1957年に誕生し、50年以上の歴史を持つスポーツスター。“プアマンズハーレー”などと呼ばれることは現在もあるものの、その魅力はビックツインと比較するところにはない。戦後間もなく始まったトライアンフなど高性能な英国車がアメリカを席捲していた時期に「英国車に負けない高性能なモデルを」と開発されたのがスポーツスターなのだ。そのため、今回スポーツスターに絞ったコーナーを立ち上げることにした。他のファミリーにはないスポーツスターの魅力を“カスタム”というテーマから紹介していくのが、この「TRY SPORTSTER CUSTOM」コーナーだ。第一回目はスポーツスターのキホンとしてカスタムスタイルを取り上げることにする。
スポーツスターはノーマルの状態で完成したスタイルを持つ。購入動機が「ノーマルの形に惚れて…」という人も多いはずだ。ハーレーのカスタムでは原型がないほどカスタムを進めるのも珍しくはないけれど、触った箇所や、これまでにかかったカスタムの総額がカッコ良さを決めるわけではない。実際、編集部員のスポーツスターは何年もカスタムに迷走したあげく、現在は“ノーマル+α”のスタイルに回帰してきている。ただ、純正パーツのすべてが好みに合致することはさすがに少ないはず。ノーマルのスタイルを活かしつつ、自分なりのこだわりを加味したカスタム車両を紹介するので参考にして欲しい。
外装は大きく変えず、サンダンス製パーツで吸排気をチューン。前後サスペンションも走りを追求したモノに変更し、ノーマルテイストを活かしつつ、走りを追求したカスタムを実現している。
一見ノーマルに見えるカラーリングは実はリペイントされたもの。シートは特注で、目立たないものの吸排気も強化され、実際に走ってみるとそのフィーリングはノーマルの比ではない。
スポーツスターのカスタムで定番なのは、90年代半ばまでのスモールタンクを搭載したスタイルだろう。タンクをスッキリとさせることで、グッと引き締まったフォルムを手に入れることができる。しかし、タンクデカールや外装に手を加えることでさらにクラシックなテイストを加味するカスタムも人気だ。1985年までのショベルヘッドスポーツスター、通称“アイアンスポーツ”。現行モデルよりさらにコンパクトなフレームを持つアイアンスポーツのスタイルは現行のスポーツスターオーナーからも人気が高く、カスタムの際の参考にすることが多い。
プロト製作のカスタム車両。旧車風カスタムでは定番のクラシックフェンダーを採用しているものの、ホイールがスポークではなくキャストなのがポイント。カラーリングも明るさが予想以上によく似合う。
大幅に手を加えず雰囲気を変える好例。外装をスモールタンクに変え、落ち着いた色にリペイント。タンクロゴに旧いモデルのモノを使うことで、お金をかけずに旧車風テイストを手に入れている。
上記までが定番と言えるスポーツスターのカスタムスタイルだが、ノーマルのスタイルにこだわらず、いかようにでもカスタムも可能だ。フレームに一切手を入れなくても、下記のように大きく印象を変えることができる。ハンドルとライザーを高くするだけでもチョッパー風のスタイルになり、外装やフロントフォークにさらに手を入れれば、世界に1つのチョッパーが完成する。また、数は少ないものの、スポーツスターをダートトラッカー風にカスタムするのもなかなか似合う。かつてスポーツスターが未舗装路を走るダートトラックレースに出ていた頃…それをイメージしたダートラスタイルも少なからず存在する。
モーターステージ製作の“ロコボーイ”。ボルトオンパーツのみを使用し、チョッパースタイルを実現。フレームには一切手を入れず、ここまでスタイルを変えることができる好例。
大木産業のデモ車両。2004年以降では珍しいダートラスタイルだ。ワンオフで製作されたリアフェンダーとアップマフラーがこのスタイルのポイント。スタイルだけでなく走りも良好。
「スポーツスター=スモールタンク」だというイメージが強いが、そもそも初代スポーツスターはスモールタンクではなかった。スモールタンク採用モデルは50年代に登場していたが、70年代に入るまでスモールタンクは一部のモデルに採用されていたタンクだったのだ。古くは通称“亀の子タンク”と呼ばれるタンクを採用したモデルがあり、現在はXL1200LやXL1200Rなどに大柄なタンクが採用されている。大柄なタンクをそのまま活かしたスタイルもスポーツスターのカスタムでは“アリ”なのだ。そこで、ここでは新旧スポーツスターに大柄なタンクを採用したカスタムを紹介しよう。
SPEEDBUGGYオーナーの所有バイク。カスタムモデルではないものの、60年代のスポーツスターのスタイルが学べる1台。サドルシートやハードケースを採用していたXLHがあったというのは知っておきたい。
「ビックタンク=スタイルを崩す」ではないことがわかるカスタム車両。このタンクを活かした美しいスタイルを手に入れており、ロングツーリング時に頻繁に給油する必要がなく、実用性も高い。
スポーツスターは年式が新しくなるにつれ、フレームが大柄になってきている。とはいえ、ビックツインでは難しいコンパクトなカスタムが可能なのがスポーツスターの魅力。チョッパーやダートラスタイルができるかと思えば、旧車風、英国車風にだってカスタムできるのだ。どんなベクトルにも振ることができる自由度の高さと、それを実現するパーツの豊富さはビックツイン以上のものがある。走りに振るもよし、スタイルに振るもよし。オーナーの脳裏に思い描いたイメージは、どんな形でも実現することができるはず。
またVツインのバイブレーションなどハーレーとしての魅力を持ちながらも、ハーレーには留まらない“オートバイらしい”魅力も持つのがスポーツスターだ。英国車や国産旧車の魅力にも通じる共通点が多い。スポーツスターは1台のオートバイとして、後世に語り継がれるだけのモノを持っているのだ。