ある年の夏、ミネソタのカナダ国境からニューメキシコのメキシコ国境までひたすら走った。何か意味があったわけではない。ただ国境から国境まで走ってみたら面白いかもしれないと思っただけ。
その日は陽が落ちるまで走り、翌日も朝から夜までひたすら走った。翌々日の夕方にようやく国境の街エル・パソに着いた。モーテルにチェックインして目についたメキシカンレストランに入る。二日半の記憶を辿るのだけれど、走りながら見た景色の移り変わりと、途中で何度か停まって食事と給油、そして泊まったモーテル。断片的で連続する記憶しか思い出せない。距離感と時間の感覚も欠如している気がする。その中で印象に残っているのは、ニューメキシコに入ってすぐに見た夕陽。ミネソタで感じた適度に湿気のある優しい空気ではなく、暴力的に乾いた熱い空気の中で見た強烈な夕景。赤茶けた大地をさらに赤く染める太陽は、地平線に沈んでもしばらく空を赤く染めていた。現実かどうか疑ってしまうような天体ショー。たった1、2時間前の出来事なのに、遠い昔の記憶のようでもある。
思い出しながら一口呷る。冷えたビールで身体がクールダウンして、ようやく1800マイルを走った実感が湧いてきた。それは、今までで最高に美味い一杯だったに違いない。
ツーリングマガジン アウトライダー など二輪誌を中心に雑誌、広告等で活躍中のカメラマン。愛車は 2010年式 FLTRX ロードグライドカスタム。日本の古典芸能やアメリカインディアン等の文化から多大なる影響を受ける。バイクによる旅の写真や水中写真をライフワークとし、日本やアメリカ、ルート66などの風景を自らバイクで走って撮影するスタイル。「職業=旅人なんて書きたいけど、そこまで旅できていない」という。なぜか誌面に顔を出していること多し。