100年以上の歴史を誇るハーレー
1世紀の間に生まれたエンジンを知る
1984年~1999年 ヴィンテージと呼ぶにはまだ新しいが、生産終了となってすでに8年が経った。経営不振に陥っていたハーレーを救ったエンジンであり、信頼性、耐久性などあらゆる面で従来のモノから進化を遂げたエポックメイキングなエンジン。中古車で手に入れ易いのも魅力。 | 1966年~1984年 ハーレーの旧車と言えば、の定番エンジン。1200ccと1340ccの2種類があり、同じショベルの中でも年式によって仕様がかなり違っている。ナックル、パンヘッドから続いてきた設計思想の進化の頂点にあるエンジンで、現在の道路事情の中でもタフに走ることが可能。 |
1957年~1985年 英国車に対向してハーレーが開発したスポーツエンジン。コンパクトな車体サイズに、ビックツインとは一味違う荒々しいエンジンが搭載され、近年その魅力に夢中になる人が増加中。通称“アイアンスポーツ”と呼ばれ、現行スポーツスターの先祖に当たるモデルだ。 | 1948年~1965年 現行の新車以上の価格で販売されることも珍しくない、ヴィンテージと呼ぶに相応しい歴史あるエンジン。カスタムベースとしてチョップされたパンヘッドが多く、ストックに近い状態のモノを探すのはやや困難かも。少々のトラブルは自分で何とかできる経験は必要。 |
ハーレーの危機を救った
画期的なエンジン
エボリューション(以下、エボ)は21世紀のハーレーへと繋がるエポックメイキングなエンジンだ。“進化”と名づけられたことからわかるように、ハーレーはこのエンジンに大きな期待を持って開発を進めていた。実際、過去に経営難に陥っていたハーレーを救ったのはこのエンジンなのだ。従来までの「ハーレーは壊れやすい」と言ったイメージを覆したのはエボのおかげ、と言っても過言ではない。また、ショベルヘッド時代はFL、FXの2系統で分類されていた各モデルを“ファミリー”の区分で細分化されはじめたのは、このエンジンの登場からのこと。リジッドフレームのようなルックスが人気のソフテイルファミリーの登場や、ダイナローライダーを筆頭にショベル時代のFXモデルが進化したダイナファミリーなど、現在のハーレーのモデルラインナップはエボリューションの時代に形作られているのだ。
デジタルとアナログ良さを
併せ持つ、バランスのいいエンジン
エボリューションエンジンが登場した当初は“エボバッシング”と呼ばれた批判が湧き起こり、ツインカム88エンジンが登場した直後には必要以上にエボを評価する声が上がった。しかし、現在ではエボエンジンの魅力は冷静に評価され始めているようだ。エボはハーレー経営陣によるAMF社からのハーレー株式のバイバック後(1981年)、初めて登場する新型エンジンであり、メーカーの期待を一身に受けていた。新たに生まれ変わったハーレーを体現するエンジンである必要があった。それほど期待が高かったエンジンのため、ショベルヘッドの手直し程度で販売されるはずはなかったのだ。「冷却性、軽量化、メンテナンスフリー」この3点をテーマに掲げて開発されたエンジンは腰上に冷却性に優れるアルミ合金が採用されている。フィンの総面積の増加などと合わせて冷却性が高いエンジンとなり、エンジンチューニングを行うに充分な耐久性を持つに至った。ハーレーのエンジンチューニングが珍しいことでなくなったのは、ノーマルのエボの信頼性の高さが理由だと言われる。その他、エンジン精度・シール性の向上により、オイル滲みなどのトラブルが少なくなったのも「信頼性が上がった」と評価を受ける一因となったのだろう。このエンジンの登場がなかったなら、現在のハーレーの隆盛があったかどうか。そういう点では歴代ハーレーのエンジンの中で、もっともエポックメイキングなエンジンと言えるだろう。
モデルや年式によってフィーリングは違ってくるものの、一言でエボリューションの魅力で表すならば「信頼性が高く、旧車に近い鼓動を奏でる」エンジンだということ。ショベル、エボの点火系チューニングパーツは共通のモノが使用でき、ショベルに近いエンジンフィーリングにチューンすることも可能で共通点が多い。現に、初期の4速のモデルはショベルヘッドの腰下を使用するなど、ショベルヘッドの伝統を受け継ぎ生まれ変わったエンジンなのだ。エボはデジタルパーツが多く採用された最初のエンジンであり、ツインカムに繋がる新世代のエンジンではあると言える。しかし、ショベルヘッドの名残をも感じさせる“デジタルとアナログの間に立つ”バランスのいいエンジンなのだ。では、ツインカムとエボの差がもっともわかりやすいのは? これはソフテイルファミリーだと言える。エボソフテイルはエンジンがリジッドマウントのため、ツインカム後のバランサーが搭載されたTC96B、TC88Bエンジンとはエンジンの震え方、走行フィーリングが大きく違う。一方、ダイナやツアラーはエボの当時からラバーマウントが採用されていたため、ソフテイルほどエンジンの体感の差は感じられないだろう。ただし、点火チューニングなどで旧車テイストを求めていくのなら、ツインカム以上の結果が出しやすいためあえてエボのダイナやツアラーを選ぶのも手だ。エンジンが優等生になりすぎていず、旧車に近いテイストを楽しめる、しかも信頼性は高い。オーナーがエボリューションを選ぶ理由はそんなところにあるようだ。
旧世代エンジンの最終進化系
ショベルヘッドの魅力とは?
ハーレーの、戦前からのエンジン進化の歴史はパンヘッドで熟成を極めつつあった。しかし、戦後のトライアンフなど英国車のアメリカでの隆盛にハーレーが危機感を抱いた時期に登場したのがショベルヘッド(以下、ショベル)だ。アメリカを含め、世界の道路網の整備が進み、さらなる高速巡航性や信頼性を高めたエンジンが求められはじめていたのだ。ショベルは登場から販売終了まで18年の間販売され、年式によって変更点が非常に多いエンジンだ。年式が高年式になるほど、電装系や吸気システム、排気量に至るまで時代に合わせた進化が進められており、ショベルを求めるユーザーの中には年式による違いの部分に大いにこだわりを見せる人もいる。一般にハーレーの旧車というとショベル以前を指すことが多く、旧世代のエンジンの最終進化系がショベルとも言える。
年代によって違う
ショベルの走行フィーリング
ショベルヘッドの開発には先行して開発・販売されていた「ショベルヘッドスポーツスター」で培ったノウハウが活かされている。ショベルヘッドの特徴的なヘッドデザインは従来以上に冷却性を狙った結果、ヘッドが“コ”の字型となった。初期のショベルヘッドはパンヘッドのクランクケースに新開発のシリンダーを載せた“アーリーショベル”と呼ばれるモデルで、いきなりすべてが新設計のエンジンとなったわけではない。70年に電装系が大きく見直されるまでは、パンヘッドと共通点を大きく持ったエンジンとなっていたのだ。そのため、すべての部品が新設計のモノとなったショベルヘッドは70年以降のモデルのこと。60年代のショベルヘッドはパンヘッドからの過渡期にあたると考えていい。ショベルヘッドの時代のハーレーは経営的にも激動の時代だった。1969年にハーレー の株式をAMF社に譲渡し、1984年の株式買戻し(バイバック)に至るまで、モーターサイクルに縁のない企業が株主として君臨、経営陣はAMFから送り込まれた。しかし、AMFの資本参加によって、ハーレーの生産設備の近代化や社内の改革が図られた面があるのも確かだ。進化を遂げる他メーカーに対向して、ハーレーの伝統を保ちつつ、電装系や吸気システム、排気量に至るまで改善が続けられたのはこのAMF時代だったのだ。
ではショベルヘッドの走行フィーリングはいったいどのようなモノなのか。1200ccモデルと1340ccモデルで受ける印象は大きく違う。1977年まで続いた1200ccモデルでも、初期アーリショベルとキャブレターなどに変更が加えられた後期ではやや違いはあるものの、エボやツインカムに馴染んだ人からするとマイルドな印象を受けるだろう。ショベルヘッドに荒々しさ、体を持っていかれるような力強さを求めている人ならば1340ccになった最終型ショベルヘッドの方がイメージに合うかもしれない。1200ccモデルはパンヘッドなどにも通ずる、余裕を持ったパワーで落ち着いて走る“旧車らしい”フィーリングを持っているのだ。どちらのモデルにも魅力があり、それぞれに魅了されるユーザーが数多く存在する。ショベルヘッドと一言で言っても年式によって違った魅力があるのだ。また70年代に入り、従来はツーリングモデルしかなかったFLモデルだけでなく、これまでになかったスリムなデザインが人気のFXモデルも登場しはじめているので、モデル選択の幅が大きく広がっている。
車輌選びの注意点
豊富な予算と強い気持ちが必要
気軽に買えるエンジンではありません
ショベルは現行モデルの新車と同じくらいの価格で流通しています。きっちり整備されている車輌が200万円以上の価格をつけるのも珍しいことではありません。発売から何十年も経っていて、部品の耐用年数を越えていて交換が必要なパーツもあり、販売までの基本整備の手がかかるので特別驚くことではないでしょう。ショップがお客さんの元に安心して納車できる状態まで整備しようとすると、皆さんが想像する以上の手間と時間がかかるのです。それでも、100%トラブルが起こらないとは言えないのが旧車の怖いところ。現行車を新車で買うのとは違い、どれほど気を遣っても購入後に何も起こらないとは限りません。そのため、できれば何かあったときに助けてもらいやすい、自宅から近いところに信頼できるショップを見つけてください。現車の状態を自分の眼で確認し、ショップの人とコミュニケーションをじっくり取った上で、購入して欲しいですね。新車のようにどこで購入しても、ほぼ同じというわけには行かないのが現実です。また「高い車輌は買えない」と個人売買に手を出すのも否定はしませんが、車輌の状態を見抜く眼力と、いざというときに何とかできる経験が必要になってきます。納車前にお金をかけるのか、安く買って後からトラブルを1つずつ潰していくのか。トータルでかかる費用は後者の方がかかることの方が多いかもしれません。
フルオリジナルの中古車はなかなか出てくることはないでしょう。ストックに近い車輌すら珍しくなってきていますので、こだわりがあって車輌を探すならば時間がかかることを覚悟しておいてください。次にカスタム車輌を購入する際の注意点を。ストックで状態がいい調子を知るのはなかなか難しいですけれど、カスタムされた車輌はそれぞれ違った方向に味つけがされています。購入を考えている車輌はどこがカスタムされていて、どういったフィーリングに変化しているのか、ショップに質問をして、その車輌があなたが求めているショベルに近いのか、疑問な点はあらかじめ質問しておいた方がいいでしょう。展示されている状態で、何もかも満足できる状態のショベルに出会うことはなかなか難しいでしょうけれど、そんなコミュニケーションの中から「納車までにどこをどうしてもらえればいいのか」が見えてきます。ショップ側もお客さんがどんなショベルに乗りたいのか、信頼してたくさん話してもらえれば応え方が見えてくるものです。どこで買っても同じなバイクではないのがショベルの難しいところですが、コミュニケーションを密にすることが、永く付き合えるいいショベルを見つける近道なのです。
最後に購入後のメンテナンスについてですが、自分のできる範囲で愛車のトラブルへの対処法は少しずつ学んで行った方がいいかもしれません。すべてをショップに任すのも間違ってはいませんが、出先でトラブルに遭い、電話などでサポートしてもらいながら自宅に帰ってこれるくらいの知識は身に着けておいた方が安心です。旧車に乗っていればいつかトラブルには遭います。そうやって距離を重ね、自信を深めて実感できるショベルの魅力も確かにあるのです。リスク部分ばかり書いてきましたが、リスク以上の魅力がショベルにはあります。不安に思う部分を覚悟しながらも、それでもショベルに乗りたいという方。不安を打ち消す方法は経験のあるショップが教えてくれます。距離を重ねれば不安は小さくなり、ショベルで走るほどに感動が大きくなってくるでしょう。安易な気持ちで「ショベルは素晴らしいバイクだよ」と私は言いませんが、じっくり悩んだ結果「ショベルこそが心に響くハーレーだ」と感じる方には他には代えられないバイクなのです。
英国車に対抗して開発された
ショベルヘッドスポーツスター
ショベルヘッドスポーツスター(以下、ショベルスポーツ)、通称アイアンスポーツは英国車のアメリカ進出の脅威から生まれた。第二次大戦中、ヨーロッパ戦線に出征した兵士がトライアンフやBSAと言った小柄でスポーツ性の高いオートバイをアメリカに持ち帰り、ハーレーにはなかったオートバイの楽しさに夢中になったのだ。当時、世界の最先端を走っていた英国車はレースでも好成績を収め、ハーレーを脅かす脅威へと成長していた。当時、現行モデルとして販売されていたビックツインのパンヘッドやスポーツスターの前身となったサイドバルブなどでは英国車には対抗できず、新モデルの開発がスタートする。そして完成したのがショベルスポーツへと繋がった1952年のKモデルであり、Kモデルが進化した結果1957年にショベルスポーツが登場した。スポーツスターはスポーツ性に重きを置いたモデルであったため、Vツインエンジンの軸はそのままにビックツインの1カムとは違う4カムが採用、英国車にも負けないスポーツ性を手に入れた。スポーツスターのこれまでになかったコンパクトなデザインとパンチ力のあるエンジンは若者からの支持を集め、これまでのハーレーラインナップにはなかった魅力が広がりはじめる。1957年の発売から50年も経つ今も、スポーツスターは世界中のユーザーから支持を集めているが、そのベースとなったコンセプトは50年以上も前に生まれたのだ。
加速の伸びは現行モデル並み
高速走行も問題なく楽しめる
1957年に登場した初代モデルは英国車に伍する性能を持っていたものの、メーカー同士の技術的な競り合いがあったため、ビックツイン以上に早いペースで技術の進歩が見られた。ビックツインのショベルヘッドの技術開発にはショベルスポーツで培った技術が活かされ、電装系が12Vになったことやセルモーターの装備もショベルスポーツが先行で、その後ビックツインに採用されるのが当時のやり方だった。スポーツスターはハーレーの最新技術が最初に採用されるモデルであったと言えるだろう。次にスポーツスターのデザインの流れを見てみよう。現在のスポーツスターにはショベルスポーツの頃のデザインの流れは引き継がれている。しかし、詳細を見ていくと現在のモデルとの違いが多数見受けられる。現在はフロント19インチ(21インチ)、リア16インチのホイールサイズとなっているが、ショベルスポーツの頃は前後18インチのホイールサイズが採用されていた。現在のスポーツバイクは前後17インチのホイールサイズが主流だが、当時は英国車をはじめ、スポーツを謳ったモデルは18インチホイールを採用するのが一般的だったのだ。タンクのデザインには現在にないモノが存在する。ショベルスポーツはスポーツ寄りのXL、ツアラー的要素が加味されたXLHの2モデルが用意されており、初代XLはKモデルと同じラージタンクを採用。1958年に登場したXLCHにはエボスポーツにも採用されていたスモールタンクを、同じく58年に登場したXLHには当初はラージタンク、1961年からは通称“亀の子タンク”と呼ばれる大容量タンクが採用されている。
1957年の登場時は900ccだったが、1972年に1000ccへとボアアップされた。900ccと1000ccの違いは現行の883と1200の違いに近い。900ccは力強さにはややかけるものの、スムーズに上まで回る気持ち良さを持ち、1000ccはスロットルを回したときのパンチ力がより大きく感じられるエンジンだ。ショベルスポーツのエンジンフィーリングはビックツインのそれとはまったく違う。パンチ力のある加速感は何者にも変えられない魅力を持つ。体感的な速度感は同時代のビックツインより上で、現行のスポーツスターと比べても遜色はない。6500回転で180kmほどの速度が出せるショベルスポーツは現代の道路事情でも充分に楽しむことができる。もちろん長時間それほどの回転数で走るのはオススメできないが、高速での追い越し時などで不安はない。回転数によって変わるエンジンの表情の変化も魅力の1つ。4000回転ほどまでは“ハーレーらしい”と思えるフィーリングは、それ以上となるとシングルエンジンのような印象を受けるのが面白い。また、メカノイズが多い、と言われるショベルスポーツだが、仮に新品パーツで組み上げれば思った以上に静かなモノ。各部のパーツが磨耗しているショベルスポーツが多く、そのためメカノイズが多い、という印象があるのだろう。
車輌選びの注意点
タマ数が少なく車輌探しはじっくりと
年式による仕様の違いにも注意
ショベルスポーツは、ビックツインのショベルに比べると中古車のタマ数はそれほど多くありません。新車販売時に日本に入ってきたショベルスポーツの台数は非常に少なかったため、現在日本で流通しているショベルスポーツは近年にアメリカから日本に引っ張ってこられたものがほとんどだからです。しかし、(ビックツインの)ショベルヘッドと違い、アイアンの整備を得意とするショップは少なく、整備状態がよくない車輌も多いようです。購入後にある程度手がかかるのは覚悟した方がいいかもしれません。これからショベルスポーツの購入をされる方は、できるだけショベルスポーツを扱った経験が豊富なショップに相談し、納車までに状態の確認をしておきましょう。仮に不具合があるところがあるならば、どこまでメンテナンスを行うのか、予算を考えながらあらかじめ相談した方がいいでしょう。現車渡しで安く手に入れてしまい、後からトラブルに悩まされている人もおり、ショベルスポーツにネガティブなイメージを持ってしまう人がいるのが非常に残念です。確かに現行車と比べれば振動は多いものの、現行車では味わえない世界が楽しめます。調子のいい状態で乗ったならば、どんなオートバイにも勝る魅力を持つのがショベルスポーツです。実際、120km程度での巡航なら何の問題なく、スロットルを捻ればそこからの加速も可能です。いいショップと巡り合い、永くショベルスポーツと付き合っていってください。
なお、ショベルスポーツには年式によってフレームが4種類に分かれています。それぞれのフレームによる違いは、購入前にショップに確認しておいた方がいいでしょう。こちらで、お客さんからの人気が高いのは73年~78年に採用されていたKフレームのモデルです。中でも75年以降の、現行車と同じ左側でシフトチェンジをするモデルを求める人が多いですね。それ以前の右チェンジは今のモデルとシフトの感覚が違い、不安になるのかもしれませんが、左ハンドルと右ハンドルの車、そのくらいの違いですから気にする必要はありません。それ以前のモデルだと、手動進角やセルの有無、ブレーキ仕様の違いなど、一口にショベルスポーツと言っても違いがたくさんありますので、理想のショベルスポーツ探しには信頼できるショップを探し、じっくりと話し合って時間をかけてください
強かった頃のアメリカを
感じさせるパンヘッド
戦後間もない1948年、日本の4大バイクメーカーがまだ形もなかった時期にパンヘッドは登場した。この当時にハーレーはすでに創業45年を数え、戦時中はアメリカ軍に軍用車輌を納入するなど、隆盛を誇っていた。現代から見るとパンヘッドは60年近く前に開発されたヴィンテージエンジンだが、パンヘッドは創業から進化を続けてきたOHVエンジンが熟成されたモデルなのだ。1948年~65年のパンヘッドが現役だった頃、アメリカは自信に溢れた時代だった。
60年から始まったベトナム戦争で次第に社会不安が広がりつつあったものの、世界中が強いアメリカに憧れていた時期にパンヘッドは販売されていたのだ。現代のモデルと比べると、トルクフルなわけでもなく、日常で気を遣わなければならないことも多い。それでも多くのハーレー乗りを魅了するのがパンヘッドであり、ヴィンテージハーレーの代名詞の1つとなっている。
大きくわけて4世代ある
パンヘッドの仕様変遷
17年の歴史を持つパンヘッドは大まかに4世代にわけることができる。48年のみに生産されたスプリンガーフォークを装備したファーストイヤーモデル、49~57年のリジッドフレームにテレスコピックフォークを装備した“ハイドラグライド”。58~64年までのリアサスペンションが採用された“デュオグライド”。そして65年の最終年にセルモーターが採用された“エレクトラグライド”だ。48年モデル、通称“ヨンパチ”はなかなかお目にかかることはできず、 パンヘッドの中ではハイドラグライドやデュオグライドに出会うことがほとんどだろう。真偽のほどは定かではないが、ヨンパチにスプリンガーフォークが採用されたのは「前モデルのナックルヘッドに採用されていたスプリンガーフォークが余っていたから」という話もある。ハーレーのモデルチェンジの際は代替わりの際に、旧モデルの機構を一部受け継ぐことは珍しくなく、それが希少価値を生んだと思うと面白い話だ。なお、パンヘッドには1200ccのFL系と1000ccのEL系の2種類が当初はラインナップされていたが、EL系は52年で生産終了となりわずか5年だけ生産されたモデルとなっている。
現行モデルのデザインにも大きな影響を及ぼしているパンヘッド。機構的な部分は現代から見ると古く、現行車と同じ感覚で酷使することはできない。しかし、1つ1つの部品形状やエンジンの造形など、当時も工業製品として生産されたモノながら、見る者を惹きつけてやまない何かが感じられる。その魅力は当時から持っていたものなのか、時の経過とともに身に纏ってきたものなのか。パンヘッドの現役を知らないモノには判断できないが、時代を生き抜いて現在でも現役で走り回るパンヘッドを見ることがあったなら、ヴィンテージハーレーを求める人がいる、その気持ちの幾分かは誰にでも感じられるに違いない。最後に代表的な変更点を列挙する。
49年:テレスコピックフォークが採用される
52年:フットギアチェンジ、ハンドルクラッチのFLF登場。
ハンドシフトが主流の中では「スムーズなギアチェンジができる」と好評を博した。
55年:エンジンが改良される。圧縮比が上がり、カムが変更されたことにより従来の55馬力から60馬力へと出力が向上。
58年:発電量が大きなジェネレーターを採用。油圧ドラムブレーキを採用し、制動力が向上。
59年:フレームが変更。スイングアームとリアサスペンションが装備された。
65年:エレクトリックスターター(セルスターター)を装備。12Vバッテリーを採用。
現在に続くエレクトラグライドの名前はエレクトリックスターターを採用したことに由来する。
車輌選びの注意点
手間と費用は間違いなくかかります
日々のメンテも怠れないエンジンです
ショベル以上にパンヘッドはタマ数が少なく、アメリカ本国で状態がいいものを探すのも一苦労です。パンヘッドはかつてカスタムベースになっていたことが多く、ストックに近い状態のモノを求めるなると、かなり予算がかかると思ってください。パンヘッド以前のモデルとなると“安く状態のいいモノを”期待するのは残念ですが諦めたほうがいいかもしれません。ここまで旧いモデルとなると、ショップ独自がどれだけ情報網を持っているのか、が希望の年式や状態のモデルが見つかる鍵になってきます。少々時間がかかる覚悟を決め、根気強く待つ覚悟が必要です。また、発売後から40年以上経過しているモデルのため、納車前の整備も行った方がいいでしょう。当時の最新技術が使用されたとは言え、機構は古く、オイルラインには長年の汚れが詰まっているかもしれません。一通りの整備は行った上で乗るのが無難でしょう。
納車後の日々のメンテナンスも、トラブルを少なくパンヘッドと付き合っていくには必要になってきます。最近の、耐久性の高いトラブルフリーなハーレーと同じ感覚で付き合ってはいけません。キャブのセッティングの狂い、進角の調整、ドライブチェーンやプライマリーチェーンの調整など調子を崩さないために必要なメンテナンスは怠らないようにしましょう。定期的にオイル量のチェックを行い、オイル交換時はオイルを手にとり混ざっているものがないか、チェックするくらいの心がけで付き合ってください。日々の些細なチェックやメンテナンスを怠ると、大きなトラブルになって返ってきます。オーナー側が車輌を労わってやる必要のあるパンヘッドですが、調子のいいパンヘッドで街を流すのは、なんとも言えない気持ち良さがあります。出力はたいしたことはなく、現行車と同じペースで走ることはできませんが、何にも代えられない、パンヘッドにしかない、あのエンジンフィーリングは病みつきになることでしょう。ハーレーが好きで、好きがさらに高じて、そうしてパンヘッドに辿り着いた人でしたら、覚悟を決めてドロ沼の世界に足を踏み入れてください(笑)。
車輌選びの注意点
エボが初めてのハーレーでもOK
手頃ながら信頼性が高いエンジン
数年前、ツインカム88登場直後にエボの中古車の価格が高騰した時期がありましたが、現在は価格は落ち着いてきています。まだまだ旧車と呼ぶには早いエンジンですが、古いモデルだと販売終了からもう20年以上が経っているのです。そんなエボが人気の理由なのは、ハーレーの信頼性が大きく高まった最初のエンジンであることでしょう。ショベル以前のモデル以上に手が出しやすい値段で、しかも安心感が得られるモデルだというのが人気の一因のようです。また、現行のツインカム96のインジェクションモデルや、ツインカム88のキャブレターモデルと比べても旧車風テイストを演出しやすいため、初めてのハーレーにあえてエボを選ぶ方もいます。販売当時の性能が良く扱いやすいモデルですから、初めてのハーレー選びの候補に入っていてもなんらおかしくないと思います。現行の新車を購入する予算があれば、エボの中古車を選べば車輌本体とカスタムまでできてしまうので、エボを皮切りにハーレーライフをスタートさせることもカスタム好きな方にはアリですね。ショベル以前のモデルと比べると、タマ数も豊富にあり、希望の年式・車種が見つけやすいのも魅力です。
ただし、信頼性が高く少々メンテ不足のままでも走れてしまうエンジンだったため、かなりの走行距離の車輌を走っている車輌も多いです。他にも、ミニメーターに交換され正確な走行距離が不明なモノ、丈夫だったがゆえに荒い乗り方をされたものが豊富なタマ数の中に含まれているのも事実です。購入時に、車輌の状態によってはベアリングや各部のオイルシール、ガスケット類など消耗品の交換をした方がいいかもしれません。走行距離は程度を測る大事な目安ですが、あまり走行距離の表示だけにとらわれず、距離以外の整備状態などと合わせ冷静に中古車選びを行ってください。購入後のメンテナンスやカスタムは、ツインカムにひけを取らないほどパーツの供給は安定しています。ツインカムでは使えない点火系パーツなど、エボならではのカスタムプランもあります。ハーレーの一番の魅力である“グッドサウンド&グッドバイブレーション”を色濃く感じつつも故障には怯えたくない、そんな欲張りなアナタにエボリューションはぴったりかもしれません。エボならではのハーレーライフを送ることができるでしょう。
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