「ハーレーダビッドソンの歴史の流れを見て、生まれてくるべきモデル──そんなイメージで作ったんだ」
そういって朗らかに笑うのは、この一台を手がけたビルダー 河内山 智氏。ハーレーの古い歴史を知る人ならお分かりかと思うが、イメージソースは1960~1970年代にかけて活躍したファクトリーロードレーサー KRTT。ハーレーダビッドソン ミュージアムにも展示されている名車は、当時ホンダCB750やBSAの3気筒をライバルに米ロードレースでしのぎを削っていたほどで、その歴史のなかでもひと際まばゆい輝きを放っている。アメリカでは、ダートトラックレーサー XR750をベースにKRTT風レーサーでワンメイクレースを楽しむ人が多いと聞くが、「古いモデルをベースに組み立てるのはありきたり。“今、生まれるべきレーサー”がコンセプトだから」(河内山氏)と、ベースモデルにあえてXR1200をチョイス。ドラッグレース参戦を見据えての選択でもあるが、曰く「ハーレーにレーシングスピリットが残っていれば、XR1200はこういう姿になっていた、というイメージが俺のなかにあるんだ。それを形にしただけ」という。
ロケットカウルやワンオフタンク、ワンオフのシートカウルのインパクトが強い一台だが、「基本的にノーマルを活かしている。だってコンセプトは“メーカーから生まれるべき一台”だからね」と河内山氏は語る。確かによく見てみると、レース参戦モデルゆえ前後サスペンションやディスクローターなどはグレードの高いパーツが驕られているが、フロントフォークやホイール、スイングアーム、ステップなどはノーマルのまま。「最小限の手入れで、最大限の効果を狙う」という言葉どおり、XR1200本来の良さはしっかりと息づいている。
マフラーをバンス&ハインズ製とし、BURN!H-D Sports 奥川 潔氏と徹底的に煮詰めたというサンダーマックスでのフルチューン(ノーマル54馬力⇒86.6馬力までアップ)によって、そのパフォーマンスはハーレーの域をはるか超えたところまで引き出されている。それでいて、いわゆるVツインエンジンらしい味わい深さも秘めており、「今なおハーレーがロードレースに参戦していたら、こういうモデルが生み出されていたんだろうな」という想いが頭をよぎる。
「俺たちはモノを作っているんじゃない、コトを生み出すためのモノづくりをやっているんだよ。“オートバイの世界は面白い、ハーレーの世界は面白い”、そういうことが広がっていくための何かが生まれてくれたら最高──。そんなことを考えながら、このXR1200TTを作ったんだ」
ビルダーの迸る情熱を注ぎ込まれた歴史の申し子。この一台からは、カンパニーが忘れつつある輝かしい伝統そのものがにじみ出ているようだ。