排気量1520ccのS&Sスーパーストックナックルヘッドをニッケルメッキが施されたVツイン製フレームに4SPEEDミッションとともに搭載したチョッパー。分割タンクはキャブレターサイドがフューエル、プライマリーサイドがオイルタンクとなっている。オイルタンクにはデザイン的アイコンともなるシュラウドを設置。もちろんオイルの冷却効果も期待できる機能パーツでもある。アルミの鋳造シートカウルとワンオフのシートスプリングも見逃せないディテイルだ。
手掛けたのは百戦錬磨の TASTE CONCEPT MOTOR CYCLE 代表 河内山智。この車両のコンセプトはレアパーツを排した「ノーレア」だという。つまり社外ナックルモーターを使い、ワンオフ&汎用パーツで車両を組み上げ、昨今の「ナックルヘッド=レア」という風潮に一石を投じるという狙いが隠されている。
「コンセプトを考えずにカスタムを作ることはまずない。考えて考えて、とことん考え抜く。それはオレにとって呼吸をするようなもので、体の芯まで染み付いている。でも辛いなんて思ったことは一度もない。考えることを、むしろ楽しんでいる」
何かをクリエイトしたい。大切なのは、そのアプローチだという。「オレはね、カスタムビルダーというより、いちクリエイターでありたいと思っている」
オートバイを知らない人間が見ても、心に響く車両を手掛けたい。マニアに喜ばれるより、この評価の方がハードルが高いはずだ。さらに男は続ける。
「大切なのは未完でも魅力的なこと。カスタムに100パーセントはないし、満足はないと思っている。そこに答えはないし、ゴールもない。オレは異端児だけど正統派でもある。飽き性だし、執着心みたいなものも持ち合わせていないけど、偏ったマニアにだけはなりたくないと思っている。人を驚かせたいという悪戯心みたいなものは、人より少しあるかも(笑)」
TASTE の主をひと言で表すのなら「懐が深い」という表現がぴたりとくる。物事を柔軟に捉え、多角的に見渡すことができる確かな目とブレがない軸があり、しかも大きな振り幅を持っている。それはクリエイターとしてのしなやかさと言い換えることができるはずだ。
おびただしい数のパーツやら雑貨などが押し込められた、まるでおもちゃ箱のような TASTE のアトリエ。いや、趣味のガレージと言った方がしっくりする。この空間はもはや主の体の一部であり、仕事というより生き方を物語っているように思う。TASTE という店のコンセプト、それは主の生き様だ。