創業100周年を迎えたハーレーが世に送り出した初の水冷Vツインエンジン搭載モデル、Vロッド。脈々と受け継がれてきたレーシングスピリットを持つこのファミリーは、新たな100年を構築していく上でハーレーが思い描く未来像に欠かせない存在としてラインナップを飾り続けている。
ハーレーダビッドソンと言えば、その独特の鼓動感が心地よい空冷VツインOHVエンジンが代名詞となっていますが、このVロッドはそんなハーレーの系譜にはない、まったく新しいアプローチから生まれた次世代型モデルなのです。
登場したのは2002年、ハーレー創業100周年モデルのひとつとして。独ポルシェ社との共同開発によって手がけられた水冷60°VツインDOHC4バルブエンジン「レボリューション」を軸に、これまでのハーレーにない新設計とされるストリートドラッガー「VRSCA Vロッド」が生み出されました。
現行モデルにも継承されている「VRSC」は、「Vツイン・レーシング・ストリート・カスタム」の略称です。Vロッド誕生の原点は1994年、デイトナ200マイルレースに参戦したハーレーダビッドソン初の水冷エンジン搭載ワークスマシン「VR1000」で、このレーサーを市販用バイクに再設計されたものなのです。
構造を見ていくと、本来フューエルタンクがあるエンジン上部にはエアクリーナーボックスと冷却水のリザーバータンクが内蔵されており、そしてフレーム前部に大きなラジエターが搭載されています。従来のハーレーと見比べると、エンジン右側に見られるエアクリーナーがないのはそうした構造から。そしてフューエルタンクは、シート下部に備わっているのです。
2016年現在のレボリューションエンジンは排気量1,246ccで、ハーレーのラインナップで見ればスポーツスター1200モデルとほぼ同じ。しかし最大トルクは105Nm / 7,000rpmと、1200スポーツスターの87Nm / 3,750rpmと比べてもまるで別物です。実際の乗り心地も、空冷ハーレーのトルクとはまったく異なる、シャープで小気味良い加速感が印象的。「ハーレーダビッドソン」というよりは「Vロッド」というブランドが確立されていると言っても過言ではありません。
初代Vロッド VRSCAから始まったファミリーの系譜は、よりタイトなポジションを持つVRSCB(2004~2005年)、ビキニカウルとブラックアウトしたボディが印象的なVRSCDナイトロッド(2006~2008年)、バックステップ&車高アップを図ったストリートバイクVRSCRストリートロッド(2006~2007年)、スポークホイールを履いたVRSCAW(2008~2010年)、Vロッド生誕10周年記念モデルVRSCDX Vロッド 10th ANV(2012年)といったモデルを排出し、現在2モデルへと受け継がれています。
VRSCDX ナイトロッドスペシャルは、2006年に登場したナイトロッドのフルブラックアウトモデルで、そのビキニカウルが強烈なキャラクターとなって人気を博しました。2013年にマイナーチェンジを行い、ビキニカウルを失った今は2012年に登場した10周年モデルのブラックアウトモデルといった様相で、Vロッドのスタンダードモデルとして君臨しています。
もう一モデルは、2009年に登場したVRSCF マッスル。現在ナイトロッドスペシャルにも標準装備されている倒立フロントフォークをいち早く取り入れ、さらにその名にふさわしいマッシブなボディが話題を集めました。ややコンパクトなボディサイズながら、重量はナイトロッドより少し上と、一味違った力強い走りが楽しめるモデルと言えます。
2012年のマイナーチェンジによって、ハンドルとフォワードコントロールステップの位置がややライダー寄りになるなど、それまでの乗り味を思えばかなりライトな印象になったVロッド。それでも、いざ走り出せばかつてアメリカを賑わせたレーシングスピリットを感じさせる鋭いライドフィールを味わわせてくれます。
ハーレーダビッドソン流の水冷レーシングマシンは、他メーカーでは絶対にこうはならないという独特の設計思想から生まれた特異なバイクです。先入観抜きで乗ってみれば、Vロッドが訴えかけてくるアメリカンライディングの楽しさを堪能できることでしょう。