ここ数年、晩秋から初冬に掛けて私の恒例行事となっているのがいわゆる「電熱ウェア」のテストだ。電熱ウェアとは、バイクの車載バッテリーや携帯式の充電池から給電してウェア内部の電気式ヒーターを稼動させるアイテムの総称。ウェア自体が強力に発熱するため、その威力は一般的な防寒着の比ではない。冬場でもバイクに乗るライダーの最終兵器として近年普及が進んでいる注目のライディングウェアだ。
これまでさまざまなブランドのジャケットやベスト、グローブなど、20近いアイテムを試してきたが、今回はユーザーからの評価も高い代表的な電熱ウェアとして、ツアーマスター「シナジー2.0」と、「ヒーティングウェア(正式名称:ヒーテッドジャケットライナー)」を比較テストすることにした。
ツアーマスター「シナジー」は今季バージョンアップを果たし、「シナジー2.0」となったいわば最新鋭のアイテムだ。一方、ヒーティングウェアは老舗ブランド、ガービングの製品として知られており、電熱ウェアのベンチマークとしてふさわしい性能を誇る。これが二つのアイテムを選らんだ理由だ。両方の製品を取り扱う横浜本牧にあるショップ・パインバレー協力のもと、この興味深いテストが実現した。
舞台は富士山。「富士山スカイライン」を利用して新五合目を目指すルートだ。しかし、今回は例年よりも1ヶ月ほど実施が遅くなってしまった。気温の低下はいっそう進み、気象環境は晴天・曇天・濃霧がめまぐるしく入れ替わる。それゆえテストと撮影は今まででもっとも過酷なものとなったが、それが両ブランドの異なる性能とコンセプトを浮き彫りにする結果となった。まずは映像でその一部始終をご覧頂きたい。
今季モデルチェンジを果たし、2.0へとバージョンアップしたツアーマスターの「シナジー」。もっとも大きな変更点は、温度管理と電源管理を司るコントローラーだ。電子回路の増強により温度調節は5段階となり、ヒーターの電源を制御して温度を一定に保つ機能も追加された。標準装備でありながら、ジャケットと電熱グローブなどのアクセサリー類の温度を個別に調節できるデュアルタイプとなっている点も見逃せない。また、ジャケット表面の生地がコットンのような風合いを持つ高級感ある素材に変更されたほか、寒さを感じやすい首周りのヒーターが強化されフィット感もアップ。普通の熱線式ヒーターと異なり、しなやかで断線しにくく、遠赤外線効果で身体の芯からポカポカと温めてくれるマイクロカーボンファイバーヒーターを採用しているのも他社製品との大きな違いだ。さらに、ややタイトなサイズをチョイスするのが電熱ウェアの基本だが、肩口や脇腹にライディングウェア然としたシャーリングが施され、これが生地のテンションを緩和してくれるので着用時の疲労感が少ないというのも特徴だ。内部に均一に配置された中綿も良い働きをしている。約75度という余裕の発熱量を誇るマイクロカーボンファイバーヒーターだが、中綿が肌との間に一定の空間を確保してくれるので温度調節をもっとも高い位置にしたとしても熱すぎるということがない。また、電源をオフにしても一般的なライディングウェアのライナーと同程度の保温性があるため、バッテリーにも優しい使い方が可能となっている。ややコード類が長すぎるのが気になる点だが、生地の高級感が増したほかハンドウォーマー兼用のポケットなども装備しているので、アウタージャケットを脱いでも違和感が少なく快適だ。徹底して利便性と快適性を追求しているのがシナジー2.0の特徴と言えるだろう。
真冬のライディングでも着膨れを嫌う。ハーレーのオーナーは総じてお洒落な人が多いようだ。そう考えるとこの「ヒーティングウェア」の設計にも合点がいく。中綿は最小限だが、その分薄く軽くできている。仮にオーナーが防寒性に乏しいタイトなレザージャケットをアウターとしてチョイスしたとしても、この電熱ウェアならスリムに着用できる。そして、映像でも確認できるが、その最高到達温度はシナジー2.0より10度も高い。まともなウインタージャケットを着用して温度調節をもっとも高い位置にキープすると、ピリピリとした刺激を感じるほどの発熱量だ。しかし、防寒性・保温性に乏しいアウターを着用した場合は、これぐらいのオーバースペックでないとオーナーは満足しない可能性がある。ガービングの電熱ウェアは圧倒的な体感温度の高さが特徴だが、それがハーレーオーナーの気質というか特質に見事にマッチしているという印象だ。季節の変わり目や、気温差の激しい地域を移動する場合、この電熱ウェアならコンパクトに畳んで気軽に携行できるというメリットもある。有り余るほどの発熱量が特徴の製品ゆえ、別売のコントローラーはぜひとも購入したいオプションだ。電子制御式で任意の温度に調節できるほか、ヒーターの温度を一定に保つ機能もある。ジャケットとは別に電熱グローブなどのアクセサリー類の温度調節もできるデュアルタイプも設定されるなど、機能性についてはシナジー2.0と互角と言ってよいだろう。ただし、コントローラーは無段階でクリック感もないため、好みのポジションを設定するのにやや苦労する。こうした使い勝手の部分ではシナジー2.0が一歩リードしている感があるが、少しでも高い体感温度を必要とする人にとっては、「ヒーティングウェア」がお勧めだと言える。
富士山の厳しい環境で行われたテストは如何だっただろうか。一口に「電熱ウェア」といっても、ブランドごとに追求している性能やコンセプトが異なるということがお分かりいただけたのであれば過酷なテストを行った甲斐もあるというもの。
急速に熱を奪い去る富士の過酷な気候でテストしても、両者ともに十分すぎるほどの性能を発揮してくれたのは映像でご覧頂いた通り。温かさについてはどちらを選んでも失敗することはないと思うが、使い勝手や快適性を重視するならツアーマスター「シナジー2.0」、少しでも高い温度とコンパクトさを必要とするのであれば「ヒーティングウェア」がお勧めという結果になった。価格としては、ジャケット単体でみればヒーティングウェアがお買い得と言えるが、ツアーマスターはデュアルのコントローラーが標準装備されている。仮にヒーティングウェアにオプション設定されているコントローラーを購入した場合、その立場は逆転するので、このあたりは悩ましいところだが……。
冬本番を目前に控えて、電熱ウェアの購入を検討している人も多いと思う。以下に両電熱ウェアのポイントをまとめたので、参考にしていただきたい。両製品を取り扱うパインバレーでは、店舗で試着した上で購入することも可能なうえ、全数入荷時と出荷時に通電し、発熱テストを実施しているのでネット通販でも安心して購入することができる。厄介な初期トラブルを回避するという意味でも、ぜひ利用したいショップだ。
- 5段階の温度調節
- 温度を一定に保つ電子制御
- 遠赤外線効果を発揮するヒーター
- 均一な温かさを実現する中綿
- デュアルコントローラー標準装備
- 動きを妨げないシャーリング
- パインバレー販売価格:36,000円