「新車を買ったけど、イメージしていた鼓動感に程遠い」 そういった声を聞いたのは一度や二度ではない。近年設定された排出ガス規制により、ハーレーなどの輸入車は日本に上陸する際、エンジンが生み出す音や排気ガスがその規制を超えないようコンピューター設定されている。制限がかけられているのはエンジンに供給される燃料の量で、結果としてエンジンが本来必要とするそれよりも少ない燃料で動いているというのが実状だ。
そのコンピューター制御を解き、エンジンのパワーを最大限に生かすことを目的としているのがインジェクションチューニングなわけだが、これまでは「マフラー&エアクリーナーの交換とセットとするのがベスト」と言われてきた。しかしマフラーを換えてしまうと、ディーラー車検をはじめ、ハーレーダビッドソンジャパン正規販売網でのサービスが受けづらくなってしまう。
現行モデルのオーナーはこの葛藤に苦しんでいるわけだが、では実際のところ、ノーマルマフラーのままインジェクションチューニングを施してもあまり変化がないというのは本当なのだろうか。国内でトランスファーチューニングを手がける大阪のショップ「MOTOR STAGE」の代表 廿枝 正氏に聞いたところ、「ノーマルでも十分効果は出るよ」との返答があった。
“乗って気持ち良い”を実現させる 「端的に言えば、どれだけノーマル車輌をセッティングしたデータを持っているか。質はもちろん、そのデータ量が重要なんです」
当初、ノーマルコンピューターの設定を書き換えるトランスファーチューニングや、コンピューター本体そのものを取り替えるフルコンは、マフラーとエアクリーナーの両方がノーマルのままでは効果は薄いと言われてきた。ただ、そう言われていた背景には当時ノーマルセッティングされたデータが蓄積されていなかったことがあり、廿枝氏によれば「この2年間でノーマルセッティングに必要な現行モデル用データを蓄積してきた。その定説は古いもの、ウチ(MOTOR STAGE)では十分対応可能」と言う。 「まずはノーマルの状態でセッティングを知り、ベストの乗り味を探すことが大事」と廿枝 正氏。
「トランスファーチューニングについて、さすがに古き良きハーレーの鼓動感を表した“三拍子”にはおよばないが、パワーに限って言えばサンダーマックスやツインテックと同じレベルにまで持っていけます。ノーマルのままでハーレーらしい乗り味が得られるという点に大きな意義があると思います」
ノーマルマフラーのまま、ハーレー本来の鼓動感を引き出せる――。確かに愛車を手に入れるときだと、どうしても「せっかくハーレー乗りになったんだから、見た目をよりカッコよくしたい」と言う気持ちになり、外装のカスタムに費用を注ぎ込んでしまうところ。だが改めて、ハーレーダビッドソンという特別なバイクを手に入れ、末永くバイクライフを愉しんでいきたい想いを考えれば、何より“乗って気持ち良い”ことがもっとも重要になる。もちろんマフラーを換え、音と見た目に変化を加えることもハーレーに乗る醍醐味のひとつではあるが、まずはノーマル時にインジェクションチューニングを行い、快適な乗り心地を自分で探った後に外装とともにセッティングを変えていく、というのがベストなのかもしれない。そう、フルコンもトランスファーチューニングも、いつでも好みに合わせてセッティングを書き換えられるのだから。
そんな話におよんだ際、廿枝氏は次のように語った。 ノーマルでのセッティングが整えば、ハーレーライフがより楽しくなるのはもちろん、カスタムなど自身の幅にもつながる。
「これからハーレーオーナーとなる人とまず接するのは正規ディーラーですよね。だからこそ僕は、ディーラーにはトランスファーショップになって欲しいんです。初めてハーレーに触れる人にとって一番大切な“乗り心地”や“鼓動感”を得るために必要な説明と提案をしていくこと、これが重要なんじゃないでしょうか。ハーレーだからこそこだわりたい部分を伝えていって欲しいですね」
まずは、誰もが思い描くハーレー本来の鼓動感を手に入れること。永らくハーレーに携わってきた人物だからこそ言える言葉なのだと思わされた。
このようにMOTOR STAGEではノーマルのマフラー&エアクリーナーでのセッティングデータを、年式・車種別に蓄積している。まずはノーマルの状態でのチューニングによって、オーナーの好みを探っていくことが大前提となるのだ。
次の週末までにセッティング完了 ECM本体は、正しい手順さえ知っていれば誰にでも取り外すことができる。つまりインジェクションチューニングを依頼したいお店がいかに遠くても、自分で取り外してショップに発送すればどこでも対応してくれるのだ。たとえば週末にツーリングを愉しんだ後、自分の手でECM本体を取り外し、梱包してショップに送れば平日のあいだに作業が完了し、次の週末にはチューニングされた愛車でのツーリングが愉しめるというワケ。ノーマルの車輌ならもちろんのこと、カスタムしたバイクでも「年式」「車種」「取り付けているマフラーとエアクリーナー」を伝えれば、状態に合ったベストのセッティングに書き換えてくれる。 |
| SHOP Info. 住所/大阪市北区東天満1-3-1ユーロハイツ東天満 Tel/06-6881-0688 Fax/06-6881-3618 営業時間/10:00~19:00 定休日/日曜、祝祭日 MOTOR STAGEの チューニング商品一覧 トランスファーチューニング 書き換え料金:63,000円(税別) ※2回目以降の書き換えは3,000円~ 適合車種:全年式/全車種 サンダーマックス ユニット 価格:105,000円(税別) 適合車種:2008年以降のツーリングモデル サンダーマックス ユニット 価格:99,000円(税別) 適合車種:~2009年 スポーツスター、~2007年 ツーリングモデル、ソフテイル全般 サンダーマックス ユニット 価格:102,000円(税別) 適合車種:2010年以降のスポーツスターモデル、ダイナ全般、ソフテイル・ロッカー
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これまでアーリーショベルやエヴォなど、5~6台のハーレーを乗り継いできたんですが、メンテナンスや快適さを考え、現行モデルに乗るようになりました。ご近所のこととか考えると面倒なことはしたくなかったんで、マフラーもノーマルのままに。でも乗り味がイマイチだったんで、モーターステージでトランスファーチューニングをしてみたんです。最初は「そんなに変わらないだろう」と思っていたんですが、思っていた以上の変化がありまして、800回転ぐらいに設定したらアイドリングが良くなり、ノーマルマフラーでも十分快適なツーリングが楽しめています。しばらくはノーマルのままにする予定です。だって旅先で何かトラブルがあったとき、ディーラーに敬遠されることがあるかもしれませんし、今はこれで十分満足できていますから。モーターステージとのやり取り? もちろんショップまで走って行っていますよ(笑)。
深草宏之さん(東京都小金井市在住)
2009年式 FLHX ストリートグライド