2007年をもって、ハーレーダビッドソンの全モデルにインジェクション機能が搭載されたことは皆さんご存知でしょう。インジェクション化が始まったのは1990年代半ばのことで、すでに10年以上の歴史を持つようになっているわけですが、その流れからインジェクション機能に対応するカスタムパーツなども登場するようになり、各社のラインナップも充実してきています。そこで今回は改めてインジェクション機能の基礎的な部分を整理し、知っておきたい知識やチューニング機器の特性について紹介していきます。
まずは基本的な部分を改めて解説していきます。インジェクションの正式名称は[EFI(Electronic Fuel Injection)]と言い、日本語にすると[電子制御型 燃料噴射システム]ということになります(※下記[ インジェクション ]参照)。それまで キャブレター と呼ばれる機械式のガス供給量の調整をコンピューター制御とするシステムのことで、プラグから火花を飛ばす点火タイミングの調整も行います。このシステム導入により、エンジンの状態に合った理想的な点火タイミングをコンピューターで制御できるようになるなど、バイクにとってより良い状態をキープすることができます。
また排気ガス規制や騒音規制にも対応するため、規制の基準値をクリアできる数値設定となっているところもインジェクションならでは。ただし、当然のことながら数値設定はノーマルのマフラーやエアクリーナーを装着した状態になっているので、吸排気系パーツを交換した際はそのパーツに合わせた数値に書き換えねばなりません。書き換えないままにすると、バランスの良いエネルギー供給が行われなくなるので、吸排気のカスタムを考えている現行モデルオーナーはこの点にご注意ください。
ROMチューン(データの書き換え)本来の目的は、理想的な空燃費を実現し、無駄なくガスを燃焼させて適切なパワーを生み出すことにあります。この目的に沿ったデータ更新を行えば、排気ガスに未燃焼ガスが混ざったり、不完全燃焼の結果生まれる有毒物質が発生することはなく、クリーンな排気ガスが排出されます。なので、変更するデータによってはノーマルのままでも排ガス検査に通ることができます(フィーリングの変化を目的とした、理想的な空燃費から外れたデータ更新を行った場合はその限りではありません)。ただし排ガス検査に通ったとしても、ガスそのものが濃くなれば排気音は上がりますので、騒音検査に引っかかる可能性があります。ご注意ください。
今し方、インジェクションシステムの目的は「理想的な空燃費を実現し、無駄なくガスを燃焼させて適切なパワーを生み出すこと」と述べましたが、これはあくまで日本における排ガス規制と騒音規制をクリアすることを前提にセッティングされている数値です。このインジェクションをチューニングするということは、コンピューターの設定基準を「規制」に合わせるのではなく、「エンジンに対して最適なエネルギーを送り込むこと」に変えることを意味しています。チューニングのメリットは以下のようなものが挙げられます。
1.燃焼効率の最適化
2.好みのエンジンフィーリングに合わせられる
3.アイドリング回転数の調整
これによってエンジン本来のポテンシャルを引き出してやることができます。また吸排気系パーツがノーマルのままでも、ECM(Engine Control Module)を交換するだけでその違いを体感することができます。このチューニングを行うにあたって、まずは大きく2つに分けられる「フルコン」と「サブコン」の違いについて知る必要があります。
前述したとおり、チューニング用機器は「フルコン」と「サブコン」の2種類に分かれます。両者の内容は以下のようになります。
ノーマルのECMを取り外し、コンピューターを丸ごと交換するシステム。
フルコン系パーツの場合、コンピューターそのものを交換するため高価な価格設定になっています。翻ってサブコンは従来のコンピューターの設定を書き換えるというやり方なので、おおよそフルコンの半額ほどの価格設定となっており、その手ごろ感はメリットと言っていいでしょう。ただし本体を流用するサブコンだとノーマルデータを基準とするので大きな書き換えを行うには至りません。その点で言えばフルコンはエンジンにとってより良い設定とされているので自由にデータ変更ができ、そして好みのフィーリングを手に入れることができます。排気システムの変更やデータの微調整といったちょっとした書き換えだけならサブコンでコントロールできますが、旧車の特徴として挙げられる3拍子の実現もフルコンなら可能と言われています。こういった点が価格差に出ているのです。
このように、それぞれに特徴と価格設定等が違っていますので、まずは自身のハーレーライフの楽しみ方を考慮し、インジェクションチューニングに精通したプロにいろいろ相談してみてください。
フルコン系カスタムパーツへの交換に際して注意しておきたい点、それは2007年以降のモデルに関してはフルコン系パーツと合わせて「O2センサー」も交換せねばならない点です(2006年以前のインジェクションモデルにはO2センサーが取り付けられていないので、その限りではありません)。O2センサーについて、以下にまとめました。
エギゾーストパイプの排気口近くに取り付けられている排気ガス中の酸素濃度を検知する機器のことで、燃焼状況に異常があるとデータを自動的に補正してくれる。このセンサーは2つのタイプに分けられる。
ナローバンド型
調整幅が狭いタイプのセンサー
ワイドバンド型
広い範囲でのズレを調整するタイプのセンサー
ハーレー純正にはナローバンド型が装着されています。どちらの型にせよ、フルコンに交換して設定そのものが変わる場合は、同時にO2センサーも交換せねばならなくなるわけです。
実際に今、フルコン系パーツによるインジェクションチューニングを検討している人は、一度チューニング機器を取り扱っているショップに相談してみてください。例えば、排気ガスの酸素濃度が濃いまま走行を続けるとO2センサーが機能しなくなる、というトラブルを引き起こすことになります。この点についてはご注意ください。
インジェクションのデータ書き換えについては、接続ケーブルでパソコンとつないでデータの更新作業を行うことが可能です。バイクの元にコンピューターを持っていく必要があるので、ノートPCだと便利ですね。更新データは、チューニングパーツを手掛ける各メーカーがウェブサイトにて最新情報を公開しており、誰でもダウンロードできるようになっています。キャブレター仕様モデルと比べるとセッティング方法は実にカンタンで、自分の好みやそのときの気分でセッティングを変えられる面白さがあると言えます。
このように、オーナー自身がメーカーのウェブサイトで手に入れたデータを用いて書き換えを行える手軽さがインジェクションのメリットですが、一般の人が理想のセッティングに近づけていく作業にはかなりの時間を要します。というのも、ゼロの状態から暗中模索の状態で進めていくわけですからポイントが定められませんし、一般の方がセッティングの細かな部分を体感して作業を進める……というのは至難の業です。ベストな選択肢としては、ダイノマシン(※)を有したプロショップでパワーチェックをしながらセッティングを行うことです。現在一部のショップなどがチューニング用データを豊富に有しているので、好みの乗り味に合わせてチューニングすることが可能です。当然ながら工賃が発生するわけですが、手探りで途方もない時間をかけて作業し続けることを考えると、適切な選択肢だと思います。またデータそのものの信頼度についても、プロショップなら安心できるというもの。ある程度のセッティングまではプロに依頼し、経験を積んでから少しずつ自分で触っていくというのがベストでしょう。
ダイノマシンには高級品と廉価版の2種類があり、廉価版だとフルスロットル時のデータ計測しかできないのです。インジェクションチューニングという細かなセッティングを煮詰めていくには、アクセル開度に応じて細かくデータが計測できる高級品のダイノマシンが適しています。この点も注意事項としてご留意ください。