センタースタンドを持たないバイクをメンテする際には、スイングアームに引っかけるレーシングスタンドを用いて車体を直立させるのが一般的な手法だ。だがスポーツスターは、エンジンハンガーの「穴」を利用すると、簡単に直立&フロントの持ち上げが可能になる。それを実現するのが「オサダスタンド」である。
いじり好きのサンメカにとっては、ホイールを入念に磨いたり、ハンドル周りやスイングアームのメンテをするため、バイクの前後輪が浮くのは当然のことといっても過言ではない。だから前号、埼玉のスズヤオートで初めて目撃したフロントアップスタンド、通称オサダスタンドには深く感銘した。 センタースタンドがなく、右側マフラーがスイングアームより下側に配置されてレーシングスタンドも掛けられないスポーツスター。そのエンジンハンガーに偶然? 明けられた穴を利用して、フロントタイヤを持ち上げながら車体を直立させるオサダスタンドは、シンプルな構造で使いやすく、確実に車体を安定させるという、まさに老舗輸入車ディーラーの経験が生んだアイデア品だ。
実際、このスタンドに遭遇するまで、モディファイや走りを先に楽しんだ方が良いんじゃないの、と言われながらも、我々もどうすればスポーツスターを安定して持ち上げられるかを考えてみた。
先述の通り、純正マフラーのままではレーシングスタンドは使えないし、だからといってそのためにサイレンサーを外すのも面倒だ。エンジン下のフレームを二連パンタジャッキで持ち上げるのも、2本のフレームのピッチが狭すぎて安定感がまったくない。ハーレー用のメンテツールとして、平行リンクを利用したフォークリフトのようなジャッキもあるが、車体下部の干渉物を避けながら前後輪を同時に浮かせるのは意外に難しい。
オサダスタンドが素晴らしいのは、車体に干渉せず、強度が十分なポイントを、広いピッチで支えられるところだ。スズヤオートでの作業風景を見ても、このスタンドで支えられたスポーツスターは、タイヤを揺すろうがハンドルを左右に切ろうが抜群の安定感でビクともしない。だからフロント周りのメンテナンスは当然のことながら、パンタグラフジャッキでリアを持ち上げれば、安定した状態で前後輪をリフトアップできるのだ。
走っている時間に比べて、どれほどの頻度でメンテするのかと思うかも知れないが、ちゃんとメンテができる環境がないから乗りっぱなしになり、乗りっぱなしだからコンディションが悪くなるというのは、誰もが理解できるはず。メンテはすべてショップにお任せというなら別だが、所有する限りバイクいじりも楽しみたいなら、初期の段階で充実したメンテ環境を整えておくことが重要なのだ。
そこでオサダスタンドを参考に、我々もスポーツスター用フロントスタンドを製作した。参考といえば聞こえは良いが、あまりに的を射ているので下手な工夫はせず、そのままコピーさせていただく。スタンド本体の素材としたのは、あるレース関係者がかつて使用していたレーシングスタンドだ。製作のポイントは、エンジンハンガーハンガーの穴に通すシャフトから地面までの距離、つまりスタンドの足の長さと、スタンドの幅だ。
上げ下ろしが容易で安定感の高いスタンドがあることで、メンテ内容は格段に広がる、いじり好きのスポーツスターオーナーにはおすすめのアイテムだ。
今回のスタンド製作のネタ元になった、スズヤオートで遭遇したオサダスタンド。本家は直線的なパイプワークでシンプルな構造。マフラー側の足は、エキパイとダウンチューブの間にある。我々はエキパイの外側に足を配置したのが相違点。スズヤオートでは、スイングアームピボットとマフラーステーを利用してリアタイヤをリフトしていた。
オサダスタンドとの遭遇以前に、我々が開発した(というと大げさだ)のは、タンデムステップを正規から180度裏返して、水平位置で突っ張るように取り付け、そこをパンタグラフジャッキで持ち上げる方法。持ち上がるのはリアタイヤだが、左右のジャッキのピッチが広く取れるので、車体の安定は抜群。リアタイヤ着脱も容易。
ホイール&ベアリングのグリスアップ① で紹介しているホイールベアリングのグリスアップは、テーパーローラーベアリングを使用するこの年式のスポーツスターには必須のメンテ項目。車体が重いから気づきづらいが、意外にガタの出ている車両は多いらしい。ホイールの着脱だけでなく、フロントフォークやステムのメンテでも絶大なる効果を発揮する。