45 Degree 代表
保浦 正幸 氏
1983年生まれ、広島出身。10代からハーレーに乗り、高校卒業後にメカニックとしてこのショップに就職。父親が築いた個性的なハーレーショップを 2008 年より引き継ぎ、現在に至る。
掲載日/2013年5月15日
エンジンチューニングと聞くと、まず一番にイメージするのがパワーアップやトルクアップといった絶対的なパフォーマンス向上だ。しかし、本来のチューニングとは調整である。楽器の音程を調整したり、ラジオの選局などもチューニングと言うのだから、納得できるだろう。
45ディグリーの代表、保浦正幸さんが徹底的にこだわるのが、“調律”という意味合いでのチューニング。違う表現では、バランス取りということでもある。
「とにかく、ハーレーのエンジンが大好きなんですよ。独特の乗り味はエンジンの個性があってのもの。他のメーカーがどんなに似たシルエットのモデルを作っても、ハーレーには絶対にならない。それはやっぱりあのエンジンが独特のフィーリングを持っているからです。僕らの仕事は、ストックのハーレーをカスタムすること。それはスタイリングももちろんですが、心臓部のエンジンをチューニング (調律) することで、ハーレーらしさを追求します。そこには僕らの経験とノウハウも必要ですが、ユーザーが求めているフィーリングも重要なんです。だからディスカッションは欠かせないですね。僕らが身勝手にバイクを組んで売り付けるということはしません。ユーザーが満足するカスタムを提供しないと、意味ないですからね」
保浦さんは、カスタムを料理に例えた。美味いかそうでないかは、料理人次第だ。たとえ素材が素晴らしくても、料理人のセンスがもっとも問われる。そしてその料理を口にするのは、作った本人ではなくユーザーなのである。だからユーザーの声には常に耳を傾け、求められているフィーリングを理解して、その味を表現するための方法を研究するのだ。
保浦さんはインジェクションチューニングも得意分野としている。ラスベガスのハーレーディーラーに勤めながらスピードフリークの聖地 ボンネビル・ソルトフラッツに挑戦し続ける日本人 ヒロ小磯氏を代表とする「チューナーズ・ネイション」のメンバーでもあると同時に、オリジナルで開発したノーマル CV キャブレターのチューニングメニューも豊富に取り揃える。つまり年式に関わらず、すべてのハーレーを対象として総合的なカスタムを作り上げることが、彼の仕事なのである。
「性能追及って、データだけではダメなんですよ。特にハーレーは“感覚性能”というのがあって、そこが重要なんです。逆に言うと、その感覚性能を導き出すためのデータは数字管理する必要がある。膨大なデータは全部僕らのノウハウになります。だから、ウチではインジェクションモデルに施すチューニングの再セッティングは無料にしています。もちろんマフラーやエアクリーナーの交換は対象外ですが、“チューニング”に関してはすべてのチューニングが完成しても、オーナーそれぞれの好みというものがあるので、納車前に試運転による確認をお願いしています。しばらく走っていただき、「こうしたい!」という方向性を出していただければ、そこまでは無料で調整している、ということです。それが僕らのノウハウになっていくわけですから、お客さんとディスカッションしながらより良い状態を探っていくというのは歓迎ですよ。そう、シャーシダイナモはキッチンで、僕らは料理人なんです」
保浦さんは、どのエンジンにも魅力的な個性があると強調する。旧車には、新型のハーレーでは表現できないフィーリングがあり、その逆もまた真理。どのモデルを選ぶかはユーザー自身が決めることだ。しかしそのすべてがハーレーダビッドソンであり、どのモデルにも魅力的な個性があると話してくれた。
45 Degree 代表
保浦 正幸 氏
1983年生まれ、広島出身。10代からハーレーに乗り、高校卒業後にメカニックとしてこのショップに就職。父親が築いた個性的なハーレーショップを 2008 年より引き継ぎ、現在に至る。
Forty-Five Degree
住所/広島県安佐北区上深川町380-1
Tel&Fax/082-844-7845
営業/10:00~19:00
定休/木曜
>> ウェブサイト
エボリューション時代に登場したソフテイルは、そのフレームワークを見ても分かるように、パンヘッド時代のハードテイルフレームのシルエットを現代に蘇らせたものである。つまりデザインソースは 1950 年代のパンヘッドにあり、特に前後ホイールが 16 インチのヘリテイジソフテイルは、まさしくハイドラグライドのレプリカとも言えるスタイリングだ。
このカスタムは、S&S製のコンプリートエンジン「P93 CTO」を搭載した究極のパンヘッドレプリカである。排気量は 1,520cc で、余裕のあるトルクフィーリングが特徴。特に低速から中速域での丸いトルクとスムーズな回転は、パンヘッド時代の半円球燃焼室と、ドームトップピストン特有の乗り味で、法定速度域での乗りやすさと力強さが抜群のものだ。
最近、製品精度の安定性が向上したS&S製コンプリートエンジンをすべて分解してバランス取り、そして正確に組み上げたことで得られるフィーリングは、独特の緩さと軽やかさが特徴であり、現在手に入る本家のパンヘッドモーターをどれほど整備しても得られない安定性能を誇る。点火はポイント式ではなく、コンピューターモジュールによる電子制御。キャブレターはS&SのタイプEをファインセッティングして使用する。
バイクの使い勝手は変わらないまま、エンジンのみノスタルジックなパンヘッドを装備する。メンテナンスにおいても現代的なユニットゆえ、大きな魅力があるのではないだろうか。
シリンダーヘッドをパンヘッド仕様に換えただけのモデルではない。現代の技術から生まれた安定した乗り心地にヴィンテージルックなフォルムを加え、絶妙なフィーリングを味わいながら快適なツーリングが楽しめる、45ディグリーの哲学から生まれた渾身の一台。誰もが思い描く理想を見事に実現した、そう言っていいだろう。
保浦さんの 30 歳という年齢をお聞きして驚いた。所作が実に落ち着いていて見識もある。そして何よりハーレーを愛してやまない。手際はスピーディで無駄がなく、聡明である。
「義を見てせざるは、勇なきなり」とは日本人特有である武士道の根源で、それを「正義」と解釈するのだが、保浦さんが挑んでいるさまざまなチューニングは、まさにこの正義と感じるものばかりだ。特にノーマルキャブレターのファインチューニングや、サスペンションチューニングなどのメニューは、細かいデータの集積とアイディアの宝庫であり、保浦さんならではの世界でもある。
カスタムやチューニングと言う表現を、安易に解釈してはいけない。今回の取材で得られた、とても大きな収穫だった。
情熱にあふれた若きビルダーが日々精進する姿に、日本のモーターサイクル文化の希望を感じた。