VIRGIN HARLEY | ハーレー界の巨匠に聞く!カスタム指南シリーズ「第1回 シート編」 特集記事&最新情報

ハーレー界の巨匠に聞く! カスタム指南シリーズ

ハーレーライフを楽しむ上で、避けて通れないのが「カスタム」という道。そのポイントを挙げていけばキリがないが、多くの人が真っ先に着手する場所のひとつがシートだ。車体のラインを美しく形成する上で欠かせないパーツである上に、ライダーの体を支える重要な場所でもあることから、世のハーレー乗りは自身の好みや思い描くハーレーライフなどをミックスした上で頭を悩ませ、ベストなシートを模索し続けている。

 

とはいえ、ハーレー乗りも人の子。「あれ、なんか思い描いていたのとちょっと違うな」ということだって起こらないとは限らない。カスタムのセンスとは、そうした失敗の積み重ねを経て研磨されていくものではあるが、「失敗しましたぁ」で済まされない金額になることもまた事実。ならば、ここはやはり先達――業界で一目置かれる“巨匠”に意見を仰ぐのが必要ではないだろうか。

 

今回、その独自のスタンスと高い技術力で世のハーレー乗りに愛されているシート界の巨匠3名に、「シート選びのハウツー」をテーマに話を聞いた。現在シートカスタムを考えているという方は、ぜひ参考にしてみてほしい。

K&H ファクトリー主任
上山 力

1973年6月2日生まれ / 東京都出身

カスタムシートの老舗として広く知られる「K&H」(ケイアンドエイチ)に長年勤める開発主任で、開発・テスト走行・販売に携わっている。自身ハーレー・スポーツスターやトライアンフの旧車などに乗る根っからのバイク好きだ。

 

「乗って楽しい」と感じてもらえるシートを提供する――。K&Hでは、このことを信条にシート製作を手掛けています。まずポイントとなる部分が「乗車位置」「乗車姿勢」です。「腰痛持ちでお尻が痛いから、スポンジを柔らかくしたい」という相談をよく受けるのですが、スポンジが柔らか過ぎてお尻全体がシートに沈み込み、うっ血して痛みを感じたり、自然な乗車姿勢が保てずに腰痛を巻き起こすケースもあるのです。特にハーレーの場合は猫背の乗車姿勢になってしまうので、腰への負担が大きくなってしまいます。スポンジは、柔らかければ必ずしもお尻や腰への負担が少なくなるというわけではありません。スポンジには乗り心地を良くするための柔らかさも必要ですが、反対にライダーを支える硬さ(コシ)も必要なのです。

 

柔らかさとコシを兼ね揃えたスポンジでも乗車姿勢が悪ければ、腰だけではなく肩や首などを含む体全体に負担が掛かります。その負担を軽くするためには、自然な乗車姿勢を取る必要があります。そうすればハンドルやステップ操作もしやすくなり、ロングツーリングでの体全体の負担も少なくて済みます。車体に対して適正な乗車位置であれば、オートバイを“自らが操っている”という操作感も増して、オートバイに乗ることがさらに楽しくなるでしょう。

 

そして、次が足つき性です。足をつく度に不快な思いをしていては、楽しいツーリングは出来ませんよね。ひとくちに“足つき”と言われますが、足つきの良さには「足のつく量」に加え、「足のつき方」なども関係します。大股開きのガニ股よりも、自然につま先が進行方向を向くつき方が車体を支えやすいのです。これらは見た目だけでは判断できませんので、実際に乗ってみるのが一番。K&Hのショールームにお越しいただければ、興味のあるシートを実際に装着して乗っていただくことも可能です。あとは乗るときの体調管理ですね。寝不足だと、血流の流れなどの影響もあって支障を来しやすくなります。前日十分な睡眠を取った方が、当日のロングツーリングを楽しめるでしょう。

 

足つきはシート高だけではなく、幅でも変わってくる。実際に跨ってみるのがベストだ。

バックドロップ カスタムシートビルダー
宮崎 智久

1978年12月28日生まれ / 愛知県出身

ハーレーのみならずさまざまなバイクのカスタムが好きで、カスタムシート専門店「バックドロップ」の門を叩く。以降6年間、同店で多くの経験を積み、現在一流ビルダーとしてバックドロップを代表する存在にまでなった。

 

ウチはオーダーメイドのシート製作を第一に承っているので、オーダーしてくださったオーナーさんの車輌をまず拝見させてもらってから理想的なスタイルを提案する「トータルコーディネート」が基本スタンスのシート専門店です。その大前提として、まずオーナーさんが“愛車とどのような付き合い方をしたいのか”をお聞きします。ロングツーリングをしたいのか、シティユースを主とした楽しみ方を考えているのか…。シートというのは最終的にライダーの体を支える大切なパーツなので、まずオーナーさんのハーレーライフ観を伺い、そしてハンドルやステップ位置を確認し、その上で適したポジションになるシート像をおすすめしているんです。

 

操作性とライディングポジションが重要なのは当然ですが、デザインという観点でお話しさせていただくと、「車体より目立ちすぎないこと」、そして「真横から見たラインの美しさ」が重要になります。

決して安くはないカスタムシートですが、とはいえ主役はオーナーと車輌であって、シートも全体像を引き立たせるパーツのひとつ。だから主役より目立ってはいけないんです。まず車体のカラーリングを整えていただき、そこにオーナーさんの好みの中からバランスよく合う色を選ぶのがベストでしょう。

 

そしてラインの美しさも、ハーレー乗りならば無視できない重要なファクター。シートの形状がいびつだと、横から見たときの一体感が損なわれて違和感が生まれてしまいます。各地のカスタムショップからショー用のシート依頼を受けるのですが、やはり上記の内容を踏まえた上でベストのシートを製作するように心がけています。ぜひこのあたりを参考にしてみてください。

 

ひとくちに革と言っても、材質からカラーリングまでさまざま。自分の好みをビルダーにぶつけよう。

アトリエチェリー ディレクター
水野 直純

1971年6月10日生まれ / 神奈川県出身

高校生の頃からレザーアイテムに強く惹かれており、23歳のとき、別の仕事をしながら我流で革製品を精製する「アトリエチェリー」を設立。29歳のときに故郷鎌倉に居を移してから本格的にレザーシート製作を手掛けることに。

 

“使い古されたレザーの質感”は、新品の革製品では出すことができません。そうしたクオリティの高さがある一方で、当然ながら古い革製品にはダメージが蓄積されており、使い込めば使い込むほど破れやすくなるデメリットがあります。時折、破れたレザーシートのまま乗っているハーレー乗りを見かけることがありますが、雰囲気こそ素晴らしいものの、「乗り心地がいい」とは言い難いはず。しかしそうした古いレザーも、適切な補修をかけてやればまだまだ現役として使い続けることができるのです。

 

それは、古いレザーの裏側に新しく頑丈なレザーを貼ってやること。こうすることでシートにかかる負荷を新しいレザーが引き継ぐことになり、見た目の雰囲気を保ち続けられるのです。もちろんただ貼り込むだけでなく、新品レザーにも古いレザーの雰囲気を損ねないような工夫をせねばなりません。このあたりに、レザー職人の僕らならではの知識と経験が生かされるのです。

 

誰もが「これが一番カッコいい」と思うシートのスタイルがあると思います。その中のひとつとして、ヤレた感じが出た古いレザーという選択肢があるわけで、ハーレーという観点から言えば、カスタムの方向性によってはそういった古いレザーシートがマッチするスタイルが存在します。そこは、旧車も現行モデルも差はありません。ウチは旧車しか扱っていないイメージが強いですが、現行モデルのシートの張り替えなども行っています。レザー屋として見た目のカッコよさを追求しつつ、張り替えやシェイプ、アンコ抜きなどライディングも考慮したレザーシートを作るのが、アトリエチェリーの基本的なスタンスなんです。レザーシートにこだわりたい、または要望が多くて悩んでいるという人は、ぜひ一度相談にきてみてください。

 

使い古されたレザーの裏側に、新しいレザーをあてがうことで、耐久年数を延ばしてやれる。