クラッチの重さを改善するVPクラッチで
軽快なクラッチワークを実現
エンジンの力をトランスミッションに伝える重要パーツであるクラッチ。ハーレーの場合、もともと体格のよい欧米人向けに開発されているためか、レバーが太くて握りにくい上、クラッチが重いと感じるユーザーが多い。そこで人気を集めているのがクラッチまわりのカスタムである。数あるクラッチのカスタムパーツの中で人気が高いのが、TAK PERFORMANCE PARTS製の「VPクラッチ」だ。「VP」はVariable Pressure(圧力可変)の略で、クラッチ盤を押さえつける役割を果たすリテーナーを交換し、レバー操作の重さを改善するパーツである。多くのアシストシステムはクラッチの切り離し量を減少させて軽くしている場合が多いが、エンジンが温まると熱膨張などによりクラッチが切りきれていない状態になりやすく、ニュートラルに入りにくくなることがあるのが難点。VPクラッチはクラッチの切り離し量はノーマルと同じで切れがよく、ニュートラルにも入りやすい。サービスマニュアルどおりに整備できるのがメリットだ。
ラインナップは現行のツインカムエンジンのほか、エボリューションエンジン、スポーツスターのエボリューションエンジン、V-RODの水冷レボリューションエンジンなど。新たに2004年以降のスポーツスター、2013年以降のCVOに適合するモデルが登場した。ここでは新ラインナップを交えながら、そのメカニズムや開発秘話をご紹介しよう。
VPクラッチの開発コンセプトに反映された
トップフューエルパイロットのフィロソフィー
TAK PERFORMANCE PARTS製VPクラッチを開発したのは、愛媛県のハーレー正規ディーラー「ハーレーダビッドソンブルーパンサー」で代表を務める重松 健さん。ドラッグレースのトップフューエルパイロットとして世界にも知られた存在で「クレイジーTAK」と呼ばれている。というのも、1999年にアメリカのAHDRA(オール・ハーレー・ドラッグ・レース・アソシエイション)の第2戦に初出場し、初優勝を飾ったという逸話の持ち主。2008年には370.34km/hというワールドスピードレコードを樹立。2010年11月に記録した1/4マイル6.135秒という世界最速記録は未だ破られていない。実はVPクラッチは重松さんがドラッグレースで培った技術や知識、経験をフィードバックさせたプロダクツなのだ。そのため、一般的なクラッチアシストシステムにない、独自のアプローチがなされている。そこで今回、重松さんと古くからの友人というカメラマンの伊勢 悟さんとの対談を設定。伊勢さんは2006年にV-RodのドラッグレーサーVRXSEデストロイヤーが登場した際、発表会&体験走行会にて10.03秒というタイムをたたき出し「業界最速のカメラマン」と呼ばれた人物でもある。この際にアドバイスしたのが重松さんでもあるのだ。ここでは率直にVPクラッチの開発秘話やコンセプト、メカニズムについて語ってもらった。
伊勢:そもそも、VPクラッチの開発のキッカケってなんだったんですか?
重松:ドラッグレースですね。トップフューエルに採用されている遠心クラッチのシステムを応用したら、よく使う回転域でクラッチを軽くできるんじゃないかなって考えたんですよ。
伊勢:例えばドラッグレースの場合、クラッチを強くしなきゃいけないんじゃないんですか? エンジンパワーを伝えるためにクラッチを強く押し付けて滑らなくする。大きな圧力が必要だからクラッチは重くなるはずでしょう。逆に軽くなるんですか?
重松:クラッチをただ強くするのは簡単なんです。でも、強いパワーを強いまま伝えたからといっても速く走れるワケじゃない。ドラッグレースの場合、遠心クラッチを使って最初の18mはわざと滑らせながら走るんです。それで、タイヤを路面にグリップさせるというのが定石。だから、クラッチスプリングに弱いのを使って、クラッチを弱くしているんですよね。エンジンの回転が上がると、遠心力でクラッチがシッカリつながって動力が最大限伝達されるようになるんです。
伊勢:18mも滑らせるんだ! よく考えればそのとおりですね。今までなんとなく分かっていたつもりで、よくわかってなかった……(笑)。そうか、パワーが強すぎるとホイルスピンしちゃうからロスが大きくなると。
重松:そうそう、だから逆にクラッチのスプリングは弱くしているんです。そこからヒントを得て、じゃあ低回転域では多少なりともクラッチを柔らかくできて、かつトルクが出てくるところでは強くできないかと……。なんとかすれば、それが可能じゃないかと思ったのがキッカケですね。
伊勢:じゃあ、VPクラッチが軽くなる理由はスプリングなんですね。
重松:そうですね、EVOやスポーツスター用はスプリング自体を交換しますが、ツインカム用だとダイアフラムスプリングを押す位置を変えて圧力を弱くしています。テコの原理ですね。でもただ圧力を弱くするだけじゃダメ。レースと違ってストリートではクラッチが滑ってはならないですからね。エンジンのトルクの関係でクラッチが滑らない為のスプリングの圧力と遠心力を融合させるのに夜も寝れないくらい大変でした。スプリングが弱すぎると滑る、強すぎると重い、遠心力かけすぎると高回転で重すぎる。それらを上手く調和させるのが一番苦労しました。
伊勢:自分も使ったことあるけど、レバーを握るとすごく軽いもんね。具体的に必要な力ってどのくらいなんです?
重松:モデルによっても違いますが、クラッチ操作が平均して30%は軽減されます。高速道路などでよく使う高回転域だと、ノーマルより40%くらい高い圧力をクラッチに加えられる。低回転域の時よりもクラッチは重くなりますが、アクセルを開けている時は気分いいから、多少重くても気にならない(笑)。それに、スプリング圧力を弱めるとクラッチがよく切れるので、ニュートラルにも入りやすいんです。これもVPクラッチの特徴の一つですね。
伊勢:実際にクラッチの重さが辛くなるときって、高速道路で渋滞にハマった時とかだもんね。クラッチ操作が面倒な時は軽いほうがいいけれど、速く走る時はパワーロスが少ない方がいい。まさに美味しいとこどりだね!
重松:ドラッグレースでもアクセルを空ける時はアドレナリンが出ますからね(笑)。
伊勢:その快感もVPクラッチに生かされてるんだ(笑)。ユーザーに人気があるのは、軽さだけじゃなくってそこが理由なのかもしれないですね。
街中、高速道路などシーンに応じた効果で
ライダーの走りをサポートしてくれるVPクラッチ
軽さとハイパフォーマンスを併せ持ったクラッチキット、VPクラッチ。軽さを実現している大きな要因の1つがクラッチスプリングだ。ハーレのクラッチスプリングは、ダイヤフラムスプリングという櫛の歯状になった円盤形の皿バネを採用。スプリング自体を交換したり、抑え面をノーマルよりも内側へ移動するなどして支点を変更し、弱い力で適正な圧力がかかるように工夫されている。また、エンジンの回転が上がってくると、遠心力によるウェイトの動きが圧力となりクラッチを押さえ込む。クラッチはアイドリング時が一番軽く、低回転域では軽やかに、高回転域では重くなってしっかりパワーをタイヤへ伝えてくれるのだ。ここでラインナップの一部をご紹介! 仕様の詳細は公式サイトで確認してみよう。
高い技術力と豊富な知識と経験で
ハーレーライフを末永くサポート!
愛媛県の松山自動車道、松山インターチェンジ近くにあるハーレーダビッドソン正規販売店。最新モデルはもちろん、中古車、パーツアクセサリー、ウェアまで豊富に取り揃えている。ツーリングやミーティングなどのバイク関連イベントも開催しており、あらゆる面でハーレーライフをサポートしてくれる頼もしい存在だ。
住所/愛媛県伊予郡砥部町拾町3-1
( 拡大地図を見る )
電話/089-958-1080
FAX/089-958-1154
定休/火曜日(ショールーム)/
火曜日、第1・3水曜日(サービス工場)
営業/10:00~19:00