VIRGIN HARLEY |  第2回 オイルの働きなぜから学ぶハーレーメンテ講座

第2回 オイルの働き

  • 掲載日/ 2006年03月10日【なぜから学ぶハーレーメンテ講座】
  • 執筆/モトスポーツ 近藤 弘光
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オイルの5つの働き。その全てを知っていますか?

オイルの役割は下記の5点があります。ほとんどの方が、この中で数点しかご存知なかったのではないでしょうか。潤滑、冷却、清浄作用はご存知でも、密封、クッションはなかなか難しい、というよりマイナーな存在ですからね。ここではこの役割を簡単にご紹介しましょう。きっと、オイルの涙ぐましい働きに感動されると思いますよ。

効能 内容
潤滑作用 金属同士の摩擦を軽減し、磨耗や溶着を防ぐ
冷却作用 エンジンの燃焼熱と摩擦熱を運び出す
清浄作用 部品が磨耗する際に発生する金属粉、ブローバイガスや燃焼によって生成される化合物、熱によって酸化されたオイルなどを取り込む
密封作用 シリンダー壁とピストンリングの間にオイル被膜を作り、燃焼室からのガス漏れを防ぐ
クッション作用 各部品間の運動による衝撃をオイル被膜で和らげる

さて、役割について見てきたわけですが、オイルとエンジンの関係に触れておきましょう。エンジンには『最適運転温度』というものがあるのをご存知でしょうか。エンジンは燃焼することで各部品が膨張しています(もちろん、膨張率は素材やその部品が使用されている箇所によって異なります)。一般的に空冷エンジンは、運転環境により温度変化が水冷エンジンに比べて大きく、条件は厳しいものになりがちです。空冷エンジンは最適運転温度を維持するためにオイルに依存しています。特に高温域では依存度は高くなり(※)、一般的に言われる油温の上限である120度にはすぐに到達してしまいます。

※最近のハーレーダビッドソン
排ガス対応エンジンでは、希薄燃焼のためにガソリンによる冷却効果が期待しづらく、燃焼温度が高くなり油温が上昇しやすくなっています。

オイルがなぜ劣化するのかをご存知ですか?

『ベースオイル』と呼ばれるモノに『ポリマー』が配合されたものが、エンジンオイルです。ポリマーが配合されているのにはわけがあります。ベースオイルは温度上昇とともに流動性が高く(粘度が低く)なる性質を持っています。そのままの状態では高温のエンジン内部で働くことはできません。ポリマーは拡大して見るとマカロニのようなカタチをしており、温度が低いと『縮み』高くなると『広がって』、ベースオイルの温度特性を補正する仕組みになっているのです。『ポリマー』が配合されることで幅広い温度でも粘度が保たれるように精製されているわけです。

しかし、エンジンオイルの使用期間が長くなるとポリマーは破壊され、減少してしまい、次第にオイル粘度は下がってきます。また、エンジンオイルの上限温度を超えた運転でもポリマーの減少が著しくなります。『使用期間』と『高温過ぎる環境での使用』の結果、エンジンオイルはサラサラになってしまい、正しい機能を果たさないオイルになってしまうのです。

※臭いで知るオイルの状態
オイルのニオイは未使用時、使用後、使用中(高温時)で変化します。特にオーバーヒートやそれに近い時にオイルのニオイを臭ってみると、鼻を突くようなきついニオイがします。このときは相当酸化が進んだ状態です。このような潤滑性能が下がったオイルをそのまま使用し続けると、摩擦熱の発生が大きくなり、さらにオーバーヒートがひどくなる可能性が高まります。そのまま放っておくと想定外の磨耗、焼き付きなどでの異音が発生し、最悪の場合エンジンが壊れてしまうのでくれぐれもご注意ください。

ハーレーの3種のオイル。交換頻度を知っていますか?

さて、オイルの役割や仕組みについてはお分かりいただけたでしょうか。それでは、各オイルの交換頻度についてご説明いたしましょう。

エンジンオイル

オーバーヒートなど、突発的なことがなければ、距離によるオイル交換の目安は2500km程度をオススメします。あまり距離を乗らない方は、秋と春の年2回で大丈夫でしょう。秋は過酷な気温の夏を経験し、オイルが傷んでしまっている季節です。また、春は、冬期に走ることでエンジン内部に急激な温度差が発生、内部で結露が起こり、オイルへ水分が混入してしまっている可能性がある季節です。そのため春と秋の季節でのエンジンオイル交換もオススメします。

ミッションオイル

エンジンに比べるとミッション部分は、燃焼がなく、さらされる温度は低くなっています。しかし、ギアの歯の間の荷重は大きく、エンジンオイルに含まれるポリマー程度ではすぐに破壊されてしまいます。そのためメーカー指定のミッションオイルや、それに準じたオイルの使用が必要です。また、大雨の中を長時間走行するとブリーザーから水が混入し、白濁することもありますので、そういった条件下での使用後は必ずチェックしましょう。オイル交換の頻度は5000km程度ですが、容量が少ないために少量のオイルが漏れただけでもオイルレベルは下がってしまいます。オイル量はときどきチェックしましょう。

※ヘリカルギア
ヘリカルギアを採用している近年のモデルは、ギアがすべる速度が速いため、諸条件はより過酷になります。

プライマリーオイル

ミッションオイルと違い、スターターモーターのピニオンギアがリングギアに飛び込むため金属破片の混入が多く、またクラッチにオイルが貯まっているためクラッチの磨耗分が混入し、汚れが激しいオイルです。使用するオイル粘度によっては、クラッチの「切れ」が変化しますので、こちらも指定のオイル使用を心がけてください。プライマリーオイルは5000km程度での交換をお勧めします。

【参考】オイルにとって過酷な環境ってどこなの?

シリンダー

エンジン内部のシリンダーはオイルにとっては環境が厳しいところの一つです。1000℃の燃焼ガスにさらされながら、秒速25mのピストン/リングを潤滑しているため、エンジンオイルの一部は炭化してしまいます(このときオイルの供給量が多すぎるとオイルの消費量が多くなります)。空冷エンジンのオイルが水冷エンジンより黒くなりやすいのはこのときに炭化するオイルの量が多いからです。

バルブトレイン

次に条件が厳しいのはシリンダーヘッドのバルブトレインです。ハーレーのようなOHVシステムでは最高回転数はそれほど高くはなりません。しかし、重厚なバルブトレインが使用されているので、バルブスプリングも強固なものが使用されています。そのため、ロッカーアームシャフトの潤滑を担うオイルの負担はかなりのものがあります。ここは元々燃焼熱の影響を大きく受ける環境下のため、ホットスポット(熱だまり)が出来やすく、ここでもオイルの炭化が起こってしまいます。

クランクベアリング

ハーレーではクランクベアリングにコロベアリング(ボールベアリング、ローラーベアリングなど)が採用されており、クルマなどのプレーンベアリングに較べるとオイルへの負担はさほどではありません。しかし、それでもコンロッドの大端部は回転数に比例して発生する数百Gのショックを和らげなければならず、オイルの衝撃を吸収する役割が必要とされる部分です。

用語解説:プレーンベアリング

4気筒エンジンやクルマのエンジンのクランクシャフトやコンロッドに使われている通称「メタル」といわれている軸受けです。ベアリングと違い分解できるので、クランクシャフトを一体に作れるので広く使われています。しかし、理論上は金属間の接触はないように油圧の上にフロートされる必要があるので、どのような条件下でも油圧が必要です。ここまでの説明でお気づきの方がいるかもしれませんが、日常点検の際に皆さんがオイルタンクで測定する油温はごく平均的なもので、エンジン内部のオイルはオイルタンクで測定される数倍の温度に晒され、過酷な環境の中で働いているのです。

プロフィール
近藤 弘光

53歳。1979年に「モトスポーツ」を創業。ショベルヘッドが新車の頃からツインカムが現行の今までハーレー業界の第一線で活躍している。オートバイを愛するが故に規制対応マフラー「ECCTOS」やオリジナルエンジン「U-TWIN」の開発に携わる情熱家でもある。

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