排気量アップや吸排気チューニングなど、エンジンのパフォーマンスアップといえば、一般的には「高い馬力でハイスピードクルージングを楽しむもの」というイメージで語られることが多い。圧倒的なパワーで国産スポーツを相手に互角かそれ以上のスピードで走り抜けるのは、確かに大きな快感ともいえるものだろう。
ここに紹介する FLTRX ロードグライドも、まさに圧倒的パワーを誇る1台だ。2012年式の新車をベースに、エンジンはスクリーミンイーグル 120R を投入し、排気量は約 2,000cc にまでアップ。注目すべきがエンジンサイドに陣取るターボシステムで、トラスク製キットをベースにワンオフでセット。さらに吸気システムに目を移すと、コンピューターは純正ながらパワーピジョンを使用することでフルコン化を果たし、デストロイヤー用インジェクターやスロットルボディの強化なども加わって、大排気量エンジン+ターボキットによる圧倒的なパワーに対応できうる吸気体制を整えている。
このセットアップによる後輪出力はなんと165馬力! じつに国産スーパースポーツに匹敵するパワーを発揮しているのだ。これだけのチューンナップが施されたのであれば、オーナーはずいぶん飛ばすのかと思いきや、ビルダーの栗原 和也氏は首を横に振る。
「チューニングとはスピードを出すためだけでなく、そのセッティングのやり方次第ではバイクの保護にもなるんです」
つまり、250cc と 1,000cc ではツーリングでの疲れ方がまったく違うのと同じで、それはつまりバイクにパワーがあり、エンジンに余裕があるから。そう、ここまでのパフォーマンスアップが図られているのは、あくまでも高品質なツアラーとしての資質を満たすためなのである。
また、カスタムにはバランスが重要だということも忘れてはならない。このマシンでは、前後サスペンションに 45 ディグリーズオリジナルのハイパープロスプリングとオーリンズリアサスを投入。圧倒的パワーを受け止める足周りとなっている。もちろん、オリジナルペイントやアレンネス製ホイール、クロコダイルとオーストリッチのレザーを使った贅沢なシートなど、外装の見どころも数多い。
こうしてロードグライドらしさを十二分に残しつつ、あらゆるディテールをスケールアップしたシャフトのマシン……派手なギミックを持ちながらも、そこにあるのは至極真っ当な「正常進化」。ビルダーの高い見識がもたらした1台だと言えるだろう。