カスタムの定番と言えば、キャブレターやマフラー の交換。しかし「もっとパワーを! もっとトルクが欲しい!」という際に取り入れるのが ボアアップ と呼ばれる、排気量を上げるためのカスタムです。今し方排気量を上げることを“ボアアップ”とひとことで言いましたが、排気量を上げる手法は2種類あります。それはこの「ボアアップ」と「 ストローク アップ」。「どちらがどう違うの?」と思われる方のために、今回はこの2種類の排気量アップ法についてご説明していきましょう。
まず「 排気量 」という言葉の意味について解説していきます。排気量とは、「シリンダー内部にどれだけ混合気(気体もしくは霧状の燃料とが混ざり合った状態の空気のこと)を吸入できるのか」を示す数値のことです。日本車における排気量を示す数値の単位は「cc」で、ハーレーなどアメリカが生産する車の一部では「キュービックインチ(立方インチ)」で表します。ちなみに1キュービックインチ = 16.387cc で、ツインカムエンジンの“88”や“96”と表記されている数値はキュービックインチで示したものです。また排気量の算出方法は、「 ピストン がもっとも下がった状態( 下死点 )でのシリンダー内部の容積 × 気筒数」です。
次に「ボア」と「ストローク」について説明しましょう。ボアとは、シリンダー内部でピストンが上下する円筒の内径のことを指します。そしてストロークとは、シリンダー内部でピストンが上下する距離を意味します(※下記[ ボア×ストローク ]参照)。これらを踏まえて進めますと、「ボアアップ」とはこの円筒の内径を大きくする作業で、ストロークアップとはピストンの上下運動距離を長くすることを指します。いずれの作業を行っても排気量をアップすることになるわけです。それでは次の段落から、ボアアップとストロークアップ、どちらを採用するとどんな効果があるのか紹介していきましょう。
「排気量を上げる」と言うと、ほぼ「ボアアップ」の方が先行して出てくるかと思います。中には「ボアアップという言葉を良く聞く」という方もいらっしゃるでしょう。どうしてストロークアップはあまり耳にしないのか。それはストロークアップの場合、交換する部品点数がボアアップ作業よりも多く、非常に手間がかかる内容になっているからです。
現在装着されているピストンより大きな口径のものを用意し、ピストン径に合わせてシリンダー内径を ボーリング すれば、それでボアアップは完了。結果、作業はすべて腰上(シリンダーより上部)だけの作業で済む。
シリンダー/フライホイール/コンロッドなど、クランクケース内部のパーツをすべて交換する必要がある。また腰上だけでなく腰下も解体せねばならない。
ちなみにハーレーの場合、ストロークアップが行えるKITパーツ(ストローカーと呼ばれています)は、H-D純正P&Aでも社外パーツメーカーでも販売されています。ストローカーそのものは非常に高価な商品ですが、ボアアップとはひと味違うフィーリングを楽しめることから、隠れた人気パーツとして知られています。
では仮に、ボアアップとストロークアップで同じ排気量に設定した場合、エンジンフィーリングはどのように変わってくるのでしょうか。ピストンの軽さの違いなども考慮する必要はありますが、そのあたりの条件は「まったく同じである」という前提ですすめてみましょう。極端な話ですが、結論から言えば ボアアップしたエンジンよりストローカーが組み込まれたエンジン(ストロークアップ)の方が、いわゆる“ドコドコ感 = 鼓動”が増します。その理由はハーレーのエンジンにあります。他メーカーのエンジンよりストロークが長いことがハーレーのエンジンの特徴で、ストローカーを組み込むことでストロークはより長くなるからです(ロングストローク)。ただしピストンが上下する距離も長くなってしまうので、ロングストロークになればなるほど高回転が回らなくなるという弱点も抱えています。
これに対してボアアップしたエンジンの場合は、ボアが広がることでボアとストロークの比率が変わり、ややショートストロークなエンジンになってしまいます。このショートストロークは一般的に「高回転までスムーズに回るが、せわしない感がある」と言われており、ハーレーの特徴であるロングストロークを損なうのでは? といった風に思われがちでしょうが、少々ボアアップしたところでこのドコドコ感が消えることはまずありません。実際のところ、むしろ排気量がアップした快適性が勝り、より気持ち良く走りを楽しめることでしょう。
最後に、排気量をアップされる際の注意点をご紹介しましょう。排気量を上げる場合に重要な点、それは 圧縮比が変わってしまうこと です。圧縮比とは、ピストンが上下運動をすることで吸引した混合気をどれだけ圧縮することができるか、その比率を表したものです(※下記[ 圧縮比 ]参照)。この際、排気量だけを上げて 燃焼室 の容積が変わらないと圧縮比は上がってしまいます。圧縮比だけが高くなってしまうと、点火タイミングの調整といったセッティングが必要になってきます。また混合気が燃焼する際の爆発力は上がるのですが、「ハーレーらしいおおらかなエンジンの回り方ではなくなってしまう」と感じられる方も少なくありません(個人差と言ってしまえばそれまでですが)。そのため、シリンダーヘッドを削って燃焼室容積を増やしたり、ピストンの形状を工夫したものを使用したりして、圧縮比を上げないようにする手法なども存在します。が、これはもはやカスタムショップのビルダーが着手するレベルのものですね。この圧縮比の調整については、ショップによってノウハウもさまざまですので、経験豊富なショップに相談されることをオススメします。
前述しましたが、排気量が変わるということは、混合気の吸入量や排気ガスの排出量も変わりますので、吸排気のセッティングや点火タイミングも調整する必要が出てきます。ノーマル車両というのは、本来の排気量に合わせて各部のパーツセレクトが行われていますので、排気量アップ時にはいろいろと見直さなければならないパーツも出てきます。個人でやるのはかなりレベルの高い内容ですので、信頼のおけるショップにしっかりと相談し、取り入れられるのがベストでしょう。