今でも中古車市場では豊富な玉数のある「エボリューション」エンジン。このエンジンは、ハーレー社の歴史を大きく前進させた名機なんです。今回はこのハーレー社を飛躍させた「エボリューション」エンジンについてクローズアップして解説いたしましょう。
ハーレーOHVの第4世代にあたるエボリューション。このエボリューションが誕生したのは、1984年でした。前回のショベルヘッドのページでご紹介したとおり、この84年以前は、ハーレーにとってまさに激動の時代でした。1969年にAMFに買収されていたハーレー社ですが、ニューモデルを矢継ぎ早に発表し大きく販売台数を伸ばし、収益体制は改善されていました。そして1981年、AMFより株式を買い戻し、独立に成功します(バイバック)。「ハーレーダビッドソンは、ハーレーダビッドソンを愛する者で作る」。これこそが当時の経営陣の、ひいては会社としての基本精神でありました。
しかし、いいことばかりではありません。1970年代後半に日本のマルチエンジンが席巻していたアメリカでは「ハーレーは、重い、遅い、壊れる」といった風評が流れるようになり、ブランドイメージは失墜していました。また、国内でのハイウェイ制限速度引き上げなどハーレーにとっては不利な条件が重なっていたことも事実です。それでもハーレーが収益を改善できたのは、ハーレーの独特のフィーリングと伝統、そして根強いファンのおかげといえるのかもしれませんね。
さて、独立を果たしたハーレー社はこの高性能な日本車に対応するだけの性能を持つエンジンの開発を目指します。そう、それこそがこのエボリューションエンジンです。「エボリューション=進化」と名づけられたこのエンジンは、その名のとおりまさに革新的でした。徹底した生産管理体制によって、ショベルヘッドにあったマイナートラブルを激減させることに成功しています。出力面の向上以上にエボリューションでは品質向上に功績があるといえます。
エボリューションでは大きな変更が多々あります。ナックル以来のOHV方式、1カム構造などの伝統を守りながらも、コンピュータ設計、アルミ素材の前面採用などによって、耐久性、出力面のアップなどを実現していました。耐久性はショベルヘッドと比べて飛躍的に上昇し、またオイル漏れなどのトラブルも激減しています。それまである程度知識を持った人が中心に乗られていたハーレーを、一般的にしたエンジン…そういっても過言ではないでしょう。
エボリューションは、四角いヘッド形状から「ブロックヘッド」とも言われています。ただ、これはエボリューション登場当時にショベルヘッドの愛好家などがエボリューションを「ブロックみたいでデザインが悪い」と酷評したときに用いた言い回しであり、現在ではあまり使用されてはいません。
はい。それはエンジン構造にあります。エボリューションまでは、上述したとおり『1カムエンジン』でした。しかし、ツインカムからは名前のとおりカムが2つになっているのです。今でもこの「1カム」を愛するファンは多く、エボリューションを筆頭にショベルなども根強い人気があります。
大きなものに『ソフテイル』シリーズがあります。特にエボリューションとともに登場した『FXST』は、サスペンションが見えないフレームを採用し、大人気となりました。またスポーツスターもビッグツインに遅れること2年、1986年にエボリューションエンジンを採用しています。さらには1988年に『FXSTS(ソフテイル・スプリンガー)』が登場。現代にスプリンガーフォークを蘇らせたことで話題を呼んでいますし、『FLSTF(ファットボーイ)』も革命的な人気を博します。
また、ショベル時代からあったFXRに変わって1992年には『ダイナ』シリーズが『ダイナ・スタージス』で登場しました。人気車種であるローライダーこの『FXDL(ダイナ・ローライダー)』としてリリースされています。上記よりお分かりになるように、この時代には超人気モデルが多々登場しています。このエボリューションがいかに優れたエンジンであったかを証明するものともいえるでしょう。
はい、ありました。1984年当時のエボリューションはショベルヘッドのパーツが多々使用されています(このために『エボショベル』などといわれることがあります)。しかし、ハーレー社は徐々にエボリューションを改善してきました。以下に代表的な改善点を列挙いたします。
1985年
? 湿式クラッチの採用。また、シリンダーヘッドからクランクケースまで貫通したスタッドボルトを採用することで、剛性のさらなるアップとオイル漏れ対策が施されています。
1988年~1991年
?・CVキャブレターの採用 ・クランクシャフトの3ピース化
? ・ギアノイズ対策としてギアの変更
? ・5速ミッションを採用
1993年
?・ブリージングシステムの採用
1995年
?・フュエールインジェクション(EFI)システムを採用
エボリューションは、硬質かつ無機質な振動のため、好き嫌いの分かれるエンジンかもしれません。ショベルを代表する旧エンジンほど独特のフィーリングはなく、またツインカムほど性能もない。いわば進化の途上のエンジンです(そういう意味でこのエボリューションという名前はしっくりきますね)。ただ、それでもこれほどの耐久性をもって、旧車のようなフィーリングを味わえるのは魅力ではあると思いますし、一部の方々がエボリューションにこだわるのも理解できます。ツインカムに比べると、どうしても影の薄いエボリューションですが、このハーレー社を救ったエンジンは、やはり偉大。今、エボに乗っておられる方はぜひとも大切に乗っていただきたいですね。