その豊富なキャリアから、ハーレーダビッドソンの旧車からニューモデルまで、カスタムやメンテナンスを幅広く手がけるカスタムビルダー松本 悌一さん。その彼が率いるカスタムショップ『ブラッククローム バイクワークス』が今年5月、東京・調布市から八王子市へとリニューアル移転し、今まで以上に大きなスケールで活動を展開。改めて、“これからのブラッククローム”なる未来図がどんなものなのか、話を伺った。
創業からちょうど15年目を迎えた東京のカスタムショップ、ブラッククローム。カスタムショーや各ハーレー系雑誌に登場するその個性的なカスタムハーレーが人気を呼び、ファンが足しげく通う人気ショップとして知られている。そんなブラッククロームもオーダーの増加から、調布の小さな店舗では手狭となり、昨年移転を決意。さまざまな候補地のなかから八王子の野猿街道沿いに建つテナントを選んだ。
「これまでずっと調布でやってきたので離れがたくはあったけど、より大きな展開をしていくために、僕が求めるものを持つ場所に行こうと決意したんです」
求めたのは敷地の大きい店舗だ。お客さんから預かるハーレーの台数を増やせて、なおかつ多くの機材を備えた作業スペースをしっかりと確保できること。もちろん、自社オリジナルのパーツなど在庫を確保できる倉庫も必要と考え、その条件に合ったのが今の場所だった。中央道・国立インターから野猿街道を走れば10数分ほどで着く好立地で、駐車スペースの広さも気に入った。
「移転から半年が経ちましたが、ここに来て本当に良かった。当初は今までのお客さんの足が遠のいちゃうんじゃないかって心配していたんですが、むしろ頻度が増えたほど。安心してバイクが停められることもそうですが、都内からここ(八王子)までショートツーリング感覚で来れるのがいいみたいです。道志みちを抜けて山中湖まで走りに行くのにも最適だとか。ときどき溜まり場にもなっちゃっていますけどね(笑)」
“ハーレーのカスタムショップ”と聞くと、おいそれと入ることができない敷居の高さを感じてしまう人もいるだろうが、ここブラッククロームの雰囲気はそんなことを微塵も感じさせないフランクなショップだ。ビンテージハーレーから最新モデルまで、どんなものでもソリッドな一台に仕上げるカスタムビルダーとしての手腕はもちろん、松本さんの温和な人柄に惹かれて多くのオーナーが集まってくるのだ。
「自分のスタイルを押しつけるんじゃなくて、その人のライフスタイルに合った一台に仕上げてあげたい。そのためには、その人が普段どんなことに興味を持ってて、どんなファッションが好きで、バイクとどんな風に付き合いたいか、ということを知ることが大切かな、と」
どれだけエッジのきいたカスタムバイクであっても、そのオーナーとセットで見たときに主を引き立てていないと完成度が損なわれてしまう。そういう意味では、ブラッククロームはオーナーを含めたカスタムプランを提案するプロデューサーであることを第一に心がけているのだ。
そんな松本さんが特に熱を帯びて語るのが、ブラッククロームというショップのあり方についてだ。
「確かにカスタムショップと名乗っていますが、フルカスタムしか受けつけない! なんてことはありません(笑)。オイル交換などのメンテナンスから不具合を解消する修理全般、またカンタンなパーツ交換など、なんでも承っています。ハーレーに関する分からないこと、相談事でもお伺いしているんですよ」
そして、カスタムビルダーとしての鋭い目をいかした中古車販売も手がけているという。
「“こんなカスタムハーレーを作ってほしい”というオーダーを受ける際、ベース車両探し込みのプランも設けているので、程度の良い中古車探しには結構自信があるんですよ。中古車情報ウェブサイトにも車両物件を載せていますが、そこになくても希望をおっしゃっていただければ、見合った一台を探すことだってできます」
中古車と言っても、ハーレーダビッドソンはやはり高価だ。自分では解消できない要素を抱えたまま手を出してしまうより、プロの目を通した確かな物件を手にする方が得策。
さらに興味深いのが、ハーレーの最新モデルへ対応力を年々アップさせていることだ。
「最近特に力を入れているのが、インジェクションチューニングなんです。というのも、ディーラーでマフラー交換を断られた方がウチによく来られるんですが、新型モデルはマフラーを換えただけじゃ本来のセッティングバランスまで崩してしまうんです。そこでインジェクションチューニングもセットでご紹介していこう、と。ここ何年かかけ、その道のスペシャリストにも教えていただきながら、かなりチューニングの勉強をしましたよ」
現在はサンダーマックスにツインテックというフルコンに加え、エンジン内部の圧力と空燃比を可視化し、純正ECMのデータをベストな状態へと書き換えるTechnoResearch社製フラッシュチューニング『ディレクトリンク』への対応も開始。ディーラーで扱っているデジテクに迫るメンテナンス力を得つつある。ひとえに「自分の可能性を広げていきたい。新しいハーレーの可能性をもっと掘り起こしていきたい」という松本さんの探究心がその原動力なのだ。
“街のバイク屋さん”のような親しみやすさと求道者のようなストイックな側面を持ち合わせる不思議なショップ、ブラッククローム。のどかな野猿街道沿いのファクトリーからは、今日も笑い声が絶えず聞こえてくる。
BLACK CHROME BIKE WORKS
代表
松本 悌一 氏
1963年生まれ/東京都出身。イージーライダースやH-D正規ディーラー 丸富オートといったショップでキャリアを積み、1999年に東京・調布市にてブラッククロームを立ち上げる。2014年5月にここ八王子市へと移転し、店舗もスケールの大きなものに。横浜ホットロッドショーやクールブレイカー、神戸ニューオーダーといったカスタムショーに登場する常連でもある。
リジッドスポーツスターからツインカム、ビンテージハーレーまでさまざまなタイプのハーレー中古車を取り扱っている。ここにないものでも、希望を伝えれば程度の良い中古車を探してくれる。
ブラッククロームが特に最近力を入れているインジェクションチューニング。「知れば知るほど奥深さが出てくる」と松本さんも積極的に取り組んでいるメニューだ。
調布時代の倍以上という大きな敷地のファクトリー。お客さんのバイクを安心して預かれるうえ、作業スペースもたっぷりと確保。2階は事務所兼倉庫とされる。
実は松本さんの奥様の愛車というまばゆいブルーが印象的なチョッパースポーツ。掲げたコンセプトは“ガールズハーレー”、女性でも乗れる車高と操作性の良さを併せ持つ一台として仕上げられている。当時のブラッククロームには「フレームには手を入れない」という暗黙のルールがあり、裏テーマとして「フレームを触らずにやれるカスタムの限界への挑戦」もあったのだという。
足つきの良さを生むために、ダイナ用の11インチサスを取り入れてめいっぱい車高を下げた。そうするとオートバイに必要なバンク角が損なわれるかに思えるが、「車高を思いっきり下げても、リジッドスポーツならしっかりとバンク角を確保できるんです」(松本氏)と、操作性の良さとも相まってライディングパフォーマンスもきちんと保つ一台に。それでいてエイプハンガーとマスタングタンクを取り入れてチョッパーライクなスタイリングにまとめるあたりは、さすがブラッククロームと唸らされるセンスである。
現在は50代になるというオーナー所有だが、元々はブラッククロームがコンセプトモデルとしてカスタムしたローライダーだという。テーマに掲げたのは“走りのダイナ”。「よくあるローライダーカスタムはしたくなくて、ブラッククロームにしか作れないスピード感を感じられる一台にしようと、そこかしこに個性を注入しました」と松本氏は語る。
安易にドラッグバーを選んでしまいそうになるところを、ブラッククロームお得意のワンオフバーを取り入れて他にないシルエットを与えた。同じくワンオフというステンレス製2in1メガホンマフラーは、無駄を削ぎ落とした全体のシルエットに攻撃的なイメージを付与し、テーマどおりのマシンへと昇華させている。エンジンもボアアップされているので、ハイウェイでその力を発揮すれば直線番長と呼ばれるであろう凶暴な走りを見せつける。「こんなローライダーがあったら面白い」という松本さんらしい遊び心から生まれたチョッパーレーサーは見事な完成度でフィニッシュしている。
来店当初は修理依頼だったこのショベル。実際にいろいろとチェックしてみたところ、至る箇所に不具合が見受けられ、オーナーと相談した結果、フレーム載せ換えを含めたバイクとしての構造を見直しつつ、この世に一台だけのチョッパーハーレーを作ることに。納車まで数年を要したというだけあって、そのスタイリングと完成度は他のカスタムハーレーを圧倒する。
カスタムのテーマは“古いクラシックカー”。軸となるカラーリングは往年のフェラーリを彷彿させる鮮やかなレッドとされ、フルオーバーホールされたアーリーショベルエンジンを積む新フレームまで真っ赤に塗装された。それも、すべてパウダーコートのパテを使ってパウダーコートのクリアーを吹くという極上の仕上げとされている。そこに違和感なく組み込まれたドラッグパイプが、この一台をさらにアグレッシブな印象へと高めている。フロントホイールが23インチというスプリンガーディガー、街を駆け抜ければ真っ赤なボディが見る者の目に焼き付くこと請け合いである。
中央道・国立インターから車で約15分、最寄り駅である京王相模原線 堀之内駅から徒歩約13分という好立地の新店舗は、ショップ前に駐車スペースが設けられているのでバイクで気軽に行くことができる。代表の松本さんと、メカニックである息子の大地さんによる親子鷹のカスタムショップだ。
BLACK CHROME BIKE WORKS
住所/東京都八王子市越野24-11
電話/042-677-8111
営業/13:00~19:00
定休/水曜、祝日(イベントまたはレースのある日)
ウェブサイト/http://www.blackchrome.net/