スポーツスターのエンジン。
エンジンのオーバーホール(O/H)作業……これは2年生の授業でも1~2位を争うほどの内容の濃い、超難易度Aクラスの授業です。体力的にというより精神的にヘビーです。ひとつとしてミスが許されず、集中力が限界状態になるのです。作業自体は車両からエンジンを取り外し、分解してまた組み直すというものですが、今回は授業中に起きたある学生のエピソードを話したいと思います。
この学生は地方出身で、独り暮らしをしています。一年生の秋頃から遅刻や欠席が多くなってきてしまい、いろいろ指導もしましたがなかなか改善されませんでした。二年生になってからは遅刻や早退もなくなってきました。O/Hの授業の2日目、「体調が悪いので、行けるようなら行きます」と連絡がありました。私は以前のこともあったので心配になったのですが、彼は12時20分に登校しました。午前の授業は12時30分に終了します。大概の学生なら午後からの授業に合わせて登校してくるので、私は「なんで10分しかないのに?」と一瞬思いましたが、気にすることもなく午前の授業を終えました。
ひとまわり大きくなりました。
午後も引き続きO/Hの授業です。ここでの作業は二人でおこなうのでチームワークが重要です。もし一人が欠席するようなことがあれば作業は大幅に遅れてしまいます。学生から「終わりました」と申告があると、私が車両のチェックを行います。不具合があればやり直しをさせます。
彼のペアでも不具合が見つかり、やり直しをするように言いました。彼の相方は面倒臭そうに「このぐらいいいじゃないですか」と甘えていましたが、彼はこう言いました。
「今、失敗してよかった。仕事中に失敗したら大変だった」
この言葉を聞いて12時20分に登校した理由がわかりました。それは、「10分でも無駄にしない」という気持ちがあったからでしょう。休みがちで心配な時期もありましたが、就職先も決まり、「意識が大きく変化したのだな」としみじみ思いました。また、私もいろいろ悩みながら彼に指導してきたことが実を結んだと実感しました。