国道2号線沿いにあるウッディな外観の
ハーレーショップ、それが寺田モータースだ
大阪を背にして国道2号線を西へと走る。以前は京阪工業地帯の中心的存在だった尼崎だが、現在は静かな住宅地が多く、どこか落ち着いた風情がある。とはいえ、大阪の梅田から阪神電車でわずか10分。地域に根ざした熱血漢が多いという声をよく聞くほど、関西のみならず全国でも知られる情熱的な町だ。
社長の寺田史郎さんも、この地で生まれ育った。寺田モータースの開業が昭和38年なので、生まれたときからオートバイ屋の息子として育ってきたのである。
「最初はクルマ屋として開業したのですが、徐々にバイクも扱う店になりました。僕は高校を卒業して入社し、その後は僕がバイク担当、親父がクルマ担当という店でしたね」
寺田さんは中学生のころからモトクロス等の競技で出場するほどのバイク少年。その後はロードレースにも参戦して本格的にレーサーを目指そうかと考えたほどの腕の持ち主である。海外ラリーへの参戦経験もあり、その後はスポーツスターのワンメイクレースにも積極的に出場。表彰台にも上がるほど走り込んだ人なのだ。
「国産車からハーレーにスイッチしたのは1990年ぐらいですね。まだハーレーダビッドソンジャパンが存在しない時代からディーラーになりました。その理由は、やっぱり乗って楽しいバイクということですよ。乗ってみなくちゃハーレーのすばらしさはわからない。とはいえ、それまではスポーツバイクばかり乗り回していたから、最初は否定的だったんです。あんな大きなバイクのどこがいいんだってね。でも乗ってみると、これがよくできている。ハーレーは見た目から入るのだと言われますが、乗るとますますとりこになりますね。あの大きいウルトラだって、走るとすごく軽い。本当に扱いやすいんです」
寺田社長は、不定期だが自動車学校の敷地を利用したライディングスクールも開催している。ほんの少しのコツと考え方を改めることで、バイクは実に乗りやすくなるということを、広くユーザーに伝えていこうと考えているのだ。それは社長自身が高いライディングスキルを持っているからこそできるユニークなスクールになっているという。
老舗ディーラーとしてのモットーは何かと質問してみた。その答えは、「ハーレーをライディングすることのすばらしさをユーザーに伝えること」という。つまり、ショップの技術力を高め、本来の性能を徹底的に維持することと、カスタムの楽しさ、そしてツーリングの醍醐味を、広くさまざまな人に理解してもらうという内容である。
寺田モータースでは、今着々と実現化に向けて準備を進めているプロジェクトがある。それはまだ公表できないが、現在のハーレーを使用した夢の大きいプロジェクトだ。その真意は、「ディーラーでもここまで進化できる」というアンチテーゼでもあるという。
ハーレー好きの前に、とにかくバイク好き。これが寺田社長以下、このショップのメンバーに共通するキーワードである。バイク本来の楽しさを知っているからこそ、ハーレー好きにもなったのだ。そんな人々が運営しているハーレーディーラーが、寺田モータース、そしてハーレーダビッドソン プラザ伊丹なのである。
寺田モータース 代表取締役
寺田 史郎 氏
尼崎に生まれ育ち、父親から受け継いだ寺田モータースの社長を務める2代目。少年期からモータースポーツ好きで、オンもオフも得意なオールラウンダーである。海外ラリーの出場経験もあるフットワークの持ち主だが、郷土愛が深く、この地を離れることは考えたことがないという。「外を見ると中がわかる。そして愛せる」という持論の御仁。
まるでアメリカのルート66にある古いバイク屋をほうふつさせる内装。
壁面に目をやると、なんとイタリア製ハーレーダビッドソン アエルマッキが展示されている。アメリカに来ているような錯覚すら抱かせるショップだ。
本店から50メートルほどの場所に、H-D正規アパレル専門店がある。こちらも本店同様のウッディな内装で、ハーレーダビッドソンの世界が見事に凝縮されたような空間が魅力だ。
ダイナ系のラインナップにあって、もっともシンプルなシルエットを持ち、カスタムベースにうってつけのストリートボブ。ユーザー層は若い世代が中心で、チョッパー系のカスタムが主流だが、この一台はノーマルのシルエットを崩さぬまま、全体的なペイント変更を主に、少ないパーツ交換で効果的なイメージアップを測られた、大人のカスタムである。センスと技術力の高さが成し得たシックなシルエットが魅力的な一台だ。
人気モデル セブンティーツーをベースに、そのスペシャル感をさらに昇華させたカスタムとして、店長の森山さん自身が手をかけたカスタムである。基本的なイメージは壊さないまま、よりシャープなシルエットを獲得するために、もっとも苦労したのは配線の処理。ノーマルではプラスチックのケースで隠されているハーネスをすべてまとめてシンプルに改良した。ハンドル周辺もスムージングし、スイッチも小型化&移設という方法でモディファイしている。
洗練されすぎていない、古きバイク屋さん
そんな雰囲気の大切さを、あらためて知った
ハーレーディーラーは、どこも清潔感が行き届いてスマートである。この寺田モータースも、ウッディな店内のムードや明るい雰囲気、フレンドリーな接客態度と、とても敷居が低くスマートなショップイメージだった。しかし、何かが違う。最初、その違いが何なのか分からなかったのだが、社長のインタビューでその答えは理解できた。このお店は、ハーレーディーラーである前に、街のバイク屋さんなのである。メンテナンスのきめ細やかさや細心の注意、ユーザーを第一と考える点などは共通しているものの、どこか和やかな雰囲気を味わわせてくれる。「一台めは営業が売るが、二台めはメカニックが売る」という言葉が忘れられなくなった。そこまで信頼されるサービスが重要であるということが、このショップの大きなアイデンティティになっているのだと思う。