前回のエアクリーナーのメンテナンスに続き、今回はキャブレターのオーバーホールをご紹介しましょう。距離を重ねるほどキャブレターは汚れてきます。汚れが貯まってくると、各部が適切な動きをしなくなり、調子が崩れてくることも当然あります。そういった場合はキャブレターを取り外し、構成部品を掃除してやりましょう。キャブレターのオーバーホールは、そうそう頻繁に行う作業ではありませんが、手順を知っておけばいつか役立つこともあるでしょう。下記に簡単なオーバーホール方法を紹介しますので「ああ、こういう作業をしているんだな」とご理解いただければと思います。
エアクリーナーを外すまでの行程は 前回のコラム を参照ください。キャブレターを車体から外す際、まずはスロットルワイヤーを緩める必要があります。緩めないと、キャブレターからスロットルワイヤーを取り外せません。スロットル下部に引き側、戻し側の2種類のスロットルワイヤーがあります。ですので「3/8のレンチ」を2本使いロックナットを緩め、アジャスター部分の遊びを最大にしてください。2本のスロットルワイヤーが緩めばキャブレターからワイヤーを簡単に外せるでしょう。
次に車体左側に取り付けられている「エンリッチナーワイヤー」を緩めましょう。ステー裏側に17mmのナットがありますので、これを緩めエンリッチナーを固定から外します。キャブレター取り付け時にエンリッチナーを固定する際は、ナットの締め過ぎに注意してください。本体は樹脂製のため締め過ぎると樹脂部分が割れてしまい、固定できなくなります。
スロットルを緩めエンリッチナーを外せば、キャブレターの取り外しができるようになります。ただ、キャブレター下部のフロート室にはガソリンが残っていますので、ドレンボルトからキャブレター内部に残されたガソリンを抜いておきましょう。キャブレターを触る際には、火気には特に気をつけないといけませんから。そして、いよいよキャブレターの取り外しです。取り外しの際にはタンクやシリンダーヘッドを傷つけないよう、タンクにウエスを貼り付けたり、キャブレター左右のシリンダーヘッドにガムテープを貼ったりして、傷をつけないよう保護しておいた方が安心です(左上の写真を参照)。無理に力を入れず、少しずつ体側に引っ張っていきましょう。何度か引くとキャブレターは抜けてくれるはずです。キャブレターを外したら、エンリッチナーのケーブルがキャブレターにぶら下がっています。エンリッチナーは外さなくてもオーバーホール作業は可能ですけれど、必要ならエンリッチナーのバルブを外してください。取り外しの際は、右上の写真のようにゴムブーツを外してからが良いでしょう。ナット部分はプラスティックですから壊さないようにしてください。
これでやっとキャブレターをバラバラにすることができます。まずはトップカバーから外しましょう。外すのに邪魔になるワイヤーホルダーを取り外し、トップカバーを停めているネジ4本を外せばカバーは外れます。カバー内部には強いスプリングが入っているので、カバーを外すときは注意してください。カバーを抑えていないと、スプリングの力でカバーが飛ばされてしまいますよ。カバーを外せば、ゴムでできた「ダイヤフラム」、「ニードルホルダー」、「ジェットニードル」が引き抜けます。ダイヤフラム下部にはボア内部で、上下するピストンが付属しています。ここはカーボンなどで汚れやすい部分ですから、外した際には必ず掃除してやりましょう。カーボンや汚れを除去するのには、右上の写真のようなエアゾルタイプと、漬け置きタイプがあります。ただし、クリーナーの中にはゴム部品を侵すものもありますから、ダイヤフラムを傷めないようにご注意ください。写真で紹介しているのは、私が今まで使ってみて一番良かったものです。ボア内部にあるスロットルバルブはオーバーホールの際には通常外しません。もし、外す場合には取り付けビスの裏側がカシメてありますのでご注意を。
次は、キャブレター下部のフロート室の掃除をしましょう。4本のネジを外し、カバーを外すと左上の写真のような構造になっています。外したフロート室の内部が緑色になっているときは過去にフロート室内部で“ガソリンが腐った”ことがあり、ジェット類の小さな穴に腐ったガソリンの固形分詰まっている可能性が高いです。ちなみに写真内の「1」はフロート室内部のガソリン量を調整するフロートです。これを外す場合はフロートピン(写真内の2)径が約2.5mmですから、これより細いピン抜き工具(写真内の3)で押し出します。ピンが刺さっている穴の径は微妙に異なり、写真で上側がキツク、下が緩くなっていますから、写真の向きに外すのがいいでしょう、取り付けるときは反対の向きです。無理に押すとボディを破損してしまいますのでご注意ください!
フロートを外し、ジェット類を外しましょう。「a」はスロージェット、「b」はメインジェット、「c」はスローミクスチャースクリューです。各ジェットの働きは ジャイアン氏のコラム をご参照ください。写真は、ジェット類を外した後の姿になります。ちなみに「c」のスローミクスチャー関連の部品はパーツカタログには記載がなく入手できませんから、紛失や破損に注意。ジェット類が固定されているホルダー部分は小さく、しかもジェット類は真鍮でできており、ドライバーで外す際にナメやすいのでこちらも気をつけましょう。
外したジェット類は、ガソリンに混ざったゴミやタンクの錆などで詰まっていることもあります。光を当てるなど目視で詰まりを確認し、キャブクリーナーなどで汚れを落としてしまいましょう。一見汚れていなさそうでも、せっかくですからガソリンが通る通路部分はすべて掃除してやってください。小さなゴミがキャブレター不調の原因になることもありますから、オーバーホールの際は、外したパーツをすべて掃除しておくのをオススメします。すべて掃除が終われば、部品を組み上げていきますが、フロートの調整には注意してください。左上の写真のように、青い矢印の向きにキャブレターを立て、フロートの重量でフロートバルブのピンを押し込まないようにした状態で、フロートの隙間を測定してください。規定値は10.59~11.51mmです。ここの調整をおろそかにするとフロート室で一時的に貯めておくガソリン量が多すぎたり、少なすぎたりしてしまいます。
キャブレターの構成部品をすべて(本当は他にもバラせる部分はありますが)バラバラにすると、上のようになります。オーバーホールが終われば、バラした順番と逆の手順で1つずつ部品を組み上げ、作業は終了です。すべての構成部品を綺麗にした上で改めて組み上げてやると、新品に近い状態に戻り、正常な吸気性能が戻ってきます。キャブレターはハーレーの性能の大きく左右する部品で、オーバーホールするだけで調子が戻ることは珍しくありません。滅多に行うメンテナンスではありませんが、ある程度距離を走ったオーナーの皆さんは、キャブレターのメンテナンスも考えてやってくださいね。
53歳。1979年に「モトスポーツ」を創業。ショベルヘッドが新車の頃からツインカムが現行の今までハーレー業界の第一線で活躍している。オートバイを愛するが故に規制対応マフラー「ECCTOS」やオリジナルエンジン「U-TWIN」の開発に携わる情熱家でもある。