取材協力/FORK 取材/HOTBIKE japan.com編集部
掲載日:2012年3月30日
上の写真の左がヘッドからのブローバイガスのオイルを分離し、未燃焼ガスを再燃焼させるOSRベースプレート。右はその構造が良く分かるようにアクリル板が張り込まれたOSRベースプレートのサンプルモデル。左の写真は、OSRベースを含むこのエアクリーナーシステムが2011年11月18日の登録で特許を取得した証となる特許証。
コンパクトかつスタイリッシュに収納
──ヘッドから排出されるブローバイガスのオイルを分離し、未燃焼ガスを再燃焼させるOil Separetor & Recirculation(OSR)ベースが組み込まれたMulti Face Air Cleaner Kit(MFAC)を発売されて1年くらいだそうですが、まずはその開発のキッカケを聞かせて下さい。
長谷川努(以下H) ずっと昔から92年以降のEVOモデルのエアクリーナーシステムに疑問を持っていたんです。とても機能的と言えるものではなく、ごちゃごちゃしている割にはブローバイガスが大気開放だったり、エアクリーナーの中に戻してもオイルでベタベタになったりするので、この問題を何とかできないかと。スッキリとしたパッケージングでオイルも分割できるという理想の仕組みを構築できないかと考えるようになったのがキッカケです。
──それはいつ頃の話しですか?
H 今から3年半くらい前の話しです。FORKをスタートしてすぐに構想を練り出しました。
──商品化にはどれくらいかかりました?
H 手を付け出してから結局2年半ぐらいかかりました。今のこの商品も大きく分けて4代目くらいで、型を作ったのに商品にならなかった物も数多く存在します。
──システム的にFORKのオリジナルなんでしょうか?
H そうですね。たたブローバイガスのオイルを分離する仕組みは一般的なものなので、このMFACのキモはキャブレターとエアクリーナーの間の狭いスペースに分離層を配置し、コンパクトにまとめあげたという点が最大のポイントとなります。例えばオイルのチャッチタンクを外に設けるというシステムは他にもたくさんあります。大きなエアクリーナーの中に仕組みを盛り込むのだったら、もっと簡単なんですけどね。限られたスペースでこのシステムを実現することが今回のミッションでした。OSRベースを含むこのエアクリーナーシステムは2011年11月18日の登録で特許を取得しています。
左上の写真で長谷川さんが指差しているのが、エアクリーナーベース上部のS字型通路。この部分は流速を上げるために細く設計してあり、速いスピードでブローバイガスをカーブにぶつけてオイルを分離する。右上の写真はエンジンヘッドからのブローバイガスが通るようにホールが設けられた取り付け専用ボルト。
デザインにもこだわったMulti Face Air Cleaner Kit。エアクリーナーカバーシェルは上段のポリッシュと下段のブラックの2タイプ。デザイン的アクセントのインサートにはFin(左上)/Fin Black(左下)/Bar(右上)/Dia(右下)の4タイプが用意されているので、マシンに合わせて好みで組み合わせることができる。
インサートはお好みで(左上)。国内メーカーで製作されたエアクリーナーエレメント。メンテナンスは拭く程度でOK(右上)。透明シリコンチューブに耐熱メッシュアウターを被せたホース状キャッチタンク。目視でオイル量を確認可能(左下)。キャッチタンクはVバンクの間に挟み込んでおけば違和感なし(右下)。
『Multi Face Air Cleaner Kit』の仕組み
──ではMFACのシステムを説明してください。
H まずは適合モデルですが、シリンダーヘッドからブローバイガスを出すモデルが条件となります。92年以降のEVOビッグツインと91年以降のEVOスポーツ、それとツインカム96までのモデルで、純正のCVキャブか純正インジェクションシステムに適合しています。もちろんボルトオンで装着可能。ヘッドから出たブローバイガスが、まずはエアクリーナーベース上部の細い通路に流れ込みます。ここは流速を上げるために細く、そしてブローバイガスに混ざっているオイルミストを分離するためS字型に設計してあります。速いスピードでブローバイガスをカーブにぶつけてオイルを分離するという仕組みです。
──まずは第一段階のろ過システムというわけですね。
H そうです。細いS字型通路の出口は壁側に向けてあるので、ここでもブローバイガスを壁にぶつけてオイルを分離することができます。次に下部の広いスペースにブローバイガスが入ってくるわけですが、急にスペースが広くなるので圧が抜けて流速が急激に落ちることになります。ここで比重の高いオイルが下側の壁に張り付き、未燃焼ガスは上の小窓に押し出され、再びキャブレターに吸い込まれて行くことになります。この小窓には念のためオイルが上がってこないようにネズミ返しのような段差を付けています。走行中はこのプレート内の気体も動いているので、オイルも流動的に壁に張り付いている状態なんですが、停車すると重力でオイルが下に落ちてきます。最終的には中央のドレンからホース状のキャッチタンクにオイルが流れ込むという仕組みになっています。詳しいブローバイガスの流れは下のアニメーションを参考にして下さい。
──ホース状のキャッチタンクの素材は?
H 透明のシリコンチューブに耐熱のメッシュアウターを被せています。エンジンVバンクの間に挟み込んでおけば違和感はないと思います。目視でオイル量が確認できるので、溜まっていればドレンからオイルを抜いて下さい。
──オイルチェックのサイクルはどれくらいですか?
H エンジンの個体差があるとは思いますが、感覚的には季節の変わり目にオイル交換をするとすれば、そのサイクルでチェックしてもらえばいいと思います。あまり多くのオイルが溜まるようであれば、それはエンジンの不具合が考えられるので一度しっかりとチェックした方がいいでしょうね。OSRはエンジンの不具合に対処するための対策パーツではなく、あくまでも通常範囲内のブローバイガスのオイルと未燃焼ガスを分離するためのシステムなので……。
──エアクリーナーエレメントもオリジナルですか?
H そうです。国内で専用に製作しています。洗うこともできますが、オイルが付着しないので軽くブローする適度でOKだと思いますよ。
──デザインにもこだわりが隠されていますよね。
H もちろんです。エアクリーナーカバーシェルがポリッシュとブラックの2タイプ。デザイン的アクセントとなるインサートにはFin/Fin Black/Bar/Diaの4タイプを用意していますので、お好みで組み合わせることができます。91年以降のスポーツスターについてはインナーカバーを使って純正カバーに組み込むキットも用意しています。ブローバイガスの大気開放について環境問題的に疑問をお持ちの方も多いと思います。OSRシステムはオイルを燃やすこともないので非常にクリーンなシステムと言えます。長くハーレーに乗り続けるためには、やはり環境についても考えて行くべきだと思っています。
サンドキャストパーツ特有の質感に魅せられたFORKのデモマシンにはワンメイクのパーツも取り付けられている。フレームメインチューブに吊り下げ式のフィーエルタンクや曲線が美しいオイルタンクなど自由な発想から生まれた逸品である。彫金が施された定番のラウンドエアクリーナーも魅力的だ。一点モノゆえにコストはかかるが、その満足感は大きい。
ゼロからのスタート
サンドキャストパーツに特化したFORK。金型よりもコストを抑えることができ、比較的少ないロットでも採算を取ることが可能、かつデザインの自由度も高いというサンドキャストならではの魅力を彼に伺った。
「少しザラついた質感がサンドキャストの大きな魅力だと思います。僕は個人的に古いモノが好きなので、このオールドパーツ風の質感に惹かれるんです。つまり自分の考えたパーツのアイデアを具体的なカタチにする方法の中でベストな選択がサンドキャストだったというわけです」
メカニックとしてのキャリアは持っていたものの、鋳物パーツについての詳しい知識やノウハウはまったくなかったという。FORK立ち上げと同時に知り合った、熟練の鋳造業者にいちから教えてもらいながらもう猛勉強。基本となる型の作り方についても模索の日々が続いた。まさにまったくゼロからのスタートであった。
熟練の鋳造職人の手により、砂型にアルミが流し込まれた状態。このあと砂型からパーツが取り出される。
鋳造業者の工場にて木型の状態をチェックする長谷川さん。この木型から鋳物パーツが生み出されるわけだ。
砂型から取り出されたばかりのFORK製パーツ。まだ砂やバリが付いている状態でこの状態から仕上げに入る。
スタンダードになりうるデザイン
FORKのパーツラインナップはダービーカバーやポイントカバーなどのカバー類の他に、吸気系のエアクリーナーやCVキャブ用のトップカバー、さらにハンドルバーやライザー、ヒートガードなど多岐に渡っている。まずはデザインを製作し、それを木型に落とし込み、パーツ製作は鋳造業者に依頼。熟練の職人によるサンドキャストパーツ製作の行程は左の動画で確認していただきたい。
FORKが最も気を使っているポイントは、そのシンプルなデザインだという。「もちろん派手なパーツは魅力的なのですが、僕は極力デザインを見せないようにしているんです。決してやり過ぎないこと。スタンダードになりうるシンプルなデザインとは、何年先に見ても魅力的に感じるモノだと思います。パーツが個性を主張するのではなく、バイクに溶け込むのが理想。究極のスタンダードが僕の求める最終形です」。
FORKの処女作はシンプルなポイントカバーであったが、納得できる仕上がりではなく売り物にはならなかったという。クオリティーの飽くなき追求。この精神なくしてFORKを語ることはできない。
モーターサイクルDENとのコラボレーションで実現したAuthentic Air Cover。シェルとベースの2ピース構造で取り付けボルトが付属する。S&S製Eキャブに適合。
EDGEモーターサイクルサービスとのコラボパーツ、CVキャブ用のTop Cover。純正のプラスチック製から鋳物カバーに交換すれば、キャブのイメージが激変する。
シウンクラフトワークスがデザインを手掛けた4速ドライクラッチ用のClutch Dome。純正3スタッドと社外5スタッドの両方に適合。ステンレス製ロックナット付属。
新作となるDiaデザインのDerby Cover&Point Cover。三分艶ブラックに凸部のみヘアライン仕上のタイプとポリッシュモデルがラインナップ。ボルトは純正を使用。
究極の裏方
FORKでは全国のカスタムショップとのコラボレーションパーツも積極的に手掛けている。モーターサイクルデンとのディスカッションにより復刻された、故佐藤由紀夫氏がデザインを手掛けたティアドロップ型のエアクリーナーや、シウンクラフトワークスとのスペシャルコラボパーツであるクラッチドームなど、個性的なサンドキャストパーツを数多くラインアップ。コラボパーツでは通常ラインアップのパーツと違い、個性的なモノをプロデュースして行く予定。思いもつかないようなカタチやアイデアに刺激を受けることも多いという。現在は北海道のスターモーターサイクルとのコラボでスプリンガーフォーク用ハンドルクランプを製作中。さらに技術的な問題がクリアされれば、三つ又やシリンダーの製作にも挑戦してみたいというFORK。サンドキャストパーツならではの温もりある質感に、シンプルなデザイン。パーツが主役になるのではなく、バイクに溶け込み、かつ引立てるような裏方とも言えるパーツがFORKの究極の目標である。ゆえにFORKが手掛けるパーツの表面にはブランドネームは刻印されていない。
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