VIRGIN HARLEY |  第3回 セッティング方法CVキャブレター講座

第3回 セッティング方法

  • 掲載日/ 2005年05月18日【CVキャブレター講座】
  • 執筆/ジャイアン
CVキャブレター講座の画像

CVキャブレターのセッティング方法と
その作業の注意点

一般的にキャブレターのセッティングは、数値の変更ができるさまざまな場所があります。しかし純正CVの場合、固定されていたり、種類が限られていたりします。純正部品を使ってのセッティングは、それを遵守しなければなりません。また、社外パーツでのセッティングの場合も、部品を独自のものに置き換えることはあっても、数値変更に関わる部分は純正キャブレターに準じることが多いようです。

さて、セッティングにおいてはジェット類(メインジェット、スロージェット)の調整が主になってきます。ジェット類は空気やガスを計量する部品です。そのサイズは通路の穴の大きさによって決められており、穴が大きくなるほどサイズも大きくなります。しかし、サイズはただ大きければいいわけでありません。ジェット類はエンジンが求める空気とガスの適切な混合比を作り出すためのものですから、混合比が合わないとエンジンは本来の力を発揮できませんのでご注意下さい。では、実際のセッティングをキャブ内のセッティングパーツを通してその支配域とセッティングを見ていきましょう。

※ジェット類にはメインジェット、スロージェットとそのエアジェット、ニードルジェットなどがありますが、CVキャブレターではニードルジェットは1種類、エアジェットは固定されているので変更しません。

メインジェットと
ニードルジェットについて

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まずはメインジェットとジェットニードルです。本来は別々に説明すべきなのですが、それぞれの役割が補完的に働くのでまとめて説明します。メインジェットはスロットル開度1/4辺りから全開域までのガスを計量する部品です。しかし実際は開度3/4以下までの領域はジェットニードルがガスの制御をおこない、開度3/4以上から全開までがメインジェットの影響域です。

※便宜上スロットルの開度で影響域を表しますが、CVキャブの場合はピストンの上がりが完全に同調しているわけではありません(「CVキャブレターの魅力」参照)。

さて、メインジェットによって全開域のパワーが決まりますが、これを公道上でセットするのは危険かつ不可能です。なので、大体の数値でやるか、それぞれのセッティングパーツのマニュアルに従うか、あるいはベンチデータの実測値に従うしかありません。どうしてもやりたければ、自己責任になりますがサーキット以外ではリスクがあり過ぎます。極端な個体差を除けばほぼ適正な値が各種雑誌やインターネット上に情報として出ているので参考にしてください。

※ご注意下さい
排気量やマフラーなどによって適正な値は異なります、ご自分の車両装備に近い車両のデータであってもご自分の車両に完全に合うとは限りません。完全に近いセッティングを出そうと思うのでしたらダイノジェットマシンを持っているお店にお願いしましょう。
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次に1/4~3/4開度辺りまでの中間開度がジェットニードルの影響域になります。ジェットニードルは「針」と言うより「釘」のような形をしてニードルジェットの中に収まっています。スライドピストンが持ちあがった際に、ジェットニードルの外径とニードルジェットの内径の間にできる隙間の間隔によってガスを制御します。ガスの計量はメインジェットがおこないます。

ジェットニードルは直線部分から先に向かって次第に細くなっており(これを「テーパー」といいます)、先端で最も細くなっています。セッティングではジェットニードルの高さを変えてそのテーパーの始まる位置を上下させてベストを探ります。メインジェットが適切であれば中間開度の不具合はほとんどの場合この高さが間違っている事になります。また全開域ではジェットニードルの先端のもっとも細い部分がニードルジェット内に残るだけなので、セッティングに影響は及ぼしません。

実はオイラ達が体感する領域の加速感やレスポンスはジェットニードルによる所が大きく、適正なガスの制御をおこなうその高さの他に以下のようなものがあります。

  • ● 直線部の直径
  • ● テーパーの角度
  • ● その始まる位置
  • ● 全体の長さ

上記のものが、キャブレターのキャラクターに大きく影響しています。レーシングなモノの方が細く、角度はきつく、短い傾向にあります(例外あり)。セッティングパーツではジェットニードルを変更する物が多く、純正パーツでは高さが変えられないためワッシャ-を入れ、ジェットニードルが上がる時の高さ変更をします。社外パーツでは変更可能なものに置き換えるものが多いです。ハーレーでは全車種で7~8種類程度違う形のものが確認できますが、形の違いが加速感やパワー感のキャラクターにもなります。

アイドルミクスチャースクリューと
スロージェットについて

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次にアイドルミクスチャースクリュー(ミクスチャースクリュー、パイロットジェットとも言う)とスロージェットでこれは0~1/4開度辺りまでの低開度に影響します。スロットル開度が0でも実際はアイドルスクリューによりわずかにスロットルバルブが開けられアイドルポートからガスが出てアイドリングしています。そして更に開度が開くとトランスファーポートよりガス供給されます。

アイドルミクスチャースクリューは先端部がニードルになっています。これを0から開けていくと、最もアイドリング回転数が上がる所があり、そこが適正です。この作業をおこなう場合はエンジンは完全に温まった状態でなければ不正確になるのでご注意ください。

※アメリカでは法律上、アイドルミクスチャースクリューを調整する事は禁じられていますが、日本では合法です。調整の際は封印を外しておこないますが、ディーラーによっては納車時に調整するところもあります。ここの調整により発進から1/8回度くらいまたはパッと開けた際のツキなどが改善されます。作業後にアイドリングは適正に戻します。
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低速はスロージェットによってコントロールされます。スロージェットは同一回路上のアイドルミクスチャースクリューのガスも計量しています。もしアイドルミクスチャースクリューを開く回転数が4回転を超えるような場合は、スクリューの脱落の危険があるためスロージェットのサイズアップが必要になってきます。スロージェットは1/4開度くらいまでを制御し街乗りなどの一般的な走行状況に影響してきます。1/4開度辺りは上記のジェットニードルとのオーバーラップ域でもあり相互の影響があらわれセッティングがむずかしいところでもあります。

通常のサイレンサー交換程度であればそれほどスロージェットのサイズアップは考えられずアイドルミクスチャースクリューとジェットニードルの調整で済むと思います。また2in1タイプのエキパイでは前述の1/4開度のオーバーラップ域で谷が出やすくこの場合はスロージェットのサイズアップが有効です。発進から気持良く加速して中速域につながるフィーリングにはスロージェットのセッティングが大切ですが、エンジンがノーマルの場合はノーマルのスロージェットのサイズで十分と考えられます。余程の事がないかぎり交換の必要はないでしょう。流速もそれほど高い域ではないので、吸排気系の部品交換があった場合でもメインジェットほどは大きな影響はでないでしょう。

それぞれのジェットの影響領域は明確に区分されているものではなく、領域の境目が重なる場合はとうぜん各ジェットの影響域に重なります。上記のジェットニードルとスロージェットの場合のようにどちらの影響を取るか、は交換されている部品の影響やライダーの求める走り方よります。またセッティング作業方向ですが、全体の見直しの場合はメインジェットから始まり順にジェットニードル、スロージェットへと移るべきで、低速側からいくとオーバーラップ域で濃すぎる症状が出やすい場合がありますので気をつけてください。

作業上の注意点

ハーレーの純正CVキャブの場合、他のレーシングキャブと違いジェット等の交換は考慮されてないので部品交換には当然、分解作業が要求されます。しかしここは燃料経路でもあり作業は自己責任において慎重に作業されるべき所です。特に揮発性と発火性の強い燃料を扱い、機能上では引火の危険が常の付きまとう場所なので、イタズラ半分に作業されるべきところではありません。作業にあったっては必ず事前の手順の確認と作業の慎重さが要求されます。できれば熟練者に見てもらえる環境が必要です。作業の不手際によって最悪の場合、延焼や爆発それによる傷害または死亡も起こり得る場所です。またエアクリーナ-を外したままのエンジン始動も止めてください。覗き込んだ瞬間バックファイヤーを受けて火傷する危険性もあります。

未熟な人や作業的に理解が浅い人は自分でやらないほうがいいでしょう。ただ、これらを知識として正しく知っていれば、頼れるメカニックに自分がどうしたいのか正確に伝えることができ、自分の思い通りの仕事をしてもらえるはずです。「バイクをいじれること」がスゴイのではなく、「正しい知識と機能に対する正しい理解を持っていること」がすばらしいとオイラは考えます。そうすれば機械は壊れませんから。

プロフィール
メンテナンス番長 ジャイアン氏

XLH883とFLSTFを所有する。彼のハーレーへの造詣は深い。特にCVキャブレターには、仕組みはもとよりセッティングや最適化まで幅広い知識を持つ。最近は、ブログにてメカニズムを中心に執筆中。

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