こんにちは、メカニック芦田です。
前回のラスベガスH-Dの紹介から、早一ヶ月が経ちました。最近毎回の如く言っているような気がしますが、時間経過が加速度的に早くなってきていると感じています。いよいよ研修プログラムが1年を切り、日本への帰国が迫ってきたことや日本で私がやるべきこと、やらなければならないことをしっかりと整理していかなければならない…。そんな追い込みが心の中でプレッシャーをかけているからこう感じてしまうのでしょう。しかし! そんなプレッシャーの中でも楽しむことも忘れたくありません。かつて、このアメリカ修行のために壮絶な節約生活を強いられた私は、自分のハーレーのカスタムを一切行わずに我慢してきました。寂しく残されたカスタム案はPCのファイルにそっと仕舞ってあります。けれど、研修プログラムを終えたあとはそんな心配も無くなる(はず)です! と言いつつ、ガレージ欲しさに住宅ローンの頭金を貯めようとしているのですが…(笑)。日本に帰ってまず始めたいことは、少しづつバイクを思う形に仕上げること。他にもやりたいことは山積みですが、やっぱり自分のセンスが入ったハーレーを造りあげたいですから。という訳で近頃カスタムづいているので、今回のコラムはアメリカのカスタムに関して、それに関連することについて書いてみたいと思います。
たった1年でも日本を離れていると、随分日本のことが分らなくなります。それは、それだけ日本の流行や情報の流れるスピードが速いということなのでしょう。日本のハーレーシーンで何が起こっているのか、正直なところ全く分りません。先日、私の両親がラスベガスを訪問して来てくれた折、日本のバイク雑誌を何冊か置いていってくれました。久しぶりに見る日本のハーレーシーンは出国前に「今後こうなっていくだろうな」と予想したことから大きく外れてはいませんでした。インジェクションのマップを変更、アレンジするパーツが随分広告に出るようになっています。やはりインジェクションの面白さが徐々に浸透してきている傾向なのでしょうね。キャブレターももちろん面白いですが、インジェクションにも独特の面白みがありますからね。テレビゲーム感覚で乗り味を変更できるインジェクションチューンは、一度やれば病み付きになるでしょう。ただ、深い意味でインジェクション極めるのはプロであっても非常に困難なことですけれど…。また、日本のショップが独自に出しているパーツなども、見慣れていた当時と比べてパーツの細かなシェイプに日本人らしさを感じてしまうことに気付きました。「こんなシェイプ、アメリカ人には絶対作れないな!」と感じるところがあったのです。かつて、日本にいたときにはアメリカ人の大胆な発想のカスタムに目から鱗を落としたものですが、それと逆のことを、アメリカで日本人の私が感じています(笑)。
私は毎日当然のごとく、コテコテのアメリカ製のカスタムパーツやカスタム車両と向き合います。しかし、それを見ていると日本とアメリカのカスタム車両には歴然たる違いを見受けました。カスタムする時の傾向も、流行りも、当たり前なのですが日本とはまったく違うのです。オートバイをアレンジするという単純な行為に、各々の国民性が現れているのです。これは実に面白いことです。日本とアメリカのカスタム車両のどちらがかっこ良い、悪いなどと言う気は更々ありません。何かを指して「かっこ悪い」ということは、非常に難しいことだと私は思っていますから。ただ、アメリカと日本のカスタムシーンに具体的にどのような差があるのか、を知るのは非常に面白いことですから、ここでご紹介しましょう。
規制がないに等しいアメリカでは、何百、何千種とあるパーツの1つ1つに自由な発想を盛り込むことが可能です。まず、その発想の代表例として「MORE POWER!」が挙げられるでしょう。アメリカのハーレーシーンで最もアメリカ人が好むカスタムの1つは「ハイパワー、ハイトルクをOHVのV-TWINから搾り出すカスタム」です。チョッパーシーンと肩を並べるほどに強い傾向であり、今一番アツいカスタムと言えます。アメリカ人はとても刺激が大好きな人たちです。やたらと刺激を求め、危ないとわかっていることでもやろうとします(笑)。103Cuinch(約1688cc)は当たり前、中には120、130Cuinchといった刺激的なエンジンを搭載し、それに合わせた吸排気チューンやカムの設定、インジェクションの設定を行うオーナーもいるのです。以前もご紹介しましたが、そんなハーレーに乗って彼らは狂ったようにハイウェイを疾走します。100馬力越えのハーレーなんて珍しくはなく、120馬力を超える怪物ハーレーもわんさか存在します。そんな化け物マシンでとにかく「飛ばす」ことはリスクは高く、実際にとんでもなく事故が多いのです。私自身は、10代の頃に事故で死にそうになったことがあり、今は恐ろしくスローライドを心がけるようにしています。かつての事故のおかげで今も膝に障害が残っていますから、それが自分への戒めです。皆さんがもし、アメリカのMORE POWERに触発されたとしても、くれぐれも事故にはお気を付け下さい。ご自身のことも勿論ですが、周りの大事な人に掛ける心配と迷惑と悲しみは壮絶なものですから。
次いで多いカスタムが、大陸を走り抜くためにカスタムされたバリバリのツーリング仕様。見た目はストックに近い状態ですが、細かなところに長距離を快適に走破するための装備が満載されているのが特徴。まさにツーリング大好きなライダー達のセンスが光るカスタムです。ナビゲーションシステムは当たり前、D.I.Yで製作されたウインドシールドや、ツーリングモデル独特のエキゾーストパイプからの発熱をしのぐシールド。シートにはジェル入りのマットを敷き、ハイウェイペグの位置もミリ単位でこだわります。クルーズコントロールが装備されていない車両に、クルーズコントロールを装着する率もかなり高く、私の作業ブースには取り外されたスイッチハウジング(クルーズコントロールを装着する際、スイッチハウジングに専用スイッチを装着する必要性があるんです)が沢山転がっています。ここまでのこだわりを見せるツーリングライダーの中には、走行距離が10万マイル(約16万キロ)を越えた強者もいました。こういったツーリング仕様の場合、シフトリンケージやホイールベアリングがとんでもない速さで消耗してしまいますので、頻繁に交換しなければなりません。私は週に3、4本はシフターの交換作業をしていますが、彼らは巨大な足で蹴るようにシフトするのでシフターの消耗が激しいのは当然なのかもしれません。シフターシャフトのスプラインも焼入れしてしまった方がいいかもしれませんね・笑(マニアックな話でゴメンなさい…)。
また、黒人のハーレー乗りにも独特のカスタムシーンがあることをお伝えしようと思います。このカスタムの傾向として、ツーリングモデルをベースに外装は派手にペイントされていることが挙げられます。ペイントは非常に明るい配色で、同じ物は2つと無いと言わんばかりのデザインが施されます。もちろん、メッキパーツもふんだんに取り付けられます。ホイールはフロント21インチ、リア19インチなどの大口径のものに変更されることが多いですね。ホイールデザインも非常に派手で、独特なスポークの形状を装着しているため、タイヤ交換時には相当な集中力を要します。ただのタイヤ交換なのに何でこんなに気を遣わないといけないのか、と何度も天を仰いだものです(笑)。外装以外にも驚きの装備は盛りだくさん、サウンドシステムについてもご紹介しましょう。スピーカはツイーター付きの3Wayの物を装着したり、高出力のアンプを搭載したりと、サウンドクオリティーにはかなりこだわっています。イコライザー付きのアフターマーケットデバイスを装着していることも多く、音楽センスが光っています。その自慢のステレオで流す曲はやはりHip Hop(笑)。低音をズンズン鳴らしながら、バイクを停めているのに音楽は流しっ放しという光景もよく見かけます。
日本からすれば珍しい例をご紹介しましたが、カスタムと一口に言っても、とてもとても紹介し切れないのが実情です。大きく流れはあれど、その流れに乗らない独自のセンスでカスタムされている方も多くいますし…。伝統的な旧車やチョッパー等ももちろん一般的ですから、カスタムジャンルを本気で細分化していけば広辞苑分くらいの文章になりそうですね! はは…。
最近、やたらとアメリカの有名人がハーレーに乗っているという情報を耳にします。実は私、かれこれ4年以上まともにテレビを見ておらず、数ヶ月に一度、1時間ほど友人宅でTVを見る程度です。ですから、有名人の名前を聞いてもほとんどの場合、その人がどんな人なのか…よく分りません(笑)。そんな折、私でも知っている超有名人、ブラッドピットがハーレーに乗っているポスターをアメリカのどこかで見かけました。本人もハーレーもさすがにカッコいいですね。彼のハーレーは非常に綺麗に造られていて、乗り手は顔は男前、服装もお洒落で非常に似合っていました(この辺りは認めておかないと嫉妬になりますゆえ)。カリフォルニアでは、一時無免許運転で話題になったシュワルツネッッガー州知事もハーレーに乗っています。カリフォルニアには芸能の聖地「ハリウッド」がありますから、きっとまだまだ多くの有名人がハーレーに乗っていることでしょう。彼らの乗るハーレー(ハーレーと言えない物もある?)は、やっぱり素晴らしいこだわりが見られます。いやらしい話ですが、経済的に妥協する必要性が無いのでとことん手間隙をかけることができるのでしょう。私もお金があり余っていれば、中古のタイヤを使ったり、中古のブレーキパッドを使ったりしません(そういうレベルの話じゃないですね・笑)。本当は、外した割りピンをもう一回使ったり、捨ててあった事故車のグリップを拾ったりしたくはありませんよ(あくまで自分のバイクにですよ・笑)! 嗚呼、やっぱり最後はお金なのでしょうか?
貧乏人の私には酷で憂鬱ですが、ここではそんなセレブ達のハーレーカスタムの傾向についても書こうと思います。セレブ達にとって妥協は必要ないため、信頼できるメカニックに「幾らかかっても良いから、徹底的にやってくれ」というオーダーをすることが多いようです。そういうオーダーだと、最終的には全てがオリジナルのバイクになることも珍しくありません(笑)。私の現場では、そういうオーダーはあまりありませんが…私が勤務するのはあくまでH-Dディーラーなので、H-Dから遠く離れてしまう車両を見ることは少ないですからね。セレブに向けたハーレーは、ボルト1本1本をステンレスに変えたり、エンジン全てを鏡の様なポリッシュにしたり(エンジンのフィンにポリッシュを完璧に掛ける作業は超職人芸です)、普通に考えれば「そこまでやるか?」というところまで、こだわっているようです。「やりたいようにできる」。そう意味ではやりたいことがあっても、経済的に叶えられないのは辛いのかもしれません。けれど、最近私は思います。物欲を満たすことで、本当に人は幸せになれるんでしょうか? 欲しい物を全て手に入れても、見てくれる人が周りに居なければ、地球を手に入れても寂しさは消えないような気がします。ノーマルのH-Dだって乗っている人が素敵なら、それだけでカッコいいものです。セレブが乗ろうと、芸能人が乗ろうと、犬が乗ろうと、そんなことはどうでもいいと思うのです。本当に大事なのは、本人が夢中になってることを見てくれたり、認めてくれたり、褒めてくれたり、一緒に夢中になってくれる、そんな人がいるかどうかじゃないでしょうか? セレブな方や芸能人の方々がいくら立派なH-Dを持っていても、もし誰も一緒に楽しんでくれなければ、きっと寂しいだろうなぁなんて思ったりする私です。でも、きっと彼らにも一緒に楽しんでくれる人もいるんだろうなぁ…(うぅ、羨ましい)。
最後に、ここまで読んで頂いた方にご理解頂きたいことがあります。それは「アメリカで行われているカスタムを、そっくりそのまま日本で行うことは非常に難しい」ということです。日本独自の車両法規制や環境問題への取り組みを無視するわけにはいきません。アメリカのカスタム車両を見て「これいいなぁ!」といくら思っても、日本で同じことをすると違反になることがあることがあります。それを無視して暴挙に出れば、明日の日本のH-Dのカスタムシーンはさらに制限が厳しくなるであろうことも知っておいて頂きたいのです。価値観や主張や表現は、自由であるべきだと思います。しかしながら、その自由とはモラルとルールの中に存在するものです。モラルとルールの一線を越えてしまえば、それは独りよがりでしかありません。それを更に自分の価値観だと言ってしまえば、極論として興味本位の殺人者だって、価値観の内に収まってしまうという恐ろしいことにもなりかねません。アメリカ人ではない私たちは、日本人として日本人のルールにのっとってカスタムを自由に表現していかなければなりません。さまざまな規制によって失うことも多々あります。けれど得ることも必ずあるはず。私は力なき一業界人ですが「創意工夫とアイデアで、これからの日本カスタムシーンを将来へと開拓していかなければならない」と、日々考えています。バイク、そしてH-Dがある限り最後まで悲観せずに楽しんでいきましょう。
それでは次回をお楽しみに!
26歳。幼少からバイクと車に興味を持ち、メカニックになることを誓う。高校中退後、四輪メカニックとして4年の経験を積み、ハーレー界に飛び込む。「HD姫路」に6年間勤務、経験と技術を積み重ねたのち「思うところがあり」渡米を決意。現在はラスベガスHDに勤務。(※プロフィールは記事掲載時点の内容です)