自分で考え、ものを作るというのは、自己表現のひとつである。人と同じではつまらない、独自のアイディアを盛り込みたい、それはカスタムやチューニングを手掛ける際、作り手側にいる誰もが思うことではないだろうか。ここで紹介する XR1200 には、部分的にだがビルダーの遊び心を反映した作りが与えられている。それは、フロント 19 インチ/リア 18 インチのホイールサイズである。
一国サイクルワークスが製作した XR は、外装から足周りまで手が入る美しい仕上がりを持つが、個性として注目したいのは大径化されたホイールで、これが走りの印象を独自のものに仕上げている。ノーマル XR のホイールサイズは、フロント 18 、リア 17 インチだから前後とも1サイズアップだが、これが非常に安定感の高いハンドリングを生んでいる。
全体的な雰囲気はいかにもレーシーで飛ばしてナンボな雰囲気を持つが、走れば実のところとても快適な乗り心地を持ち、ツーリングでも苦痛なく距離を稼げる仕様になっている。オーナーは製作者でもある一国サイクルワークスの代表・梅島国彦氏で、普段から自分の足として使用。ツーリングをメインに、通勤、時々ワインディングというオールマイティな使い方をしている。
「街乗りのほうが多いですから、基本的によく動く足周りにしています。日常で使うのにゴツゴツ不快な動きにしたくないので。このままワインディングに行くと、少々動き過ぎるかもしれませんよ」
そんなアドバイスをもらい、預かった車両を山で走らせてみると、確かによく動く足周りなのだが、動き過ぎてバランスを崩すということはなく、ソツのないまとまりを見せる。エンジン本体はストックで吸排気だけの変更だから、ノーマルより少々ツキがよく、元気に回るという印象。パワーの出方に唐突なものがなくフラットな特性で少々物足りないくらい。
梅島氏もよくバイクに乗る人で、自身でレース出場の経験もあるから、スポーツ走行好きの店主である。そんな人の足代わりとなっている XR は、ペースを上げても柔らかい動きながら奥ではしっかり踏ん張るから、コーナリング中に腰砕けになることもなく、安心して旋回を楽しむことができる。ペースを上げるとややアンダー気味 (少しずつ外にはらむ) になるが、これも唐突ではないから動きとしてはわかりやすい。
そしてインチアップしたホイールの効果だが、車体全体の安定感がとても高い。速度を上げるほどに顕著になるから、おそらく大径化に伴うジャイロ効果の増大 (遠心力の影響で安定感が増す) だと思う。バイクが路面に貼り付いている印象が強く、試すチャンスはなかったがこれなら荒れている路面など多少の外乱にも強そうだ。このどっしりした操縦性は他の XR にはない乗り味で、例えるなら 70 ~ 80 年体のカワサキ Z やホンダ CB のような乗り味に近いものだと思う。
ワインディングで速度を上げると、走行中の車体姿勢がややリア下がりになるようで、登りコーナーの立ち上がり加速等、状況によってフロントの接地感が薄くなることもあったが、これは些細なこと。リアの車高を少し上げることで解消できるものだと思う。現状でも十分以上にスポーツできるし、ややタチの強さは感じるものの走る上で妨げにはならない。かなり新鮮な乗り味だった。
そしてホイールサイズの恩恵をもっとも感じたのは、高速道路である。一般道より高い速度でペースを保っているときの、ドッシリした安定感。真っ直ぐ走るだけだがバイクがしっかり立っている感覚で、ラクに走れる。個性ある工夫が走りにも反映された、ユニークな XR である。
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チューニングやカスタムには、実績あるメーカーの高性能パーツを選ぶ梅島氏。見た目だけではなく、使い勝手や性能を少しでも向上させるための工夫だが、一方でよく見るとさり気なく変わっている……という玄人好みの作りも好んで取り入れる。
「今回のホイールサイズもそうですが、換えるにしてもセオリーどおりじゃつまらないと、つい思ってしまうんです。もちろん奇抜さを狙って性能を落とすような本道から外れることはしませんし、逆にいくら性能がよくてもカッコ悪い仕上がりになるなら、そのままでは使いません。XR のホイールインチアップは、デカ足の見た目が新鮮だったことと、カスタムで主流の 17 インチ仕様に抗いたかったこと、またノーマルからインチアップしたら操縦性はどう変わるのかを試したかった。安定感も増しましたが、車高アップに伴い重心位置が上になったから、車体の動きも軽く乗りやすくなりました。希望があれば、試乗も OK ですよ」