仕事柄、取材などで高速道路にのって一人で遠くまで走ることがよくあるが、そんなときはエレクトラグライドが最高である。カメラバッグやノートなど取材のための道具をツアーパックに放り込み、あとはETC車載器にカードを入れるだけ。雨具や寒くなったときのための分厚いジャンパーはサドルバッグに押し込んであるから、出発前に用意する必要はなし。あれは持ったか、これは置いていこうと迷う必要などないのだ。
そんな快適きわまりないエレクトラグライドで走っていても、お腹だけはすく。高速道路上で何か食べようと思ったとき、たとえば休日のサービスエリアなんかだと家族連れやカップルがたくさんいて、お店もメニューもレジャー気分。ひとりぽっちは、チョッピリ寂しいのである。ボクが好むのは豪華で垢抜けているサービスエリアではなく、パーキングエリアの古めかしい食堂。最近のパーキングエリアはリフォームされて、どんどんキレイになっているが、道路公団時代から何も変わっていないコ汚いパーキングエリアはまだまだある。
トイレなど必要最低限の休憩はパーキングエリアにかぎる。なぜなら、ひとりぽっちだから。
それがなんだかいいんだな。食券を買って待つ、食堂の定食はご飯が大盛りで値段も安い。トラックのドライバーさんたちにも愛用されていて、まわりも一人が多く、気兼ねなくゴハンをかき込める。生姜焼き定食、あるいはカレーライスがボクの得意とするところだ。そんな食堂もいいが、あのちんけな売店もいい。少しばかりの飲み物とパンやお菓子、その土地の定番のお土産なんかも売ってる。サングラスや演歌のカセットテープなんかも売っていたが、さすがにカセットテープはボクのエヴォFLHTCじゃあるまいし、もう使っている人は少ないだろう。ボクはもともと下町で育ったから、小学生の頃は近所にある駄菓子屋に入り浸り。こぢんまりしたお店で買い物するのがいいと感じるのは、そのせいかもしれない。
パーキングエリアの肉野菜炒め定食、700円なり。ファミレスみたいなメニューに用はないっちゅーの。
パーキングエリアといえばこの際、食堂がないところも好きだ。首都高を深夜に走っているときなんかに、普段は入らないようなマイナーなパーキングエリアに用事もないのについつい入ってしまう。
ボクの1988年式FLHTCのオーディオは涙が出てきそうなくらいダサイ、カセットテープデッキ。
クルマがビュンビュン走っているすぐ脇に、ほんの小さなクルマを停めるスペースがあり、あるのはトイレと自販機だけっていうのも、なんだか片岡義男小説に出てきそうで嫌いじゃない。真夜中のパーキングエリアにぽつんと自分のオートバイが1台だけあって、クロームメッキがライトに照らされとても美しい。気がつけば、冷えた身体を震わせながら、ただ呆然とそれを眺めている。さて今年も、そんな季節になってきたかな。
バイク雑誌各誌で執筆活動を続けるフリーランス。車両インプレッションはもちろん、社会ネタ、ユーザー取材、旅モノ、用品……と、幅広いジャンルの記事を手がける。モトクロスレースに現役で参戦し続けるハードな一面を持ちつつも、40年前のOHV ツインや超ド級ビッグクルーザー、さらにはイタリアンスクーターも所有する。