日本のカスタムショップの草分けと言うべきショップがある。MOTORCYCLE DEN。店を20代でオープンさせて故・佐藤由紀夫は、精力的にカスタムバイクを製作。ハワイにも拠点を設け、1989年にはチタンを使用してフル・スクラッチで作り上げたTITANをカリフォルニア州オークランドのカスタムショーに持ち込み、優勝を果たしている。
DEN は都内から河口湖のほとりへと店を移転したものの、佐藤さんが不慮の事故で亡くなったのは、18年前。しかしその後も DEN が活動を続けているのはご存知のとおりである。
佐藤由紀夫亡きあと DEN を引き継ぐことになった仁田法男は、精力的にカスタムマシンを製作。DEN らしいオーソドックスなチョッパーから、独創的なフォルムのニュースクールへ徐々に視線を移し、COOL BREAKER などのカスタムショーで次々と新作を発表。数年を経て自らのショップ、JENE CHOPPERS を立ち上げた。
JOINTS の会場を歩きまわっていると、一台のオーソドックスなディガーチョッパーが目に留まる。
入念なモールディングが施されたシンプルなリジッドフレームに、クロームメッキで仕上げたアイアンスポーツ・モーターを積むそのマシンは、ベージュとクリームの明るくやわらかなペイントとあいまって、古い雑誌のページから抜け出たようなオーラを放っている。近寄ってじっくり眺めると、ディテールの端々にまで至る丁寧な作りこみがよくわかった。
作者が JENE と聞いて、ちょっと驚いた。仁田さんが自分の店を始めて以来、ベーシックなオールドスクールをショーに持ち込んだのは初めて見たからだ。それにはまさに佐藤由紀夫在りし日の DEN のバイクを思い起こさせる仕上がりで、俺たちはリスペクトを込めて HBJ ピックに選出したのだった。
後日、JENE へ。広い工場では例のディガーが鮮やかな光沢を放っていた。
さあ、走らせてみよう。マグネトー点火の4カムショベルはキック数発で目覚め、ワイルドなサウンドを奏でている。ワンオフで複雑に取り回されたジョッキーシフトをローに入れ、回転を上げ気味にクラッチをミートすると、マシンはスムーズに発進した。
スポーツベースの小柄な車体ならではのコンパクトなライディングポジション、荒々しい加速で河口湖を行く。ショベルスポーツの図太いトルクを思う存分堪能した。
自分にしかできない奇抜なスタイルから、カスタム史の教科書に載りそうな基本スタイルへ。カスタムビルダーにとって、その作品は人生そのもの。この一台はビルダー仁田法男が行き着いた、現在進行形である。