元々船舶を係留するチェーンやアンカーなどを手がけていた衣川製鎖工業がバイクの盗難防止用ロックに携わるようになったのは2001年のこと。バイク盗難被害を受けたライダーから「絶対に盗まれないロックを作って欲しい」と言われたのだが、社内にバイクのことを知る人間は皆無だった。それでも「新しいことに挑戦してみよう」と、バイクのこと、そして盗難事件についてイチから調べ上げ、ロック製作に取り組んだ。
「絶対に破れないロックなど、この世には存在しない。それでも3分間破れなければ窃盗犯も諦める。それが2001年当時の常識でした。 しかし我々は、その一般論の上を行く防犯ロックを作ることにしたんです」
そう語るのは、衣川製鎖工業の衣川良介社長だ。被害に遭ったライダーから要望を聞いて図面を引き、試作品を作成しては改善点を修正するなど、試行錯誤を繰り返した。結果、「10分間の耐性」をベースにした防犯ロック『かてーな!!』が誕生した。
「切れない鎖はない――この事実は覆りません。しかし、さまざまな策を講じて簡単に攻略できなくすることはできます。その時間が長ければ長いほどいいんですよ。窃盗犯がもっとも嫌がるのは、攻略するまで時間がかかる防犯装置ですから」
防犯上、『かてーな!!』シリーズの内部構造を解説するわけにはいかないが、衣川社長から直接その構造を教えてもらうと、なるほど確かに一筋縄ではいかないつくりになっている。従来のチェーンロックの弱点ともいえる接続箇所には、二重三重のトラップが仕掛けられており、『かてーな!!』シリーズで破られたのはただ一度だけ。廃盤となった『かてーな!!ミニ』だが、破錠された状況を検証した結果、このコンパクトサイズのロックでさえ破るのに約1時間30分を要している。現在衣川製鎖工業が世に送り出している最新の『かてーな!!』シリーズは、この経験を糧にさらなる改良を加えたものばかり。衣川社長をはじめ、“鎖屋のプロ”を自認する社員全員が、自信に満ち溢れた目で訴えかけてくる。
「我々は長年培ってきた経験から、鎖というものの構造を知り尽くしています。窃盗のプロが相手ですから、こちらも防犯のプロとしての対策を提案しなければなりません。そのひとつの形が『かてーな!!』シリーズです」
しかし何より重要なのは、ライダー個々の防犯意識だと衣川社長。 「盗られてから、では遅いんです。盗られる前の対策を講じることで、愛車との時間をより長く共有することにつながるということです」『かてーな!!』シリーズだけでなく、特注ロックのオーダーも受け付けている衣川製鎖工業。“鎖屋のプロ”が持つノウハウが生み出したロックは、愛車を守りたいと願うライダーの想いに応えてくれるだけの力を発揮してくれるはずだ。