VIRGIN HARLEY |  第3回 超自由化フルチューンCVキャブレター開発秘話

第3回 超自由化

  • 掲載日/ 2005年08月28日【フルチューンCVキャブレター開発秘話】
  • 執筆/保浦 清己
フルチューンCVキャブレター開発秘話の画像

自分たちのために
造りあげたキャブレター

15種類ものラインアップが出来上がったプロトタイプのフルチューンCV。それを絞り込む作業に取り掛かり、数えきれないほどダイノマシンでのデータ取りを行いました。しかし、絞り込みを行う過程で、実際にプロトタイプを取り付け試乗を繰り返すことを重視しました。というのも、シャシダイナモでは2000回転以下のデータは正確に読み取れないことがあり、また、たとえデータ上では満足がいくモノであっても実際に走ってみると「感覚的に」満足がいかないことも度々あったからです。しかも、この非常に判断が難しい極低回転~低回転域は、ハーレーでは中速~高回転域以上に使用頻度が高い回転数。シャシダイナモに頼らず、試乗を行って妥協のない結果を求めたわけです。

極低回転~低回転域の試乗は、峠道で行うアクセルのオンオフ、GO&STOPが頻繁に繰り返される渋滞など、頻繁に走行されるであろう環境のもとで試乗を繰り返し、その結果「データ上」も「乗った感覚」でも満足が行くモノを完成させることができました。「5速60kmくらいでドコドコ走るのが一番気持ちいい」そうおっしゃるハーレー乗りの方は多くいらっしゃいます。この「5速で60km」は私どもが一番苦労した1500~2000回転に当たります。ハーレーを走る際にもっとも楽しめる、もっとも美味しい回転数なのです。フルチューンCVはこの回転数をいかに楽しめるのかにこだわり抜かれています。1500回転からアクセルを少し開けると、「ズドドド…」と力強く、ハーレーらしい加速や鼓動を楽しむことがでるのです。

この今でさえ
フルチューンCVは進化しています

ついに完成したフルチューンCVには多いに自信を持っていました。しかし、世のハーレー乗りの方々がフルチューンCVをどう評価するのか…今でこそフルチューンCVを知ってくださっている方は増えてきましたが、販売を始めた当初は知名度ゼロからのスタートでした。チューンされたCVキャブレターを求めている方がどれほどいるのか、それすらもわからないままのスタートです。フルチューンCVの販売を開始し、我々が再確認したのは「CVキャブレターを求めている人は、確かにいる」ということでした。なぜなら、購入後はご自分のCVキャブレターを送っていただき、加工後にお戻しする、フルチューンCVはそういう方法を取っているのですが、送っていただいたCVキャブレターには、加工が施されているものも多くあったからです。「CVキャブレターを何とかしたい」そう思う方は少なからずいたのです。

フルチューンを購入していただいた方とは製品のお送り後も細かく連絡を取らせていただき、車両の仕様に合わせてセッティングを変えてみたり、送り返していただいてチューンし直してみたり、品質の向上を目指しました。シャシダイナモや試乗などのテストを繰り返したとは言え、「感覚的な」乗り味についてはもっと多くのご意見をいただきたかったのです。そうやって、フルチューンCVはさらに進化することができました。もちろん最初に販売したモノが中途半端なものだったわけではありません。「昨日より少しでもいいモノを」そうやって追求し、フルチューンCVはこの今でも少しずつ進化しているのです。

新しいモノを造り出すためには
「超自由化」の考え方が必要になのでは

さて、最後になりましたのでフルチューンCVの製作過程を振り返ってみましょう。製作過程において、最も大切だったのは「バランスが取れたCVキャブレターを造ること」でした。バランスが取れている状態とは「良いセッティングが出ている」ということです。「良いセッティング」とは「エンジンの状態に合った適切な量のガソリンが、タイミングよく供給されている」ということです。このバランスを整えることができたからこそ、CVが本来持っている素晴らしい性能を引き出すことができました。そして「バランスが取れている」ことと同じくらい「フィーリング」にもこだわりました。データでは測ることができない、極低回転~低回転域でアクセルを捻った際のハーレーだからこそ楽しめるフィーリング。CVキャブレターだからこそ感じられる優しいフィーリング。

「バランス」と「フィーリング」、この2つを備えたキャブレターの完成を目指していたのです。これを両立するためには、根本的な解決にはつながらない一部の部品の交換という方法では実現できなかったでしょう。そのためCVキャブレターのコンセプトから見直し、純正部品が最大限活動できる環境を模索することから始めました。純正システムを一から見直すこと、私どもはこれを「超自由化」と名付けました。システムの束縛からCVキャブレターを解き放ってやることで、特性・特徴共にCVキャブレターのシステムを最大限発揮させることに初めて成功したのです。キャブレターやカスタムに限らず、新しいモノを造り出すためには「今あるものを一から見直すこと=超自由化」の考え方が必要になってくるのでは、近頃私はそう考えています。

話が少しずれてしまいました。私どもがフルチューンCVの開発を始めた頃、さんざんの評価だったCVキャブレターは最近になって見直され始めているようです。少し前まではフルチューンCVについて問い合わせをいただくと「今さらなぜCVキャブレターなのか」を説明することから始めなければいけませんでした。しかし、今は「CVキャブレターがいいのはわかっている、なぜフルチューンCVがいいのか」の説明から始めることが多くなってきました。CVキャブレターがなぜハーレーに純正に採用されていたのか、その意味が理解されはじめたのでしょうか。もちろん、キャブレターの選択において、フルチューンCVだけがゴールではありません。「自分にはHSRやFCRが一番合う」それも一つの答えです。

さまざまなキャブレター、チューニングパーツを実際に試し、良し悪しを体感し、長く乗ってみた上で「ひょっとして自分にはCVキャブレターが一番合うのでは」そう思われる方にフルチューンCVを試していただければ考えています。純正キャブレターからいきなりフルチューンCVを選択したとしても、違いは体感できます。しかし、他のキャブレターを試した上で、フルチューンCVを選んでいただいた方がキャブレターのコンセプトの違いはよりご理解いただけるでしょう。「楽しく」、「扱いやすく」、「爽快」なキャブレター、心底ハーレーが好きで、CVに惚れた人間が創ったチューニングCV、それがフルチューンCVです。好きで造った製品で皆さんに喜んでいただければ、これほど嬉しいことはありません。

プロフィール
保浦 清己

53歳。96年に「45degree」を創業。ハーレーの可能性を探求することに情熱をかけ、日本国内の製品のみならず、海外の製品にまで精通し、多くのハーレー乗りの信頼を集めている。また、自らの知識を隠すことはなく、多くの初心者に向けてハーレーのイロハを執筆している「WEBページ」は人気を集めている。

関連する記事

ピックアップ情報