1990年代のアメリカではそれまでの55mph(約90km/h)という速度規制が見直され、65~75mph(100~120km/h)へと緩和されました。これに応える形で1999年に登場したのが「ツインカム88(1450cc)」です。さらに2007年にデビューしたツインカム96(1584cc)から2011年にはツインカム103(1689cc)がツーリングファミリーの4モデルに搭載。2014年にはツインクールドツインカム103(1689cc)が、そして2016年にはCVOにのみ搭載が許されていたスクリーミンイーグルツインカム110(1801cc)がSシリーズに採用されました。まさにハーレー大排気量化時代の到来と言えるでしょう。
1984年に登場して以来、約16年間に渡って愛されてきたエボリューションも、当時のクリントン政権が行った国内最高速度引き上げ(100km/h以上の巡航が合法となりました)によりその役目を終えようとしていました。もちろん65~75mphという速度は、エボリューションでもまったく問題のない数字です。しかし、荷物満載で1日何百キロも走りぬくアメリカのライダーには、少々パワー不足は否めなかったのも事実です(さすがにアメリカ、走行距離もスケールが違いますよね)。
そこでハーレー社が1999年自信を持ってリリースしたのが「ツインカム88」エンジンです。なんと従来までのワンカム構造を改めカムシャフトを2本にするという大改革が行われました。もちろん、ハーレーの伝統とも言うべき空冷45度VツインOHVは守りながらです。排気量は従来の1340ccから1450ccへ拡大され、ハイウェイでもストレスなく走りきることの出来るエンジンが誕生しました。
またそれ以外でも、シリンダーフィンの表面積を増やすことで冷却効率を約50%ほどアップさせたり、排気バルブの小径化するなど混合気の完全燃焼を図るコンバスチョン技術と細かい点火時期制御で厳しい排気ガス規制にもクリアできるようになっていたりと、まさに現代に適応するものとなっています。
ちなみに1999年のツインカム88はツーリングファミリー、ダイナファミリーに搭載され、ソフテイルはエボリューションのままでした。2000年、無駄な振動を効果的に打ち消すバランサーを搭載したツインカム88Bエンジンを搭載したソフテイルがデビューし、ビッグツインはすべてツインカム88(またはB)に統一されました。
冒頭でも申しましたが、ハーレーユーザーの最大の要望は「モアパワー」でした。これまでのハーレーの伝統的なワンカム方式で排気量アップ(出力アップ)を目指すためには、クランクケースが大きくなってしまったり(排気量がアップするとギヤトレインの1軸カムでクランクシャフトの強化、ベアリングの大径化が必要でした)、エンジン全高が高くなってしまったり(ストローク延長のため)と乗り物として不適当だったんですね。
空冷45度Vツインという伝統を守り、排気量アップに見合う強度をもち、コンパクトなクランクケースを実現するという、この難題の解決策が「カムシャフトを前後に振り分け、それをチェーンで駆動させる」という方法だったのです。そう、つまり2カム方式、ツインカムというわけです。ちなみに一般的に「ツインカム」というと『DOHC=ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト』を示します。ハーレーに乗らない人に「ツインカム」というと誤解を招くかもしれません。そういう時には「2カムOHV」のことと説明してあげてください。
ハーレー社がツインカム88発表時に『ファットヘッド』とアナウンスされていますが、ほとんどの人は「ツインカム」と呼んでいますね。エボリューションの『ブロックヘッド』以来、通称はあまり根付いていないんですね。それだけ正式名称が呼びやすいという話でしょうけれども。
大幅に向上しています。ボアを約6.5mm拡大、ストロークを約6.4mm短縮して、ショートストローク化し、高回転型のエンジンとすることで、上限回転数がエボ時代の5,000回転から5,500回転へとアップ。排気量が110ccほど大きくなったこととあわせて非常に大きなトルクと最高速度を持ち合わせることに成功しています。また、当時はオプションで1550ccへのボアアップキットも純正部品で用意されており、更なる最高時速の引き上げにも対応していました。
ツーリングファミリーやダイナ、ダイナグライドファミリーはラバーマウント(エンジンをフレームに取り付ける際、ゴムを介して取り付ける手法。高回転域での不愉快な振動をゴムが吸収してくれるメリットがあります)が採用されています。しかし、ソフテイルはエンジンとフレーム、タンクとの間に隙間がないという美しさを重視したモデルです。ラバーマウントの性能は充分ですが、アイドリングや低速時にエンジンが大きく震えるためにエンジンとフレーム、またはタンクとの間に隙間を作る必要があります。エボリューションまでのソフテイルはエンジンをそのまま取り付けても問題ありませんでしたが、ツインカム88の場合はその強大なパワーでそのまま取り付けることが難しい状況でした。振動が強すぎて、乗りづらいというわけです。そこでハーレー社は、ツインカム88に振動を打ち消すバランサーを搭載することにします。こうして完成するのがツインカム88Bなのです。ソフテイルの美しいマウントを実現するために、専用エンジンを改めて作るというこのこだわりこそがハーレーたるゆえんかもしれませんね。
エンジンの大きさを示しています。単位はキュービックインチですね。ちなみに1ci(キュービックインチ)とは、約16.378cc(キュービックセンチメートル)のこと(1インチが約2.54cm。1立方インチは2.54cmの3乗)。つまりエボリューションの1340ccは80キュービックインチ、ツインカム88の1450ccは88キュービックインチというわけですね。単位がややこしいですが、まあ1ci=16.4ccと覚えておけば問題ないと思います。
全世界的に年々厳しくなる排ガス規制に対応し、モアパワーを求めてツインカムの排気量はどんどん大きくなっています。2007年にはツインカム96(1584cc)が、2011年にはツインカム103(1689cc)がツーリングファミリーのFLTRU103、FLHTCU103、FLHTK103、FLHTK103 W/SCに搭載されました。豊かなトルクと沸き上がるパワーが低速域から高速走行までゆとりに満ちた走りを実現。快適な旅のための装備と走行性能がさらにスケールアップしたと言えます。
2014年にはツーリングファミリーのアップデイトプログラム「プロジェクトラッシュモア」により、大幅なリューアルが施されたツーリングモデル。中でも注目は従来の空冷ツインカム103エンジンに水冷機能を備えたツインクールドツインカム103の登場でした。ロアフェアリング内にシリンダーヘッドを冷却するラジエーターを装備した革新的なエンジンです。
年代が前後しますが、2010年には毎年ミッドイヤーモデルとして発表されていたファクトリーカスタムの最高峰「Custom Vehicle Operation(CVO)」がレギュラーのイヤーモデルとしてラインナップに加わりました。そのエンジンはハーレー最強のスクリーミンイーグルツインカム110(1801cc)です。そして2016年には、その圧倒的ハイパフォーマンスを誇るスクリーミンイーグルツインカム110エンジンを搭載したSシリーズが発表されました。ソフテイルスリムS、ファットボーイSに続いて2016年1月にローライダーSが登場したのです。