今回よりさまざまなシチュエーションに応じた実践的なセッティングをご説明していきます。まずはライダーなら誰もが楽しみたいと思うロングツーリング編です。“ひとり乗りで長距離を走る”という状況は、ストップ&ゴーが多い街乗りとは走行状態から何からまるで違います。そのため、ライダーの体に与えられる負担に大きく関与するサスペンションの設定は必須項目! セッティング可能なサスを取り付けられている方は、今回のコラムは必読です。
小瀧さんにヒアリングしたところ、前回のセッティングから200~300キロほど走行したそうですが、早速沈み込みをチェックしましょう。……ほぉ、タイラップがバンプから数ミリのところまで落ち込んでいるなど、いい感じに沈み込んでいます。理想は小指一本分のスペースが空いているぐらいがちょうどいいんですが、全然問題ありませんね。前回は街乗り仕様を前提に調整しましたので、今回はソロで行くロングツーリングに合わせたセッティングを行いましょう。
基本仕様である街乗り設定の場合は、前回のコラムでご説明したようなセッティングで問題ないのですが、今回のツーリングをはじめシチュエーションに幅が出てくると男性・女性によるライディングの差というものが出てきます。特に被験者である小瀧さんは日本人女性に多い小柄な体型なので、そこに気を配る必要がありますね。
プリロードを掛け気味に設定する
プリロードを抜いてしなやかにする
男女の違いとしてもっとも大きいのは「荷重の掛かり方」ですね。特にブレーキング時などがそうですが、男性の方が力があるので、その分荷重が生み出すパワーに差が出てくるのです。小瀧さんのリアショックはスプリング長が193ミリなので、ここから2回転抜いて196ミリに伸ばしてやります。男性だと逆に1回転ほど締めてあげるといいでしょう。
セッティングを行った直後に環八通りを1キロほど往復したときはそれほど変化を感じませんでしたが、第三京浜に乗って神奈川方面まで長距離走行をした際には、「あれ?前より滑らかになったかな」という感覚がありました。特に高速道路の継ぎ目や轍(わだち)に入ったときの衝撃が、いつもより柔らかい感じがしたんです。きっと航続距離が長くなればなるほど、体感する度合いは変わってくるのかもしれませんね。
以前もお話ししたかと思いますが、セッティングできるリアショックの最大の魅力は、こうして状況に応じて乗り味を変えられることです。状況によってバイクやライダーに掛かる衝撃や負担が違うのは当然のことで、“セッティングできるかできないか”という点が、長く愛車と付き合い続けていく上で差となってくるケースがあります。今回は「ツーリング」というカテゴリで括らせていただきましたが、次回ご紹介するタンデムツーリングや大きな荷物を載せるキャンプツーリングなど、バイクそのものにかかる荷重によって違いが生じます。こうした状況の違いを楽しめるのが、リアショックのセッティングと言えるでしょう。
若い頃からさまざまなバイクを乗り継いできた、根っからのバイク好き。現在はスウェーデンのサスペンション『オーリンズ』のアジア・ディストリビューションである『カロッツェリアジャパン』の社員として、同社が運営するオーリンズ・サスの販売店『ウノパーウノ』尾山台店の店長を務める。