クラッチの働き、重要性については前回のコラムでご理解いただけたかと思います。では、今回は皆さんもできる”クラッチ調整”についてご紹介いたしましょう。作業はクラッチケーブルを外し、各部の清掃、クラッチを取り付けた後にクラッチ調整を行う、という順番になりますが、作業に慣れていない方はご参考までに留めていただき、最寄のショップに作業を依頼することをオススメいたします。
クラッチケーブルへ注油をする際には、まずクラッチケーブルの中ほどにあるアジャスターを緩めてやる必要があります。アジャスターとはクラッチケーブルの張りを調整している部品で、ワイヤーの遊びはここを調整して行います。また、ここを緩めてやらないとクラッチレバーの脱着ができないのでご注意ください。アジャスターを緩める際には1/2、9/16インチのスパナが必要になってきます。1/2インチスパナでアジャスターを抑え、9/16インチスパナでアジャスターを緩めます。ケーブルの脱着の際にはアジャスターは最大まで緩めてください。
ケーブルが緩まれば、次にクラッチレバーからケーブルを外す作業です。クラッチレバーはピンでホルダーに留められており、一度クラッチレバーをホルダーから外してやらないとケーブルを外すことができません。クラッチレバーの付け根を下から覗くとピンが“スナップリング”と呼ばれるリングで留められているのがわかります。このリングを外すには「スナップリングプライヤー」と呼ばれる工具が必要です。締まっているリングをこの工具で押し広げ、外してやるのですが、力を入れすぎるとリングが広がり過ぎて戻らなくなってしまいます。そのまま再使用するとピンが脱落する恐れがあるのでご注意ください。また、リングを外す際は飛ばして無くさないよう気を付けましょう。小さな部品ですので、探すのが大変です。リングを外し、ピンを抜けばクラッチレバーをホルダーから外すことができます。クラッチケーブルはレバーに引っ掛けてあるだけですので、レバーから外しましょう。
さて、ケーブルが外れたらいよいよメンテナンス開始です。クラッチの重さに悩む人はクラッチケーブル内部のワイヤーが錆びている可能性があります。そういう方は市販のワイヤーグリスでワイヤーを潤滑してやればクラッチの重さが改善されるかもしれません。ただ、クラッチの重さはケーブルの取り回しを変えるだけで改善されることがありますので、そちらも試しましょう。ケーブルの急な曲がりは禁物です。またクラッチケーブルは純正ケーブルをオススメします。純正ケーブルは内部にテフロンチューブがあり摩擦が少ない構造になっています。アジャスター部のグリス塗布を怠らなければケーブルへの注油はそれほど必要がない、純正ケーブルの使用が望ましいでしょう。メンテナンスが終われば、ケーブルの取り付けです。このときレバーとピンに塗布されている古いグリスを拭き取り、新しいグリスを薄く塗ってやりましょう。スムーズにクラッチを切るにはこういったところへの配慮も必要です。
レバーをホルダーに留めれば、緩めたアジャスターを締め、調整を行います。レバーの遊びはワイヤーの根元とレバーブラケットの間が1.6~3mmになるようワイヤーアジャスターを調整しましょう。遊びが少なくなると半クラに近い状態になり、すべりが発生してしまいます。この状態になると、フリクションプレートの磨耗が促進され、更に遊びがなくなる悪循環になりますから、早めの調整を心がけてください。さて、アジャスター調整が終われば、アジャスター部のグリス塗布を行いましょう。クラッチケーブル内部への水の浸入はほぼここから起こります。アジャスター部のグリス塗布をマメに行うだけでもクラッチケーブルの痛みは防げます。定期的なアジャスターのグリス塗布は簡単な作業ですので定期的に行ってやってください。なお、ゴムブーツの耐油性が確認できないためグリス塗布の際にはシリコングリスの使用をオススメいたします。
先日、バージンハーレー編集部のターミー君がクラッチ盤の交換をやったそうで、作業を依頼した大阪にある「ハーレー屋まつもと」さんで撮影した写真があるそうです。参考までに掲載しておきましょう。彼は1997年式 XL1200Cに乗っており、走行距離は7万キロを越えています。クラッチの調子が悪くなったので「ケーブル交換のついでにクラッチ盤も」と思ったそうです。それなりに距離を重ねている車両のせいか、彼は最近心配性過ぎる気がしますね。いざクラッチをバラしたところクラッチ盤はそれほど減っていなかったようで「ハーレー屋まつもと」の松本氏にも「まだまだ行けるで、このクラッチ盤は」と笑われたそうです。彼にもいい勉強になったでしょう。走り方にもよりますが、半クラの多用や調整不良のまま走行をしていない限り、クラッチ盤の減りなど微々たるものです。よほどの距離を走っていない限り、クラッチ盤の交換まで行うことはありません。大きなトラブルになる前に、アジャスターの調整とグリス塗布を定期的にやってやれば調子の良いハーレーが維持できるでしょう。
53歳。1979年に「モトスポーツ」を創業。ショベルヘッドが新車の頃からツインカムが現行の今までハーレー業界の第一線で活躍している。オートバイを愛するが故に規制対応マフラー「ECCTOS」やオリジナルエンジン「U-TWIN」の開発に携わる情熱家でもある。