こんにちは、パパコーポレーションの佐藤です。前回はオイルについての基本的な知識の紹介になりましたが、今回から少しずつ具体的なテーマに触れていきましょう。今回のテーマは「オイル粘度」。オイルを購入したことがある方はご存知だと思いますが、ハーレー用オイルのパッケージには「20W-50」、「80W-90」などの表記があります。これがオイル粘度を指す表示です。粘度とはその名の通り“粘り”を意味します。簡単にご説明すると「どの気温でどのくらい“ネバネバ”しているか」を表していると考えてもいいでしょう。では、オイル粘度にはなぜ複数の種類があるのでしょうか? 今回はそれをご紹介いたします。
エンジンの種類によって、求められるオイル粘度は違いますが、オイルはなぜ“ネバネバ”している必要があるのでしょうか? それは潤滑作用のためです。金属表面に油膜を張り、金属同士の摩擦を少なくするためには、一定の粘度が必要になります。粘度についてなかなかイメージしづらい人は、コップに水と蜂蜜を入れ傾けてみる様子をイメージしてみてください。コップを傾ければ水はすぐに流れ落ちてしまいますが、粘りのある蜂蜜はドロドロとゆっくり流れます。オイルの粘りもこれと同じです。金属表面に付着し、膜を張るためには粘りが必要なのです。ただし、粘りは強すぎてもダメ。前回のコラムで紹介したように、オイルは洗浄作用やエンジン内部の熱を取り込んで循環し、熱を逃がす冷却作用などを担っています。粘りが強すぎるオイルはオイルラインを流れる際に抵抗が強く、こういった作用を阻害してしまうのです。オイルは柔らかすぎてもダメ、硬すぎてもダメ、ほどよい粘度で働いてもらう必要があります。
常にオイルをほどよい粘度に保つことができれば、何も問題はないのですが、オイルは温度変化の大きい環境にさらされています。エンジンオイルを例に挙げると、エンジンが完全に冷え切った状態での始動時はオイルは外気温とほぼ同じの冷え切った状態です。しかし、走りはじめてオイルが暖まると100℃近くまで油温が上昇するのです。渋滞時のノロノロ運転など、走行風がなかなか当たらない状態では、油温が100℃を超えることも珍しくありません。このように油温が激しく変化する状況でもオイルは期待された役割を果たす必要があるのです。油温の変化が起こってもオイルが適切に働くことができるように、添加剤がオイルには含まれています(添加剤については次回ご紹介します)。
次に粘度表記の見方についてお話いたしましょう。ハーレー用のエンジンオイルで一般的なのは「20W-50」やシンプルに「50」と書かれたものでしょうか。先にあげたオイルはマルチグレードオイル、後にあげたモノはシングルグレードオイルと呼ばれています。マルチグレードオイルの粘度表記に数字が2つありますが、最初の20は低温粘度を(20WのWはWinterの略です)、次の50は高温粘度を表すものです。詳細に説明すると難しくなるので省略しますが「○℃~○℃までの気温の範囲内でそのオイルが使用できる」ことを表していると思ってください。低温粘度の数字が小さくなるほど、冷寒時でもオイルが硬くなりづらくなります。オイルは気温が低くなるにつれ、ネバネバが強くなり、最終的には固まってしまうのですが、低温粘度の数字が小さいほど、寒くなっても使用できるオイルだということがわかります。ちなみに20Wは約マイナス10℃、10Wは約マイナス20℃、5Wはマイナス25℃でもエンジン始動ができる、とされています。高温粘度の数字は大きくなるほど、高温に晒されてもオイル粘度が維持されることを意味します。オイルは高温にさらされると粘度が下がり(サラサラになり)、油膜が維持できなくなりますが、高温粘度の数字が大きいものは気温が少々高くなっても粘度を保てるのです。
少し話を戻します。最初に紹介したシングルグレードオイルには「50」の表記しかありませんでしたね? これは高温粘度のみを表しています。シングルグレードオイルは使用できる気温の幅が狭く、マルチグレードオイルの方が幅広い気温で使用できるのです。「20W-50」のオイルはほぼ年中使用できますが、シングルグレード「50」のオイルは暑い夏の時期くらいしか使用できません。たとえ夏であっても、朝晩が冷える地域など、気温が低いところではシングルグレード「50」ではオイルが硬すぎ(ネバネバしすぎ)て、オイルがエンジン内を適切に循環してくれないのです。特殊な環境(渋滞が多く、エンジンが熱を持ちやすい)で走る方を除けば、ハーレーにはマルチグレードオイルを使用するのがいいでしょう。エンジンオイルの粘度表示についてはご理解いただけましたでしょうか? この話からミッションオイルの「80W-90」の数字を見ると「非常に硬いオイルだな」と思うかもしれませんが、エンジンオイルとミッションオイルでは粘度を表す数字に違いがあり、数字から2つのオイルを比較することはできません。また、エンジンオイルとミッションオイルでは求められる役割も違います。
ちなみに「20W-50」や「50」の表記はSAE(米国自動車技術者協会)が定めた規格で、どこのオイルメーカーも同じ基準で表記を行っています。ただし、この表記はあくまで“オイル粘度”を示しているだけであって、ここの数値から“オイルの質”はわかりません。オイルの質についてはいずれ改めてご紹介しますので、お待ちください。
オイル粘度は燃費やエンジンの吹け上がりにも影響を及ぼします。油温が低いとオイルが硬くなる(ネバネバしてくる)のはお話しましたが、硬いオイルは各部の動きの抵抗となり、燃費や吹け上がりに影響してくるのです。暖機を行い、オイルが暖まってくるとスムーズな動きが可能になり、ギアチェンジ時の感覚も変わってきます。しかし、オイルが暖まらないほど短い距離の走行では(オイルだけが原因ではありませんが)各部のスムーズな動きが阻害され、結果として吹け上がりも悪く、燃費も悪くなるのです。ただし、単純に「柔らかいオイルを使えば性能がよくなる」という話ではありません。メーカーが指定するオイル粘度には意味があります。安易に柔らかいオイルを使用するのはトラブルの元になるかもしれません。近年、環境負荷を考えて「0W-20」などの粘度が指定されている車などもありますが、こういったオイルが使用できるのはメーカーがそういったオイルを使用できるエンジン設計を行っているからです。空冷で大排気量のハーレーではメーカー指定粘度から大きく外れたオイルの使用はオススメできません。
パパコーポレーション代表。クルマ・バイク好きが高じて、自らエンジンオイルに対する疑問を解決した金属表面改質剤「スーパー・ゾイル」を生み出す。エンジンを長持ちさせ、環境にも優しい性能を持つSUPER ZOILは、佐藤氏のオイルに対する深い造詣の賜物。