はじめまして「Motor Cycle MARS」の高谷と申します。今回はキャブレターのカスタムについて担当させていただくこととなりました。よろしくお願いいたします。
キャブレターを触ると愛車の乗り味は大きく変わります。どこからかそんな話を耳にして「キャブレターを換えたいのですが…」と相談に来る方は多くいらっしゃいます。しかし「どんな乗り味を求めてキャブレターを換えるのか」をイメージせず、やみくもにキャブレターを換えてしまうと、後々「こんなフィーリングを求めていたのではなかった…」と後悔したり、予想以上の荒々しさに疲れてしまったりするかもしれません。そこで今回はキャブレター選びについて、それぞれのキャブレターの違いを簡単にご紹介してみようと思います。
キャブレターの役割がガソリンと空気を混合し、エンジンに供給することなのは何となくは理解していると思います(改めてキャブレターの構造、仕組みについてお知りになりたい方は「Virgin-Harley」内に別途解説(※)がありますので、そちらをご覧ください)。混合気の供給方法はキャブレターによって違いがあり、大きくわけて3つに分類できます。純正CVキャブレターやSUキャブに代表される「負圧式・可変ベンチュリー型」、FCRやHSRに代表される「強制可変ベンチュリー型」、S&Sキャブレターに代表される「固定ベンチュリー式」キャブレターの3種類です。
各キャブレターの紹介をする前に、ちょっと難しいですが3種類のキャブレターの特徴について知っておいた方がいいでしょう。しばらく我慢してお付き合いください。
「CV(コンスタント・バキューム)型」と呼ばれるタイプです。エンジンからの吸入により発生したベンチュリー部(空気通路が狭くなっている部分)の負圧を利用し、ベンチュリー径を変化させるキャブレターです。サクション(吸引または負圧)ピストンに固定されたニードルジェットとアクセルと連動したバタフライバルブによりガソリンの量を自動的に増減させ、混合気を制御しています。このタイプのキャブレターは、エンジンからの吸入量によりサクションピストンが作動するため、アクセルと連動したバタフライバルブを急激に開けたとしてもエンジンに必要以上の混合気が吸い込まれることがありません。そのため、加速不良が起こりにくく、ラフなアクセルコントロールでもある程度追随してきますが、その反面アクセルコントロールに対しての反応がワンテンポ遅れるような感じはいなめません。
アクセルに連動したピストンバルブを直接コントロールすることによりベンチュリー径を可変させるタイプで、ピストンバルブに固定されたニードルジェットでガソリンの吸入量を増減させます。アクセルで直接バルブをコントロールするため、アクセル開閉に対して応答性が良い反面、ラフなアクセルコントロールをするとベンチュリー径の急激な変更に負圧によるガソリンの供給が追いつかず失速することもあります。
字通り、ベンチュリーの口径が最初からある口径に設定(固定)されているもので、アクセルに連動したバタフライバルブによって混合気をコントロールしています。元々、ベンチュリー径が決まっているため、性能の大部分がこの口径により決定付けられてしまいます。エンジンの能力に対して口径が大きすぎる場合、低速時など吸入圧力が少ない時には、ベンチュリー効果が低くなりガソリン供給量が不足してしまいます。固定ベンチュリーキャブレターの中には、これを補うために加速ポンプを装備する物もあります。
キャブレターの簡単な仕組みはご理解いただけましたでしょうか。では、皆さんお待ちかねの各キャブレターの違いについてご紹介いたします。
SUキャブもCVタイプのキャブレターですが、ハーレーに使われているCVキャブとSUキャブで大きく違う点は2点あります。1つ目は、CVキャブがダイヤフラム式サクションチャンバーピストンと加速ポンプを装備しているのに対して、SUキャブには装備されていないこと。2点目がCVキャブは、メインジェットとスロージェットの番手を変更してガソリン量を調整するのに対して、SUキャブはメインジェットを上下させ、ニードルジェットとの隙間を調整しガソリン量を調整する点です(実際には、SUキャブにもメインジェットとニードルジェットは数種類有りますが…)。
SUキャブは、1系統でガソリン量をコントロールしていること、CVキャブに比べ遥かに重いサクションチャンバーピストンを装備しているため、CVキャブに比べると穏やかな吹け上がりになり、その独特のフィーリングを好む人が多くいます。しかし、ダイヤフラム式でなく、内壁面の大きなサクションチャンバーの密閉度がゆるいため、外気の湿気などによって、アルミ材質のサクションチャンバー内とサクションチャンバーピストンとの間に腐食(水分と反応して出来る酸化アルミ)と未燃焼不純物流入が発生しやすい構造になっています。特に梅雨時などピストンの張り付きによる始動不良が発生することがあり、日頃のメンテナンスが重要です。
さきほど、CVキャブとSUキャブとではサクションチャンバーピストンの重さに大きな差があると述べました。しかし、急加速した場合などには、CVキャブのピストンの方が軽いため低い負圧でもスムーズにピストンが上昇しはじめます。負圧がまだ低いため、スロージェット(低速系)とメインジェット(中・高速系)のどちらからも一時的に吸入空気量に対してガソリン量が不足してしまい、息つきを起こしてしまいます。そのため、ガソリン量を補ってやるためにCVキャブには加速ポンプがついているのです。加速ポンプのおかげで、CVキャブは低速域からの急加速でも息つぎ無しに加速できるというわけです。これに対して、SUキャブはピストンの重さとピストンスプリングの作用で、たとえバタフライバルブを急激に開いても負圧がある程度上がらないと作動し始めません。また1系統での燃料供給のため、息つぎを起こしにくい構造になっているため加速ポンプを必要としないのです。走好条件やカスタム度合いにもよりますが、加速ポンプを頻繁に使うような加速や空吹かしをしているとCVキャブの方が燃費は悪くなります。
FCRとHSRのもっともわかりやすい違いはその口径です。HSRが42と45の口径、FCRでは(ハーレーによく使われモノだと)38と41口径で、HSRの方が口径は大きく、従ってより中高速での高出力が出せ(排気量やエンジンのチューニング度合いにもよりますが)俗に言う「パンチがある」感じがします。それに対して、FCRは回転上昇が俊敏で尚且つスムーズで、アクセル操作に対してリアルな反応を示し、低速から高速までライダーが積極的にコントロール出来る楽しみが有ります。ただ、どちらも「強制可変ベンチュリー型」のため、ラフなアクセルワークには追随性が悪い場合があり、ストールしてしまうこともあります。
また、性能以外でも「キャブレターの突き出し」の違いも知っておいた方がいいでしょう。HSRはメーカーであるMIKUNI自らがハーレー専用に設計しリリースしているキャブレターです。一方、FCRではメーカーであるKEIHINはFCRを汎用レーシングキャブとしてボディのみを供給しています。メーカーは「ハーレー用」モデルをリリースしていないのです。現在販売されているハーレー用FCRとは各ショップがFCRのボディにハーレー用のオリジナルマウント等をセットしてリリースしています。そのため、どうしてもHSRの方が収まりがよくなります。
固定ベンチュリー型の代表選手的S&SスーパーE、またはスーパーGキャブの特徴を挙げるとすれば、なんと言ってもその口径の大きさから来る爆発的なパワー感でしょう。スーパーEが口径が47.6mmで、スーパーGは52.3mmもあるのです。ただ、これだけ口径が大きいキャブレターだと、口径に見合った吸入ができるエンジンでないと、その能力を最大限に発揮できません。個人的な意見ですがスーパーGキャブは、排気量だけで言うと1500cc以上のエンジンでないとそのパフォーマンスを使い切れないような気がします。より口径の小さいスーパーEキャブであれば、1200cc以下のエンジンでも十分性能を発揮できると思います。ただ、S&SスーパーE・Gキャブは加速ポンプを装備していることもあり、低中速域から高速域への加速での爆発的なパワー感は他では味わえず、非常に魅力的です。ある意味では非常にハーレーらしいキャブレターと言えるでしょう。
キャブレター講座、いかがでしたでしょうか。仕組みの違いがわからないと、その性能・フィーリングの違いを説明できませんので、少し難しくなってしまいましたが、それぞれの特徴を理解した上でキャブレター選びを行えば、イメージと違うキャブレターを選んでしまうことはなくなるでしょう。
最後になりますが、キャブレター選びの際に注意して欲しいことをお話させていただきますと、キャブレターチューンの際はエアクリーナーとマフラーなどとのバランスも考えてください。キャブレターだけを高性能にしても他がダメだと、その真価は発揮できません。ですから経験豊富なショップなどに相談の上、キャブレター選びをした方がいいでしょう。
47歳。20年以上に渡ってハーレー業界に携わっている「Motor Cycle MARS(大阪府高槻市)」代表。スポーツスターでのレース経験も豊富で、整備だけでなく、カスタム・エンジンチューンまで何でもござれの頼れるショップ。