オートバイにとって排気音がどれだけ重要な要素を占めるか、いまさら言うまでもないだろう。配達用のスーパーカブやスクーターのように、仕事に仕える道具ならノーマルのままでもなんら問題はないが、僕らのように趣味としてたのしむ場合、右手の動きを通じマフラーが発するサウンドは、自分の意思や感情の表れでもある。気持ちのいいときは右手を大きく開けてエンジンを元気に回し、周りに気を遣うときは開度を抑え大人しく移動する。ハーレーダビッドソンの場合、抜けのよいマフラーを装着した際の腹に響く太い排気音は格別で、ノーマルの排気音しか知らない人にとっては鳥肌ものではないだろうか。だが、空冷2バルブという古典的なエンジンのまま現代の規制に対応するには、社外製マフラーでは難しいというのが実情だ。日本の規制は世界一厳しい。国内にこれだけ数多くのマフラーメーカーがありながら、ハーレー用のほとんどが「レース用」として販売しているのは、求める性能を実現しようとすると騒音規制に引っかかってしまうからである。
今回紹介するDLIVE(ドライブ)は厳格な日本の規制に果敢にも挑戦したブランドで、歯切れのいいサウンドとスムーズな出力特性を持ちながら、装着したままでも車検に対応できるという、現行規制に完全対応したマフラーである。すべてを調べたワケではないので断言はできないものの、フルエキゾーストとしてボルトオンで装着し、他のパーツの変更なしにそのまま車検がOKというハーレー用マフラーは、おそらくほとんどないはず。性能を向上させ、スタイリングをクールにまとめ、音量まで抑えるには開発に時間とコスト、何より手間がかかるため、多くのマフラーメーカーが断念しているのだ。そんな中DLIVEは労を惜しまず、2in1のメガホンタイプで94dbという規制内の音量を実現。これは久々の快挙である。
上がフルチタンの超軽量フルエキゾースト、ストリートラインのチタンヒートカラー。右のマットなフルステンレス製エキゾーストはストリートラインのステンレスブラック。税込価格は順に15万7500円と14万1750円。
「DLIVE」とは、カラーズインターナショナルが展開するハーレー用パーツブランドの名称で、マフラーの他にステップやハンドルスペーサー、スライダーなど、削り出しのビレットパーツも製作している。ここでは自信作であるDLIVEのマフラーについて紹介したい。
今回紹介する車検対応の「ストリートライン」では、材質はチタンとステンレスの2種類から選べ、前者はチタンの地色を活かしエキパイには美しい焼け色をつけており、後者はシックなブラックでペイントされている。ともに全長は一般的な2in1より短めのショート仕様で、サイレンサー形状はメガホンタイプだ。最大の特徴としては、ノーマルマフラーから付け替えるだけ、細かな調整が不要な設計になっている。一般的にアフターマーケットマフラーは抜けのよさを優先する作りが多く、マフラー交換と同時に吸気やガソリン供給量の調整を行わないと、出力特性のバランスを崩す例が多かった。理由は、排ガス規制に対応するために施したセッティングで、未燃焼ガスを出さないよう完全燃焼を狙い、リーンバーン(希薄燃焼)でエンジンを動かすよう、燃料噴射量を極端に抑えているからである。それゆえ吸気と排気のバランスが崩れると、加速の途中で大きな谷間ができ、エンジンがきれいに回らない状況が生まれる。だがDLIVEのストリートラインは、ノーマルの燃料供給マップに合わせて設計されているため、装着してもバランスが崩れることはなく、調子を上げることができる。音質は2in1ながら歯切れのよいサウンドで、アイドリング時は大人しいが開けるとVツインらしいリズムを刻んで加速する。
今回は試乗もさせてもらったので、簡単ではあるが感想もお伝えしておこう。アイドリング時の音量はかなり抑えられていて、規制に対応しているだけに大人しい音だな、というのが第一印象だった。だが、いざ加速し始めると、スロットルを開けたときの音量は意外なくらい迫力を増して耳に届いてくる。ストレートパイプのように燃焼室から筒抜けのような豪快さはもちろんないが、一発いっぱつの爆発音の質量感が増し、明らかにアイドリング時よりも排気音に力強さが増している。ただ音質は基本的に変わらず乾いた音のため、耳障りではない。この絶妙なさじ加減は、サイレンサー内部でいくつも分かれたチャンバーをつなぐパイプの位置や長さの調整、サイレンサー形状、それに対するグラスウールの量など、各所で細かな調整を行わないと実現できないものだと思う。加えて騒音規制もパスさせているのだから、開発には相当手間がかかったことだろう。カラーズ代表の新(あらた)さんに聞いたところ、開発時には何度もマフラー形状を細かに変えて、納得いく性能が出るまで繰り返しテストを重ね、公道用として納得いくレベルにまとめ認可を取るまでに、1年以上の時間がかかったと言う。
現在マフラーの対応車種は、883Rとフォーティエイトのみ。通常は同じエンジンを使う兄弟モデルの場合エンジン型式も同じなのだが、スポーツスターの場合883Rと883Lではエンジン型式が異なり、そのためマフラーの認証をエンジン型式ごとに取らねばならないという。かなり面倒な状況なのだが、カラーズでは今後の反応次第で対応車種を少しずつ拡大していく予定なので、自分の車種への取り付けの疑問があれば、ぜひ同社に問い合わせてみてほしい。
DLIVEブランドには、先に紹介したとおりビレットパーツも存在する。注目はステップで、ビレットパーツにありがちなビカビカのクローム仕様ではなく、敢えてブラック仕上げにしている。そのため目立たないが、よく見るとかなり凝った作りだ。ステップバーの形状は一般のものより幅広で、表面には滑り止め用のミル加工が丁寧に施される。またシフト/ブレーキペダルともに先端のペグ部分の位置調整が可能で、シフト側はオプションのシーソータイプとすることにより、かかとを使ってのシフトアップも可能。お気に入りの靴のつま先を傷めることなく、シフトアップ/ダウンをすべて靴裏で行うことができる。
このDLIVEのステップキットが生み出すポジションは、ハーレーのミッドコントロールとフォワードコントロールの中間にある、セミフォワードコントロールといった位置で、日本人の多くがひざを伸びきらせてしまうノーマルのフォワコンよりも、足の置き場がかなり自然である。写真の車種はフォーティエイトだが、ノーマルのフォワードコントロールはかなり前にあるため、とくに長距離はきつい。ライディング中のひざは適度に曲がっていないと足自体の重さが関節にかかるため、疲れの原因にもなる。この辺りは、実際にノーマルを試乗して感じた不満を製品化したと言うだけに、確かにひざがラクで、ステップ操作も行いやすかった。ペダル可動部にはボールベアリングを採用しているため、動きもスムーズ。またベースブラケットの形状をよく見れば、角型のプレートから丸パイプへと変化させる細やかさ。とても丁寧に作られたステップである。
フォーティエイトの場合スタンダードポジションから後ろに90mm、上に8mmアップ。883Rの場合155mm前方に移動。素材はジュラルミンがメイン、カラーリングはブラックのみ。価格は税込み8万2950円。オプションのチェンジヒールペダルは8400円。
代表の新さんがフォーティエイトに試乗して、まず気になったのがポジションだという。DLIVEのステップキットは「フォワコンスタイルは好きだけど足が届かない」という人に丁度よい。スタンダードなハーレーらしいスタイルを崩さず、快適性を上げるパーツだ。シフト側はオプションでシーソー式となり、慣れるとかなりラク。
これはステップバーの裏側なのだが、細かな段差を残してテーパー形状にしている。ここは地面に接地しやすい部分なので、スポーツ仕様のステップの場合、バンク角を稼ぐため先端に向かってバー自体を薄くし最低地上高を上げる工夫は定番。ただDLIVEの場合、単純に斜めにカットを入れるのではなく、こんな手間もかけている。
シフトペダルとブレーキペダルの先端につくペグだが、位置は好みに応じて3段階の中から選べる。シーソー式のシフトペダルなら、当然ながら前後ペグ両方が調整可能。ペグには丁寧なローレット加工が施されているが、実はペグの上側だけで、ブーツのつま先と接触する下側には入れていない。何とも細やかな配慮である。
万が一の転倒時に車体の損傷をできるだけ軽減するためのスライダー。レースの世界から派生してきたこのパーツは、装着するだけでスポーティな雰囲気をアップする小道具でもある。ハーレーにはパイプを曲げた大きなクロームエンジンガードが純正オプションで用意されており、確かにあれなら損傷を最低限に抑えられそうではある。だが、教習所のバイクのようなスタイリングになってしまうことから、いざというときの備えを優先させるかスタイルを取るか、悩む人も多いはず。しかしDLIVEのガードスライダーならスポーツスターのスタイリングを損なうことなく、愛車の保護が可能。
先端部の材質はジュラコンと呼ばれる硬質樹脂を使い、転倒時に衝撃を吸収するとともに、自らが削れていくことで路面への引っかかりを最低限にし、ライダーがバイクに巻き込まれることを防ぐ狙いを持つ。スライダー本体はアルミ合金からの削り出しで、ビレットパーツらしいシャープなデザインで装着後の野暮ったさもない。カラーリングはやはりブラックで、シックにまとめている。ラインナップにはフロントアッパー、フロントロワー、リアショックアッパーの3箇所が用意されており、好みに応じて選択が可能である。
注目すべきハーレーパーツを各種リリースしているDLIVEブランドだが、実はこの名前はフィッシングパーツ部門にも使われている。こちらの部門も新さんの趣味の延長から始まったものだが、削り出し&アルマイト加工で美しく仕上げたリールハンドル等、バイク用カスタムパーツで培ったノウハウを注ぎファッショナブルな釣りの小道具を生み出している。ハーレーブランドのDLIVEも、新さんが「ハーレーって意外におもしろい」というところからスタートしたもの。だからリリースするパーツは、いずれのブランドも自身が疑問に思った部分、要改良と感じた部分を具現化したものが多い。またカラーズのブランドで忘れてはならないのが、国産モデルを中心としたエキゾーストシステム「ストライカーシリーズ」である。こちらもボルトオンで性能アップを図れるマフラーとして、美しい仕上がりと高い性能で信頼を築き上げ、現在国産のマフラーメーカーとしては知名度、人気ともにトップクラスの存在だ。
いずれのブランドも、マーケットニーズだけを頼りにするのではなく、実際に自分が使用して感じたことを反映し、よりよいモノづくりを行うというスタンスが基本にある。モノづくりに対し随分とこだわりを持つ新さんだが、もともと国内最高峰であるGP500のワークスライダーとして活躍していた人物であり、アメリカなど海外でもレースで活躍。オートバイメーカーがコストと手間を惜しまず手掛けた、一品製作パーツの集合体=ワークスマシンに乗る、プロライダーという経歴を持つ。「安心できる、いいものを、手頃な価格で。たのしさは、その上に成り立つ」。カラーズの各ブランドに浸透するこの考えは、新さんのワークスライダーとしての経験が大きく影響している。
DLIVEのマフラー及び削り出しパーツの製作に関しては、国産モデル用パーツで培ってきた技術が応用できるからこそ、あれだけクオリティの高い製品がリリースできるのである。DLIVEハーレー部門は、今後もさまざまなパーツ展開を計画しており、ハーレー好きの多くの意見を取り入れたいと考えている。一度ホームページを覗いていただき、感じたことがあればメールで伝えてみるのも手だ。フレキシブルな考えを持つDLIVEだけに、あなたのアイデアが採用される可能性は十分にある。
カラーズの本社は神奈川県横浜市にあるが、製造工場は三重県鈴鹿市に存在する。多くの種類をリリースしているだけあり、工場内の設備はかなり大掛かりなものだ。一方でマフラー製造には手曲げという職人技を取り入れている商品もあり、削り出しパーツも含め、量産するだけではないモノづくりへのこだわりも持ち続けている。
カラーズインターナショナル
住所:神奈川県横浜市都筑区中川1-22-5-2F
TEL:045-914-6881 FAX:045-914-6882
URL:http://www.dlive-hd.jp