一口にハーレーダビッドソンと言っても、モデルごとはもちろん、「ファミリー」と呼ばれるカテゴリーでキャラクターが大きく異なる。100年を超える壮大な歴史から成る各ファミリーの特徴を紐解いていこう。
今から113年前、アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーの一角で、4人の若者によるモーターサイクルメーカーが産声をあげた。彼らの名を組み合わせた「ハーレーダビッドソン」は、大恐慌や第二次世界大戦、そして大手機械メーカーによる買収など、さまざまな波乱に翻弄されながらも、モーターサイクルメーカーとしての矜持を貫き、今日の地位を確立するまでになった。その歴史を途絶えさせることなく100年以上も続くモーターサイクルメーカーは、ハーレーダビッドソンただひとつである。
「ハーレーダビッドソン」と聞くと、独特のデザインである通称ヤッコカウルが印象的なメガクルーザーや、映画『イージー・ライダー』のキャプテンアメリカ号を彷彿させるチョッパーライクなバイクを思い浮かべることだろう。そうしたモデルも、100年を超えるハーレーの歴史のひとつであり、それこそ初代から数え出せばキリがないほどだ。
現在のハーレーダビッドソンは、「ファミリー」と呼ばれるカテゴリーで区分され、そのファミリーごとに特異なキャラクターが付与されている。つまり、ファミリーの特徴を知ることで、自分に合ったハーレーに探すことができるわけだ。
それでは各ファミリーの特徴を解説していこう。
アメリカ大陸をも横断できる至高のメガクルーザー「ウルトラ」を筆頭に、排気量1,689ccというハイパワーエンジンと充実の装備を誇るモデル群。エンジンは2タイプあり、空冷&水冷機能を併載する「ツインクールド ツインカム103」(搭載モデル:FLHTK TC ウルトラリミテッド、FLHTKL TC ウルトラリミテッドロー、FLTRU ロードグライドウルトラ)と、空冷Vツインエンジン「エアクールド ツインカム103」(搭載モデル:FLTRXS ロードグライドスペシャル、FLHXS ストリートグライドスペシャル、FLHR ロードキング)となっている。日本中を走破するほどの装備が魅力のウルトラモデル、ノスタルジックな雰囲気が楽しめるロードキング、あえてこのスタイルで街乗りを楽しむストリートグライドと、いずれも個性的なモデルが揃う。
最先端ではない、クラシカルなスタイルをあえて再現しているビッグツインモデルを揃えるのがこのソフテイルファミリーだ。ツーリングファミリーと同じく排気量1,689ccの空冷Vツインエンジン「ツインカム103」を搭載しているが、違いはそのフレーム形状にある。リアホイールを支える部分がトライアングルを描く「ソフテイルフレーム」は、かつてリアサスペンションという発想がなかった1950年代以前の「リジッドフレーム」のスタイルを現代版としてアレンジしたもの。シルエットは往年のハーレーを思い起こさせるものながら、フレーム下部にサスペンションを内蔵することで、快適なライディングをも実現させている。このソフテイルファミリーのなかでも、チョッパースタイルが魅力のFXモデル(FXSE ブレイクアウト)と、古き良き時代のハーレーを再現したFLモデル(FLS ソフテイルスリム、FLSTN ソフテイルデラックス、FLSTC ヘリテイジソフテイルクラシック、FLSTF ファットボーイ、FLSTFB ファットボーイロー)という2タイプに分かれる。
エンジンは排気量1,584ccの「ツインカム96」とビッグサイズながら、それでもスポーツライドを楽しむことを目的としたビッグスポーツ、それがダイナファミリーのモデルだ。その起源は1970年代と、ハーレーの歴史で見れば比較的新しい部類だが、ダビッドソン一族の末裔にしてモーターサイクル界の重鎮ウィリーGの手から生まれた、由緒正しきカテゴリーなのだ。FXDLローライダーやFXDWGワイドグライドは当時話題を集めたモデルの後継で、今なお高い人気を誇る。チョッパースタイルが魅力のFXDB ストリートボブと、そのボブをベースにストリートドラッガーへとカスタマイズされたFXDBC ストリートボブスペシャル、あえてダイナに前後16インチ&デュアルヘッドライトという個性を与えたメガスポーツ FXDF ファットボブ、ダイナ初の切替型ツアラーモデル FLD スイッチバックと、ユニークなモデル群もダイナファミリーの特徴と言えるだろう。
いわゆる「ビッグツイン」と呼ばれるエンジンをベースとするツーリング、ソフテイル、ダイナとは違う、排気量883ccまたは1,201ccの空冷Vツインエンジン「エボリューション」を心臓とするスポーツハーレー、それがスポーツスターファミリーだ。重量はアベレージで260kg前後と、ビッグツイン系と比べるとかなり軽量。それでいてVツインエンジン特有の味わいを持たせつつ、それぞれが異なるスポーツライドを楽しませてくれるモデルでラインナップが形成されている。基本軸でありスポーツスターの象徴とも言えるXL883N アイアン883を筆頭に、今や名実ともにナンバーワンの地位を手にしたストリートバイク XL1200X フォーティーエイト、1970年代のチョッパースタイルを再現したXL1200V セブンティーツー、ロースタイルながらスポーティな足まわりを持つXL883L スーパーロー、その883Lの排気量をアップさせてツーリング装備を与えたXL1200T スーパーロー、フォーティーエイトと同じフットワークながらよりスポーツライドに振ったXL1200C カスタムと、ユニークなキャラクターの持ち主がずらりと揃う。
創業100周年となる2003年に登場した新カテゴリーで、ハーレー初の水冷60°Vツインエンジン「レボリューション」搭載の近未来型モデル群がVロッドだ。そのスタイルは、直線コースでのスピードを競うアメリカで人気のモータースポーツ「ドラッグレース」に登場するレーサーを投影したもの。独特の鼓動を奏でる空冷エンジンを持つ他モデルとは対照的に、驚異的な加速力とシャープなライディングが楽しめるモデルが揃う。現Vロッドオーナー曰く、「ハーレーというよりは、Vロッド」と、メーカーの枠を超えたブランド力を有しているところに本ファミリーの魅力が垣間見えるよう。ダーティに闇夜を切り裂く姿を思い起こさせるVRSCDX ナイトロッドスペシャル、良質の筋肉を備えるマッシブなVRSCF マッスルと、個性派が顔をそろえる。
2015年モデルで日本デビューをはたしたばかりのニューフェイス。その名にあるとおり、街を軽快に駆け抜ける、まったく新しいハーレーダビッドソンだ。重量は230kgとスポーツスターよりも数十キロ軽く、それでいてハーレーらしいロー&ロングスタイルにまとめられている。そんなストリート750の走りを軽やかにしているのは、やはり新型エンジンに他ならない。Vロッドと同じ水冷60°Vツインエンジン「レボリューションX」(排気量749cc)は吹け上がりもシャープで、ハーレーが持つヘビーなイメージをあっさりと払拭するほど。販売価格も85万円から(消費税込/2016年4月現在)と全ラインナップ中で最安値であり、ハーレーそのものを一層身近な存在にするモデルだと言えよう。カラーはすべて単色だが、それはハーレーだからこそ魅力を発揮できるカスタムカルチャーを楽しむため。この世に一台だけの特別なバイクを手に入れたいあなたに、ストリート750はうってつけのバイクだ。
「カスタム・ヴィークル・オペレーション」の頭文字から成るCVOは、すべてのファミリーを超越したハーレーの頂点に君臨するカテゴリー。いずれもベースは各ファミリーのモデルながら、そこにハーレーが自信を持って提供する最高のカスタムパーツ群でカスタマイズした存在、それがCVOだ。ウルトラリミテッドを土台とするFLHKSE CVO リミテッドは、ベースモデルと装備内容を見比べると雲泥の差があることがわかる。しかもそれらの装備を後付けすれば収まるはずのないお値打ち価格であることも大きな魅力だ。そして極め付けは「ONE-TEN」の呼び名で知られる最高峰のエンジン「スクリーミンイーグル・ツインカム110」(排気量1,801cc)を搭載していること。2,000ccに届こうかという驚天動地のハイパワーエンジンは、あらゆる意味で次元の違いを見せつけてくる。ここにラインナップされるモデルは、KING OF KINGSの名にふさわしいものばかりだ。
2016年モデルから登場した新カテゴリー。「ファミリー」ではない「シリーズ」という新たな呼び名で、特徴はソフテイルまたはダイナの既存モデルをベースに、CVOだけに許された排気量1,801ccの「ツインカム110」を搭載していること。FLSS ソフテイルスリムS、FLSTFBS ファットボーイS、そしてFXDLS ローライダーSと、そのラインナップは極めてシンプルなネイキッドモデルを元としている。つまり、そのハイパワーを重量級モデルを走らせるためではなく、余すことなくライダーに味わい尽くしてもらおうというわけなのだ。「はたして俺たちを操り切れるのかな?」と、まるで挑戦状でも突きつけてくるかのようなハーレーらしいモデルが顔を並べている。
このように、ハーレーは「ツーリング」「ソフテイル」「ダイナ」「スポーツスター」「Vロッド」の5ファミリーを軸に、「ストリート」「CVO」「Sシリーズ」というオプショナルなカテゴリーが付随されている形になっている。まずは5つのファミリーの特性をつかみ、「ツーリングを楽しみたい」「街中を軽快に駆け抜けたい」「古き良き時代のスタイルを手に入れたい」など、オーナーの楽しみ方に合ったハーレー探しをされるのがベストと言えるだろう。