VIRGIN HARLEY |  第7回 クラッチの働きなぜから学ぶハーレーメンテ講座

第7回 クラッチの働き

  • 掲載日/ 2006年06月24日【なぜから学ぶハーレーメンテ講座】
  • 執筆/モトスポーツ 近藤 弘光
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複数のギアがある乗り物には
クラッチは必ず装備されています

ハーレーに乗っていると必ず操作しなければならない「クラッチ」。その役割と仕組みはご存知でしょうか? 当たり前に使うものは意外に意識しないことが多く、今まで「クラッチって何?」などとじっくりと考えたことはないのではありませんか? そこで今回はハーレーのみならず、バイクには欠かせない「クラッチ」についてご紹介しましょう。

まずはクラッチの役割から。クラッチとはエンジンで発生した力(回転力)をリアタイヤに伝え、後輪を回してやる「動力を伝達する機構」です。しかし、バイクには複数のギアが用意されており、常に動力を後輪に伝えているとギアを変える際、ミッションに大きな負担を与えてしまいます。そのため、クラッチはギアチェンジの際に動力をミッションに伝えないようにする仕組みになっています。動力をミッションに伝えないようにするため、皆さんはクラッチレバーを握り「クラッチを切る」わけです。クラッチレバーを握り、クラッチケーブルを通じその力がクラッチに伝わり、プライマリーケースの中で動力が一時的にカットされているのです。動力がカットされている間に皆さんは適切なギアにチェンジを行い、改めてクラッチを繋ぎ、再び動力をミッションに伝えます。このような操作を経て、バイクはスムーズに走っているのです。

クラッチの構成部品は消耗品
永く乗るためにはメンテは必須です

さて、クラッチの役割はご理解いただけたかと思います。次にクラッチの仕組みを簡単にご紹介しましょう。一括りにクラッチと言いますが、クラッチは多くの部品から構成されています。クラッチハブ、クラッチシェル、複数枚あるスチールプレート・フリクションプレート…などです。それぞれの部品を紹介しはじめると、話がややこしくなってきますから、難しい話はなるべくやめて、簡単にご説明しましょう。

クラッチ内部に複数枚ある、と上で書いた2種類のプレート(スチールプレート・フリクションプレート)はプライマリーケース内部、ちょうどダービーカバーの奥に取り付けられています。このプレートは動力が伝わっている間は強い力で密着し、ミッションにエンジンで発生した力を伝えることができます。しかし、クラッチが切られると、プレート同士を密着させる力をなくし、プレートの間に隙間を作ります。そうすると動力はミッションに伝わらなくなり、ギアチェンジを行ってもミッションに負担はかかりません。

動力のON/OFFに大きな役割を果たすこのプレートは摩擦を繰り返すため、少しずつ磨耗します。プライマリーオイルの汚れには、プレートが磨耗したカスが含まれているのです。プレートの磨耗がひどくなると、クラッチが繋がった状態なのにプレート同士の密着が弱く、ミッションにうまく力が伝わりません。大げさに言うとずっと半クラの状態になっているとお考えください。この状態を「クラッチが滑る」と言います。かなりの距離を走らないとクラッチが滑ることはありませんが、都心部にお住まいでSTOP&GOが頻繁にありクラッチのON/OFFが多い方、半クラを多用し通常よりプレートに負担がかかっている方などはプレートの減りは早くなります。

また、摩擦を繰り返すプレートは当然ながら熱を持ち、これを何らかの方法で冷却してやる必要があります。「湿式クラッチ」という方式を採用しているハーレーはプレートの冷却のため、プライマリーオイルを使用しています。プライマリーオイルはプライマリーチェーンの潤滑だけでなく、プレートの冷却の役割も担っているのはご存知でしたか? プレートはプライマリーオイルに(半ば)浸されているため、汚れたオイルの使用や適切ではない粘度のオイルを使用するとミッションに負担がかかったり、プレートにダメージを与えたりします。そのため、クラッチの寿命を延ばすため、適切なサイクルでプライマリーオイルを交換してやってください。

クラッチケーブルへの注油
張りの調整はこまめに!

プライマリーケースの中の話ばかり書いてしまいました。ケース内部は経験のあるメカニックに整備してもらうべきでしょうけれど、皆さんが日々、簡単にチェックできることも実はあります。それはクラッチケーブルのメンテナンスです。クラッチケーブルはプライマリーケース内のクラッチレリーズという部品に繋がっており、クラッチレバーを握ることでケーブルがクラッチレリーズの構成部品を引っ張ります。ケーブルの張りや注油が適切であればクラッチは正しい動きをするのですが、ケーブルのメンテナンスを怠ると…クラッチが正しく切れなかったり、クラッチレバーを握っていないのにケーブルが引かれっ放しの状態になっていたりします。また、クラッチケーブルの中ほどにあるゴムに覆われた調整部分から水分が浸入し、ケーブル内部のワイヤーに錆が発生することもあります。

正しくメンテナンスされたケーブルでは調整部分はグリスで守られていますが、定期的なグリスアップを怠ると、ケーブル内部へ水が浸入してしまいます。ワイヤーが錆びてしまうとクラッチが重く感じるようになり、ひどくなるとクラッチレバーを引いた際にワイヤーが切れてしまうこともあります。ケーブル内部のワイヤーへのグリスアップ、ケーブルの調整部分へのグリスアップ、張りの調整、この3点はクラッチの適切な動作と寿命に大きく関りますので、このメンテナンスは怠ってはいけません。面倒ですが、それほど難しくはないケーブル類のメンテナンスを心がけてやらないと、プライマリーケースを開けるような大掛かりな修理が必要になってしまいますよ。ケーブルのメンテナンスなど安いもの。こまめなメンテナンスが高くついてしまう大きなトラブルを防止してくれるのです。

プロフィール
近藤 弘光

53歳。1979年に「モトスポーツ」を創業。ショベルヘッドが新車の頃からツインカムが現行の今までハーレー業界の第一線で活躍している。オートバイを愛するが故に規制対応マフラー「ECCTOS」やオリジナルエンジン「U-TWIN」の開発に携わる情熱家でもある。

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