アメリカを拠点とするガービング・ヒーテッド・クロージング社は、もともとボーイング社の下請け工場だった。しかし冬の寒いある日、凍える風が吹く中をバイク通勤する社員たちを見たゴードン・ガービングが「何とか快適にバイクに乗る方法はないものか」と思いつき、電熱ウェアの開発をはじめたという。
そして研究を重ねた末、1976年に同社を設立して電熱ウェア製造を開始。現在はワシントン州の広大な敷地に研究施設を置き、寒冷地で活動する人々を支える電熱ウェアメーカーとして厚い信頼を得ている。1999年からは電熱ウェアをハーレーダビッドソンの純正アクセサリーとしてOEM供給を開始した実績を持っている。さらにデルタフォースをはじめとするアメリカ特殊部隊への納入実績もあるという。過酷な状況で活動しなければならないプロ集団に信頼されている道具は、何よりタフでシンプルで壊れにくく、いついかなるときでも本来の性能を発揮するということでもある。
そんなガービング社の電熱ウェアの実力を体験すべく、今回は同社ラインナップの中から「電熱ジャケット」を試着してツーリングに出かけてみた。
ハーネスをバッテリーに接続
まずは付属のバッテリーハーネスをバイクに接続する。装着したのは編集スタッフ所有のスポーツスター。プラス側を接続した後、マイナス側はフレームのボルトに共締めしてボディアースとした。ハーネスには過電流を防ぐヒューズが付属するので安心だ。
ハーネスの長さを調節する
ハーネスの長さには余裕があるため、シート下にバッテリーがあるスポーツスターの場合はハーネスがやや余る。そのため余ったハーネスはサイドカバー内にまとめ、コネクター部をタイラップで固定した。水や埃の侵入を防ぐ樹脂キャップがうれしい。
接続後のハーネスの状態
電熱ジャケット側のハーネスの長さにも余裕があるため、使用状態によってはハーネスが余る。今回は電熱ジャケットの内側でハーネスをまとめたが、降車時にコネクターを外すのを忘れることも考えると、ゴムなどで軽く縛っておくくらいにしたほうがよさそうだ。
無段階温度調節できるオプション
今回はオプションの12Vシングル温度コントローラーを併用した。ボリュームスイッチで無段階に温度調節ができるようになる。電熱ジャケットの内側はこのようにハーネスコネクターが集中しており、電熱パンツを併用時でもこの一カ所にハーネスをまとめられる。
まるでコタツにもぐったように
カラダはポカポカあったか状態
スポーツスターのバッテリーにオプションの12Vシングル温度コントローラーを介して電熱ジャケットを接続、さっそく都心から奥多摩へのツーリングに出かけた。テスト時の天候は曇り、気温は18度くらいだったため、さすがに都心を走行しているときは電熱ベストのスイッチをオンにすると熱くてたまらない。しかしスイッチを入れた直後から暖かさを感じられる即応性にちょっと驚かされる。
とはいえさすがに汗をかいてきたのでスイッチを切り、首都高から中央高速とつないで奥多摩方面を目指した。八王子ジャンクションから圏央道へ入るとやや気温が下がったが、まだ電熱ジャケットの出番というほど寒くはない。もっと標高の高い山奥に向かうべく、日の出ICで下車して国道411号を往き奥多摩湖を目指した。
青梅を越えて山が深まるにつれてだんだんと寒くなってきた。今回、アウターとして着用したのは薄手のテキスタイルジャケットで、防風性はあるが保温性はあまり期待できそうにないタイプ。もちろん、電熱ジャケットの実力を試すためのセレクトだ。
手元の気温計が15度を下回ったところで電熱ジャケットの電源を入れた。数十秒で熱を感じはじめ、1分を過ぎるとしっかりと暖かい。外気温がまだ高いせいもあるかもしれないが、この即応性はかなりうれしい。
この電熱ジャケットの熱源は、ガービング社独自のマイクロワイヤーヒートテクノロジーというそうで、このワイヤーは襟と胸、袖そして背中全面に内蔵されている。そのため、まず熱を感じるのは首のまわりで、延髄から喉元にかけてがすぐにポカポカと暖かくなる。アウターの襟元を締めているために電熱ジャケットの襟が素肌に密着していることも、すぐに熱を感じられる理由なのだが、ご存知のように首周辺が暖まると全身の血流を暖めることも一因だろう。
首まわりが暖った頃には、腰や胸のあたりもかなり暖かくなっている。上半身がぬくぬくとして、まるでコタツに入っているかのような快適さ、気持ちよさを感じる。風呂に浸かっている感じにも似ている。
ワイヤー式の熱源というと、ワイヤー周辺部しか暖まらないのでは……という疑問を持つ方もいるかもしれないが、ガービング製電熱ジャケットに関していえばただの杞憂だ。よほどワイヤーが密に内蔵されているのか、それとも熱伝導のいい中綿が入っているのか、そのあたりは未調査なのだが、とにかく「面」で熱を感じられるのだ。最初にテストで着用したときはワイヤー式ではなく電熱パッド式かと思ったくらいである。
奥多摩周遊道路に入ったところで気温は13度まで下がった。極寒時と同じようなテスト環境ではないものの、電熱ジャケットの電源を切ると肌身に冷たさを感じる気温だ(そのためにアウターを薄手にしているのだから当然なのだが)。電熱ジャケットの余熱がなくなったのを確認した後、再度電源を入れる。たちまち首まわりが暖まり、寒さが薄らぐ。バイクを走らせていないと汗がにじんでくるくらいだ。
スポーツスターのスロットルをひねり、奥多摩周遊道路を走った。空模様は相変わらずの曇天で、ここまで山を上がってくると晩秋の気配も漂っているが、体はポカポカと暖かい。出かける前は温泉にでも寄ってこようと考えていたが、これだけぬくぬくしているとその気も薄らぐ。この電熱ジャケットの欠点はそれかもしれない。
冬でもガンガン走る人には
これは必須アイテムなのだ
結論を言おう。冬でもバイク通勤をする人や、たとえ雪が降ってもツーリングに出かける人に、ガービング社の電熱ジャケットは購入時の選択肢の有力候補だ。前述したように電源オンですぐに暖まる即応性、広い熱源面積、扱いやすいスイッチ類など、タフでシンプルなアメリカ製グッズのいい面が現れているし、費用対効果も高い。
気をつけたい点はいくつかある。まずは選ぶサイズ。XSから2XLまで6サイズが揃うが、そこはやはりアメリカンサイズ。普段着用しているインナーよりも1~2サイズ小さめを選ぶといいが、購入時にはサイズをきちんと確認したい。特にインターネットでの購入を検討している人はぜひとも。
また、電熱ジャケットも電熱ベストも、襟まわりが厚手にデザインされているので、アウターの襟にも余裕があるものを選ばないと首がきつくなるし、電熱部を肌に押しつけることになるため最悪の場合は低温やけどを招く危険も考えられる。アウターのセレクトにも気を配りたい。
今回はバッテリーに直結して電源を確保したが、ガービング社ではシガーソケットやヘラーソケットもオプションでラインナップしている。所有するバイクによって選びたい。
電熱ウェア全般にいえることだが、電気による発熱は消費電力も高い。今回テストした電熱ジャケットの電力は77Wだから、ヘッドライト1個分よりも大きい。所有するバイクのバッテリー状態、発電可能容量によってはトラブルの原因になりかねない。ジャケットの他にグローブやパンツを併用すればさらに消費電力はあがるので、バッテリー状態のチェックはもちろんのこと、発電容量の確認もしておきたい。電気のことがわからない場合は、バイクショップまたはディーラーなどで確認することをおすすめする。
しかしそうしたデメリットを考えても、この電熱ジャケットのメリットは大きい。冬の寒さはときに体の反応速度を遅らせるし、判断力も低下する。冬期のバイクライフの安全を考えるなら、もはやこれは必須アイテムと言えるだろう。