2003年、創業100周年を迎えたカンパニーが打ち出した驚くべき一手、それがハーレーにとって初となる水冷Vツインエンジンの新型モデル「Vロッド」でした。古き良き時代から受け継がれる空冷Vツインエンジン特有の鼓動をアイデンティティとするハーレーにとっては大きな挑戦を意味するものでもありました。
独ポルシェ社と共同開発されたこのVロッド、完全に新設計となるDOHC 4バルブエンジンのクランクが60°と、それまでの45°とは異なる形状であったことはもちろん、ガソリンタンクがシート下に移動し、そのガソリンタンクが本来あった位置にはダウンドラフトのインジェクションとエアクリーナーボックスが備わるという意外な構造となっていました。さらにドラッグレースのシーンから飛び出したようなスタイルそのものも近未来的で、新時代の象徴として世に送り出したカンパニーの意思を具現化したモデルとして一躍脚光を浴びたのです。
もちろんライディングもまったく異世界のもの。トルクや鼓動を楽しむ本来のハーレーとは真逆に位置する加速感やパワーランが最大の魅力で、次第に「ハーレーダビッドソン」ではなく「Vロッド」としてのブランド力を高め、ファンを獲得していきました。ツーリング、スポーツスター、ダイナ、ソフテイルと100年に渡るハーレーダビッドソンの伝統から生み出されたファミリー群に、それまでのロジックとは異なりつつもハーレーのエッセンスを含んだまったく新しいファミリーとしての地位を確立したのです。
そのVロッドファミリーも、今年2017年モデルがラストイヤーとなりました。圧倒的な人気を誇ったわけではありませんが、それでもVロッドを根強く支持するファンが存在することを思うと、寂しく思えるリリースでした。
初代Vロッド VRSCAが登場して以降、ストリートロッドやナイトロッド、マッスルなどさまざまなバリエーションのマシンを生み、より親しみやすいマシンとしてのマイナーチェンジも行ってきました。現在(2017年モデル)のVロッドは、初代に比べてライディングポジションが緩やかで、ドラッグレーサー然としていつつも操りやすいというハーレーならではのノウハウがフィードバックされているのです。
もしかしたら来年(2018年モデル)には、このVロッドに変わる新型エンジン搭載のニューファミリーが登場するのかもしれません。それが水冷エンジンか空冷エンジンか、はたまたまったく別物かは想像の域を出ませんが、「ハーレーダビッドソンにとって水冷エンジンとは」というカンパニーの永遠の課題が語られるとき、このVロッドファミリーを抜きにすることができないのは紛れもない事実。だからこそ、ハーレーダビッドソンを愛するのであれば、このVロッドファミリーのモデルに触れておくべきだと思います。
Vロッドファミリーの顔となったブラックアウトVロッド。2011年、主にシルエットに関してマイナーチェンジをはたしたVロッドの基本的なスタイルを継承した同モデルは、今カンパニーが打ち出す「ダークカスタム」の先駆者として2005年に「ナイトロッド」の名でデビュー。翌年、完全に真っ黒なボディとなった「ナイトロッドスペシャル」が現モデルのベースとなっている。
2009年にデビューしたマッスルは、その名のとおり力強くマッシブなデザインが特徴的で、さらに一歩未来へと踏み込んだ印象を抱かせるモデルとして人気を集めている。ホイール、エキゾースト、リアエンドなどあらゆるディテールがオリジナル仕様となっており、フレイムスのグラフィックが採用されたモデルが存在するなど、ナイトロッドとは対照的なハーレー版アメリカンマッスルカーという一台。