑らか。リアサスペンションだけを換装するユーザーも少なくないが、しっかりとストロークしてくれるフロントフォークを手に入れれば、重量級のハーレーであってもハンドリングが劇的に変わる。それだけで取り回しが軽快になり、ライディングそのものが楽しくなってくる。ワールドウォークのチューンアップメニューは、確実にスポーツスターの潜在能力を引き出していた。
インジェクションチューンや足回りの改善など、こうしたパフォーマンスアップのカスタムについては、突き詰めると天井知らずになっていく。その一方、個人個人の楽しみ方も千差万別なので、それぞれのオーナーが自身の楽しみ方に合ったカスタムメニューを選ぶのがベスト。その点で言えば、ワールドウォークのカスタムメニューは、街乗りからツーリングまで、日常的なハーレーライフに必要な“最低限のパフォーマンス”を向上させつつ、コストも十分なほど抑えられている好バランスの内容と言えるだろう。
ハーレーらしいトルクフルな走り出しは、インジェクションコントローラーによる調整とステンレスマフラーへの交換による恩恵に他ならない。気持ちよく走れるスポーツスターはやっぱり楽しい!
前後サスペンションがブラッシュアップされたスポーツスターでコーナーを走り抜ける。バンク時の沈み込みから立ち上がりにかけて、動きが滑らかなのが好印象。ハイパフォーマンスとまではいかないが、必要にして十分な性能を備えていると実感できた。
Rider Profile
田中 宏亮
Hiroaki TANAKA
VIRGIN HARLEY.com担当者を5年務めた後、フリーに転身。現在はハーレー関連誌やモーターサイクル誌、その他ウェブサイトなどでハーレーをはじめとするオートバイ関連のコンテンツを手がける。愛車はフルチューンされたスポーツスターXL1200R改(2008年式)。
※表示の価格は2015年4月現在です
品番/wxl-13
素材/ステンレス
適合/2004~2013年式 スポーツスター全般
メーカー希望小売価格(税込)/ 5万9,800円
品番/wxl-12
適合/2007年式以降、インジェクション仕様のスポーツスター全般
メーカー希望小売価格(税込)/ 2万9,800円
品番/wxl-11
適合/スポーツスター全般
メーカー希望小売価格(税込)/ 1万5,800円
※「ワコーズ フォークオイル20番 1リットル」や「アジャスタブルフォークキャップ」などオプションパーツも
品番/wxl-10
適合/スポーツスター全般
カラー/メッキ、ブラック
メーカー希望小売価格(税込)/ 4万9,800円
※スプリングの色が選べる「カラーオーダープラン」のオプションも
ワールドウォークとして「ここまでは整えておきたい」という快適にスポーツスターを走らせるための不可欠なパーツを取り揃えました。アベレージは確実にアップさせられるようになりますが、それでも「自分だと、こういうところが気になる」といった個別の疑問がいくつかあるかと思います。そんなときは弊社まで直接電話でお問い合わせください。同じスポーツスターに乗る私がお答えいたします。
住所/東京都江戸川区南葛西2-17-2 FAX/03-5878-1897
営業/10:00-18:00(平日)、10:00-17:00(土・祝)
ワールドウォーク代表
相京 雅行
ハーレーダビッドソン
XL1200R(2008年式)所有