VIRGIN HARLEY |  07モデルの評価芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー

07モデルの評価

  • 掲載日/ 2006年10月05日【芦田 剛史のUSAディーラー・トレーニングダイアリー】
  • 執筆/芦田 剛史
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本場ディーラーでハーレーを学ぶ USA Training Diarys 第5回

アメリカでの07モデル評価
日本とはやや評価が違います

みなさんお久しぶりです、メカニックの芦田です。そろそろ日本では秋本番、紅葉見物にハーレーで出かける頃でしょうか? さて、日本ではハーレーの新年度のモデルが発表され、そろそろ納車された方も増えてきたと思います。そんな時期ですので、今回は2007年モデルのアメリカユーザーの反応、感想などをご紹介しましょう。どうやら日本では賛否両論いろいろあるようですね。今期のモデルチェンジは近年では際立った大きな変化がありましたから、驚きもあることでしょう。ただ、日本とアメリカでは2007年モデルの受け止められ方は少し違います。また私自身も2007年モデルについては勉強中の身で、考えが及ばない部分もあるとは思いますが、アメリカでの評価を簡単にご紹介させていただきます。

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まず、全モデルインジェクション化についてお話しましょう。かなり前から噂はありましたが「ついに」と言ったところですね。インジェクション化に関しては、日本サイドに比べ、アメリカでの反応は意外にも薄かったように感じています。他のメカニックと話していても、インジェクション化についての意見はほとんど聞くことが無く、2007年モデルの発表以前からインジェクションに対しては馴染みが深かったことがうかがえます。前回もお話しましたが、こちらのハーレーユーザーのほとんどがインジェクション仕様車に乗っているため、今回の仕様変更は驚くようなことではなかったのかもしれません。ただスポーツスターのインジェクション・フィーリングと車両の相性は、こちらの人間も気になるようで、よく話題にのぼります。このように書くと「アメリカ人はインジェクションが大好き」と思えるかも知れませんが、そんな単純な話ではありません。好き、嫌いではなく「インジェクションは、機能的に安定していて素晴らしい!」と、その機構を素直に受け入れているような印象を受けます。インジェクションの評価は高いですが、だからと言ってキャブレターを否定しているわけでもありません。例えば、年代物でフロートがコルクで出来ているようなキャブレターを見ても、彼らは「素晴らしい!」と言います。多くのアメリカ人は、見たものに偏見を持たず、素直に「カッコイイ」や「美しい」などの意見を言います。これは「キャブレター=○ インジェクション=×」などと偏見に流されがちな日本のハーレー乗りは、見習うべきなのではないでしょうか? ただ、アメリカ人は本当に駄目な物を見た時はシビアな意見を言ってきます。それは対人評価に関しても同じで、私は気が抜けません(笑)。

アメリカの道路事情から考える
6速ミッションと排気量アップ

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アメリカのフリーウェイの制限速度は、最高75マイル(時速120キロ)です。この数字だけで、驚かれる方もいるかもしれません。法定制限速度は75マイルですが、75マイルをピッタリ守る方はそれほどいない訳で…。80、いや85マイル、時には明らかに90マイル以上のスピードを出すバイクをこちらのフリーウェイでは、しょっちゅう見かけるのです(スピードの出しすぎには注意しましょう)。スピード自慢の方には「たかが145キロかよ」と思われるかもしれませんが、アメリカで一度遠出をするとなると、1時間巡航というレベルではありません。5時間連続走行、時には丸1日走ることも珍しくないのです。ハイスピード走行と長距離という状況に合わせて、ハーレーは6速ミッションという形で進化したのでしょう。

もちろん世界的な交通移動の高速化に合わせて、という理由もあると思います。ただ、ハーレーが走っている世界の何十という国で、この仕様変更が100%マッチングするとは限らないように感じます。あくまで私が試乗した感覚ですが、6速の美味しいところは2600rpm ・75マイル(時速120キロ)で、ラバーマウントの振動抑制効果とシンクロして最も振動が少なく、気持ちよく走ることができます。5速で同じ75マイルで走ろうとすると約3000rpmで、若干振動を多く感じます。長距離を重ねるごとに疲労は蓄積されるわけですから、6速の使用は高速巡航でかつ長距離移動では強い味方となるでしょう。しかしながら、日本を始め、国土が小さく山岳が多く、曲がりくねった道が多い国の場合だと、75マイル(120キロ)が長時間巡航できるスピードとは言い難いでしょう。今回の6速は、アメリカのような長いフリーウェイを快適に走破するコンセプトが基本で開発されており、こういうところから「ハーレーはやはりアメリカ製のバイクなんだな」としみじみ思います。「6速なんて日本では使わないのでは?」と思われる方も多くいらっしゃるかもしれませんが、そういったところにアメリカらしさを感じて素直に楽しんでください(笑)。

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次にTC96エンジンについて。今回の排気量アップは8cu inc、おおよそ132ccの排気量アップですが、エボリュ-ションエンジンからツインカム88に変わったときの7cu inc(115cc)をさらに上回る排気量アップということになり、これは大変化と言えるでしょう。しかも、ストロークのみのアップでこの排気量を実現したわけですから、以前にも増してトルク特性に重点を絞ったエンジンにする狙いがあったように思えます。低回転で快適な長時間高速走行を行えるよう、よりクルージングバイクとしての性格を強めてきた…ということでしょう。6速ミッションの採用は、この排気量アップに合わせて行われたと言えます。ただ、日本の法定速度と慢性的な交通渋滞を考えると、日本でエンジンの大型化が必要だったのかどうかは「?」ですが、アメリカではこの排気量アップは大いに歓迎されています。極低速が多い街乗りではこの排気量アップの恩恵は体感し難いかもしれませんが、長距離ツーリングではこの仕様変更は威力を発揮されますから。また、88cu incからストロークアップしようと考えたときのコストを考えると、2007年モデルの96 cu incエンジンはとってもお得だと思います。

と、このように細かく考えるのは日本人の悪いところなのかもしれませんね。アメリカ人の96Cu incエンジンへの反応はとってもシンプルで「Oh! グレート!」というような感じで、とても単純明快(そうじゃない人も、もちろんいます)。彼らは細々と理論立てず、夕日に向かって、マッチョなアメリカ製バイクで走ることができれば「グレート」なのかもしれません。真っ直ぐで果てしない道を、溢れるようなトルクで走ることが求められているアメリカでは、排気量が大きいことはシンプルに素晴らしいことのようです(笑)。

体格からその乗り方まで
規格外のアメリカ人ユーザー

同じハーレーに乗っているのに、日本人とアメリカ人でなぜこうまで違うのでしょうか。そのヒントになるような体験談をご紹介しましょう。

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まずは、アメリカ人と日本人の体格差での話。アクセサリーパーツの取り付けで何度かハイウェイペグを取り付けました。しかし、取り付け後にハーレーが直ぐに戻ってきてしまいました…(ひょえ~)。ガッチリと取り付けしたつもりでしたが、戻って来た理由を聞くと「足を載せたらペグが下にずれた!」。なぬぅ~!? 締め忘れでも無いのにナゼ? この疑問は、お客さんを見てすぐに理解できました(メカはお客さんと滅多に会わないのです)。巨体すぎるんです! それも半端な巨体ではありません。190cm以上はあろうかという巨漢です。しかも立派な“厚み”を持っていらっしゃるのです(見た目は完全に格闘家でした!)。それまで幾つものハイウェイペグを取り付けてきましたが、私の経験に基づいたハイウェイペグのボルト締め付け基準が塗り替えられてしまう出来事でした。そこで、血管が浮くくらい、親の仇のようにボルトを締め付けてお客さんに確認していただくと「Oh! 今度は動かねぇな!」と、ペグをドカドカ蹴りながら帰っていきました。“アメリカ人の体格は大きい”こんなことは周知の上でしたが、自分の想像力の無さを思い知らされた瞬間でした(笑)。

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彼らのハーレーの乗り方も半端ではありません。信じられない程にアクセルを開けてくれます(笑)。日本ではサーキット以外では聞いたことが無いような高い回転域の音で、ハイウェイをぶっちぎっていきます。そのせいか、エンジントラブルで入庫してくる車両の数は圧倒的に日本より多いですね。また、州によってはすり抜けが合法な州もあり“自殺”に近いスピードで車と車の合間をすり抜けて行きます。アリゾナ州ではヘルメット無しでも違法にはならず、奔放な州法に驚かされます(危険ですよね)。そんな国で、そんなユーザー達に鍛えられ、育てられ、支えられてきたのがハーレーダビッドソンなのです。

100年以上の歴史を持つこのハーレーが、インジェクションになったり、排気量を変更したり、少しずつ姿を変えてきています。「ショベルがどう、エボ、ツインカムがどう…」いろんな意見がありますが、昔も今もハーレーはハーレーでしかなく。それ以上でもそれ以下でもありません。私はハーレーがどう変わっても、歴史の1ページとして、偏見の無い素直な視点でこのアメリカ製バイクと付き合っていくつもりです。今回は少し堅い話になってしまいましたね(笑)。

プロフィール
芦田 剛史

26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)

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