コンプライアンスが社会的にも重視される昨今、趣味でバイクに乗る我々としても自分勝手な行動は慎まなくてはならない。騒音問題もそのひとつ。「バイク=悪」とされないためにも、モラルを守ってライディングを楽しみたいものだ。ただ、バイクは趣味の乗り物。耳に心地良く響くエキゾーストノートも、バイクの魅力を語る上では欠かせない要素だ。そんなバイクの個性を引き出し、サウンドを楽しむためにリプレイスマフラーが存在するわけだが、中には音量が大きすぎて気疲れしてしまうものもある。特に住宅地などでは、ご近所からいつも白い目で見られるなんてことも…。悪気はなくても、なかなか理解されないのが現実である。
前置きが長くなってしまったが、そんなモヤモヤを解決してくれる注目のアイテムが登場した。今回ご紹介する「ダブルヘッド・マフラー」はハーレー専用に開発された、排気音量を自在にコントロールできるマフラーである。仕組みはシンプルで、スリップオンサイレンサーの本体に内蔵された排気バルブを開閉することで音量レベルを調整するもの。操作は簡単でハンドルにマウントされたレバーによって無段階に調整できる。バルブ機構にはバイパスが設けられているため、パワーダウンや出力特性への悪影響が出ないのも特徴だ。深夜の市街地や自宅近くでは音量を絞ってジェントルに走行。郊外や高速クルーズではハーレーらしい弾けるサウンドを思う存分楽しむ。そんなスマートな大人の楽しみ方ができるのが「ダブルヘッド・マフラー」なのだ。
製品コンセプトを理解したうえで、ダブルヘッド・マフラーを装着したロードキングをツーリングに駆り出しその実力を探ってみた。
まず見た目。サイレンサー本体はほっそりとスリムでステンレスの輝きが美しい。溶接跡もきれいで丁寧な仕事ぶりがうかがえる。ショップのガレージでエンジンに火を入れると、1584ccのOHV空冷Vツインがブルブルと身震いして目を覚ます。排気バルブを調整するレバー位置は全閉でも全開でも始動性は問題なし。アイドリングも安定している。幹線道路までは市街地を抜けていかなくてはならないので、とりあえずバルブ全閉にして走り始めた。40?/h程度でゆっくりと流してみるが極めて普通。音質は少しこもったような感じで、直接比べたわけではないがノーマルとほとんど変わらない排気音といっていい。これなら、ご近所さんが顔をしかめることもなさそうだ。
音量調整レバーは走行中でも片手で簡単に操作できる。カチカチと節度のある作動感で何回でもいじりたくなる。
郊外やワインディングはダブルヘッド・マフラーの真骨頂。全開モードにすれば弾けるサウンドと加速感を味わえる。
国道に出たので今度はバルブ全開に。ちなみにレバー操作は走りながら片手で楽にできる。「ズドドドッ」と腹に響く、ハーレー独特の不等間隔の爆発音が急に耳に飛び込んできた。「これだよ、コレ!」と思わずにんまり。弾けるサウンドとともに、まるで馬がギャロップするかのように巨体を前に進めていく。音質はぐっとドライな感じになり、音量もアップしているがけっして耳障りではないレベル。高回転からスロットルを戻したときに出るアフターファイアのバリバリ音も、これはこれでなかなか気持ちいい。高速道路はさらに快感。一定速度でクルーズしているときは小気味よく、スロットルを開けると弾けるサウンドに酔いしれる。いろいろな速度域から試してみたが中間加速はどこもパワフルで、もたつくことなく伸びやかだ。ダブルヘッド・マフラーはもともとストレート排気構造になっているが、バルブが全開になったことで本領を発揮したわけだ。試しに全閉にもしてみたが、風切り音にかき消されるほど静かでパワー特性もマイルド。では、中間はというと、どちらかというと全開に近い感じだった。個人的には全開か全閉でメリハリをつけて使い分けるのが気持ちいいと思う。そしてワインディング。結果は見えていたが、これは全開モードしかないだろう。スロットルレスポンスもいいので、切り返しなどでもバイクが軽快に動いてくれる。これは重量級クルーザーには大きなメリットだ。若干だが軽量化の恩恵もあるのかもしれない。冬景色へと移ろい始めた渓谷に、ビッグツインの重厚なサウンドを轟かせて走る快感。これを言葉でなんと表現したものか。否、ぜひライブで体験してもらいたいものだ。
「ダブルヘッド」の発売元であるエー・ピー・アールは、実は4輪レースの世界では名の知れたコンストラクターである。ハーレー用というとドレスアップ目的や単なる爆音系のマフラーも少なくないが、4輪レースで培われた確かな技術的バックグラウンドを持ったメーカーという点でそれらとは一線を画する。通常、排気バルブを用いて排気経路を塞ぐ方法だと、スムーズな排気が行われずに出力特性に悪影響が出たりするものである。ダブルヘッド・マフラーの場合、サイレンサー内の排気バルブの手前から後方に抜ける2本のバイパス経路を設けることで、バルブ全閉状態でもスムーズな排気特性が得られる構造を採用。さらに、サイレンサー内部のストレート構造も、インナーパイプをテーパー形状にすることで適度な排圧をかけて低中速トルクを稼ぐなど、見えない部分にもそのノウハウを注いでいる点に注目したい。
ダブルヘッド・マフラーのもうひとつの大きな魅力はデザインのバリエーションである。製品本体のサイレンサーとテールパイプを別体式として、5種類のデザインから選べるのが特徴。テールパイプは単体でも販売しているので、後から交換したり気分によって付け替えたりすることもできる。現在のところ、ハーレー用としてスポーツスター系、ダイナ系、ソフテイル系、ツーリング系の各モデルレンジに専用タイプをラインナップ。センターパイプ径(φ44mm)が同じなら他メーカーでも取り付け可能だそうだ。気になる価格だが、サイレンサー単品で6万8250円(ツーリング系は7万3500円)。テールパイプとのセット価格も以下のとおりだ。排気バルブとその調整機構も付いての価格と考えると、とてもリーズナブルといえるだろう。材質は耐久性に優れるオールステンレス製で、完全ボルトオン装着が可能。発売元のエー・ピー・アールのガレージで取り付け(工賃12,600円)もしてくれるので、実際にテールパイプをいろいろと試して好みの1本に仕上げるのもいいだろう。
テスター:佐川健太郎
フリーの編集者を経て、2輪専門誌やWEBマガジンで活躍中のモーターサイクルジャーナリスト。ニューモデル試乗や開発者インタビュー、用品テストなど守備範囲は広く、ライディングテクニックやメカニズムにも詳しい。「ライディングアカデミー東京」校長。
取材協力
株式会社エー・ピー・アール
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