マスターズの店内には、最新型のハーレーが展示されている奥に、数々のレーシングマシンが並べられている。それはサーキット走行が前提のスポーツスターであったり、ドラッグレーサーに改造されたビッグツインであったり……という内容だ。そのなかにはお客さんの愛車とともに、スタッフの愛車も混在する。つまりマスターズは、現在でも積極的にレース参戦しているということなのである。
社長の清田典孝さんは、元々このマスターズでメカニックとしての修業を積んだ人だ。ご自身も積極的にレースに参戦し、スポーツショップとしての個性をますます強くアピールしている。しかし、それはこのショップのごく断片的な特徴なのだった。
「先代社長の河口は徹底的にハーレーを楽しんだ人でした。それは乗ることも売ることも同じです。レースだろうがツーリングだろうが、なんでも思い切りお店ぐるみで楽しんでやっていた。僕はそんなショップでメカニックとして働いていたんですから、骨の髄までそのポリシーが染み込んでいます。だからマスターズは、昔も今も基本的なスタンスに何も変わることはないんです」
先代河口社長の急逝。あまりに急な出来事だったので、引き継ぎというプロセスもなく社長に就任した清田さんだったが、誰よりもマスターズを知る男として、すべてを背負う決心はすぐについたという。
「創業時のスタッフはたったの3人ですよ。当時の僕はまだ19歳で、このお店の客だった。市内にあった店に就職したのは創業から3年めぐらいですか。当時はハーレーだけでなくさまざまなバイクを扱っていましたね。僕が乗っていたのはショベルで、その後パンヘッドに乗り換えました」
当時は、まだハーレーそのものを見かけることも珍しい時代。ましてやヴィンテージモデルなど、手に入れることもままならないはずだ。清田さんは、20代の前半からずっとハーレーフリークなのである。
MASTERS
代表取締役社長 清田 典孝 氏
マスターズのメカニックとして20年。腕も遊び心も誰より強い。ポリシーは、「遊びを育てる」こと。
2014年はハーレーのレンタルや月極めパーキング。本格的なインジェクションチューニングもスタートさせる予定だ。
ハーレーの正規ディーラーになる以前は、さまざまなスポーツバイクを扱うカスタムショップとしての顔を持っていたマスターズ。現在の場所に移転し、ハーレーディーラーとして活動するようになっても、当時隆盛を極めたスポーツスターカップ(SSC)に積極的に参戦するなど、その手腕を遺憾なく発揮。清田さん自身もその頃がレースデビューとなり、レーシングライダーとしても活躍。通常業務はもちろん、お客さんのレーサーを手がけるメカニックとしても超多忙な日々を過ごしてきた。
「スポーツスターカップは終了しましたが、レース熱は全然冷めないですね。それは僕個人としても、ショップとしても、九州はオートポリスというすばらしいサーキットがあるし、イベントレースは相変わらず盛んですよ。それにドラッグレースも面白い。ハーレーの楽しみ方を広範囲に表現する上でも、このスポーツマインドは捨てることがない、というのがマスターズだと思います」
マスターズのスゴいところは、これだけレースに力を入れているショップであるのに、毎月のツーリングで集まる人数も50台以上にもなるというところだ。毎年、夏にはアメリカ本土のツーリングも企画し、ツーリング好きな参加者をおおいに楽しませている。
ハーレーの楽しみ方を広範囲に表現する。ユーザーを楽しませなくてはショップとしての存在意義はない。これは先代社長 河口氏から受け継ぐ、マスターズのポリシーだ。スタッフみずから積極的に楽しまないと、ユーザーには伝わらない。だからこのショップのスタッフは、数多くレースに参戦し、積極的にロングツーリングも企画するのである。
「ポリシーは何も変わりませんが、新しいことにはどんどんチャレンジしていきますよ」
ハーレーは、すべてのモデルがインジェクション吸気となった。チューニングやセッティングが得意のマスターズだからこそ、インジェクションチューニングも「これから積極的に実施しなくてはならない項目」と考えており、現在の社屋隣に新たな設備を建築する予定だという。それは、ダイノジェット社のシャーシダイナモ『ダイノマシン』。実際の走行条件を満たすための負荷を与えるリターダー付きの装置を防音の完璧な大型コンテナに収納し、その隣には40台のハーレーを預かれる屋内パーキングスペースも確保するという。
「監視カメラは6台設置して、セキュリティも万全に対策します。預かる料金は、1台に付き毎月10,000円~15,000円ほどという設定ですね。都会に住むユーザーは大切なハーレーの置き場所に困っているので、是非利用していただきたい。現在予約受付中で、来春5月から実際に稼働します。ダイノマシンについては、5~6月ぐらいですね。現代のハーレーを、よりハーレーらしくすることができると思いますよ」
マスターズは、いつ訪れても元気がいい。それは社長が清田さんに変わっても、まったく同じ雰囲気だった。取材日は平日の午後だったのだが、このショップには途切れることがなくお客さんが訪れる。そしてその誰もが朗らかで、明るい印象だったことが印象的だった。
イベントは、ツーリングの他にも内藤技研の内藤 学氏によるファーストエイドセミナーなども企画。海釣りが目的のショートツーリングなど、ユニークなイベントも数多いという。
“ハーレーの楽しみ方を広範囲に表現する”、“ユーザーを楽しませなくてはショップとしての存在意義はない”――脈々と受け継がれるマスターズのポリシーは、清田社長のみならず、スタッフひとりひとりにも注がれている。今回そのスタッフと彼らの愛車をご紹介するわけだが……彼らの笑顔とカスタム ハーレーを見れば、日ごろからどれだけハーレーを愛しみ、味わい尽くしているかは一目瞭然だ。このショップに愛車を預けるオーナーは、間違いなく幸せ者である。