巷で噂のK&H製シート。疲れない、乗りやすい、タンデムライダーが喜ぶ、いろいろな高評価を耳にするけれど、どんな製法を持って高い評価を勝ち得ているのか。シート作りの全行程を調査し、徹底分析を試みた。
K&Hのシートを紹介する際には必ず出てくる言葉「インジェクション製法」。スタッフの上山氏曰く「ウチは楽しく、永くバイクを楽しめるシート作りをテーマにしていますが、それにはこの製法が欠かせません」。インジェクションとは「注入」という意味で、シート型の中に特別配合のスポンジ原料を流し込み、発泡させて成型する方法だ。
流し込むスポンジ原料の材質と流し込み方法、製作時の気温と湿度、スポンジを流し込むシート型に至るまで、K&Hが今まで培ってきたノウハウを基に決められている。そのすべてが組み合わさり製作されるのがクオリティの高いシートというわけだ。今回は「快適」、「疲れにくい」などと評されるK&Hのシートの秘密を「インジェクション製法」というテーマに絞り、いくつかの角度から検証してみたいと思う。
通常のシート製作では、スポンジの板を何層も重ねていく手法が中心だが、この製法はスポンジ同士を接着剤で張り合わせるため、長期間使用するにつれ接着面が剥がれてくる悩みがあった。そこでK&Hシートは、型の中でシートベース(スポンジの下にあるFRP製の底板)とスポンジが一体になるよう作る手法を採る。これは、シートベースとスポンジが、隙間なくしっかりと密着し、永く使用しても両者を剥がれにくくするためだ。
継ぎ目のない、シートそのままの形をした無垢のスポンジの塊なので、重ね合わせる手法のように剥がれることはない。また、インジェクションスポンジは、発泡時の圧の関係でスポンジの粒が揃い、シートにかかる重さを偏りなくスポンジに伝えるのでヘタリにくく、永く愛用できる製品になっている。
シートを製作するときに、スポンジ同士は接着剤で張り合わされる。「スポンジを張り合わせる製作方法はシートのクッション製に疑問があります」。なぜなら、シートに荷重がかかると「スッ」とスポンジは沈むが、接着剤の部分に荷重が達すると、クッション性が一度絶たれ、それ以上はなかなか沈まなくなってしまうからだ。
しかし、スポンジを重ねず、接着剤が使用されることがないインジェクションスポンジを使用することで、荷重がかかったときに「ググッ」と綺麗に沈み込むシートになる。またインジェクションスポンジは、発泡する際の「圧」の力でシート外周部のスポンジ密度が高く、中心に近づくほど密度は低く発泡する特性がある。内外のこの「粒の細かさ」の違いが、K&Hシートの「弾力」と「柔らかさ」を実現しているのだ。
一般的なシート製作では、スポンジをシートの形に合わせ裁断し、形を整える必要がある。例えどれほど丁寧に作業を行ったとしても、表面にはムラができてしまい、美しくはならない。「レザーの下だからいいのでは?」と思う方もいるかもしれないが、K&Hはあえてそこにこだわる。
インジェクションスポンジは乗り心地から語られることが多いが、実は見た目が美しいというメリットもある。もちろんシート表面に凸凹がなく、綺麗に仕上がるのはインジェクション製法の恩恵だけではない。シートの内面の作り込みに工夫を凝らすからこそ、美しい逸品を作り上げられる。インジェクション製法に「プラスα」の工夫を加え、細部にまで徹底してこだわったものだけが、K&Hの称号を戴くことを許される。
型で一体成型されたスポンジはさらに一手間をかけ、レザー張りが行われる。レザーを張る前に、型の隙間部分にできるスポンジの薄いヘタを切り取り、シートベースの磨き込み作業が行われる。
「初めて手に取ってもらったときに『いい仕事しているなぁ』と喜んで欲しい。機能性だけではダメ。お客さんに喜んでもらうことも手を抜いてはダメなんです」。
レザーを張ってしまえば見えない部分だけれど、そんな部分まで手を抜かず作り込まれている。このように、シートが完成するまでに、幾度となく人の手が入る工程があり、機械では実現できない仕上がりを、手間隙かけて実現している。K&Hが支持されるのはこんな姿勢が評価されているからなのだろう。